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柏・中村航輔、満を持してA代表へ。元代表・川口能活も絶賛、レイソル守護神の現在地

5/29(月) 12:09配信

フットボールチャンネル

 ハリルジャパンに初選出された柏レイソルの守護神、22歳の中村航輔が飛躍の瞬間を迎えようとしている。最後尾で絶対的な存在感を放つチームは破竹の7連勝をマークし、J1を制した2011シーズン以来となる首位に浮上した。2年前に中村とピッチで対峙した元日本代表のレジェンド、GK川口能活の言葉をあらためて紐解きながら、心技体で成長を続ける中村の現在地を追った。(取材・文:藤江直人)

親善試合シリア戦&最終予選イラク戦 日本代表メンバー

●暫定首位浮上、破竹の7連勝を達成したレイソル

 思考回路がパニック状態に陥っても、何ら不思議ではなかった。キックオフの笛が鳴り響いてから一度もマイボールになることなく、セットプレーから大宮アルディージャに先制弾を喫した。

 このとき、時計の針は2分にも到達していなかった。チーム全体が浮き足立ったのか。オフサイドでノーゴールとなったものの、直後にもカウンターからMFマテウスに完璧な突破を許してしまう。

 それでも、ハリルジャパンに初招集された柏レイソルの若き守護神、22歳の中村航輔は泰然自若としている。気を動転させるどころか、逆転勝利を確信するかのように、心のなかでこう言い聞かせていた。

「失点するなら、早い時間帯ほどいい。流れはウチに来ている」

 究極のプラス思考と呼ぶべきか。後半アディショナルタイムの最後のプレーでゴールを割られ、連続無失点試合が「4」に伸びる直前で途切れた5月14日のFC東京戦後にも、こんな言葉を残していた。

「記録だけを求めて戦っているわけではない。一度途切れた方が個人的にはいい」

 アルディージャをホームの日立柏サッカー場に迎えた27日のJ1第13節。ACL出場クラブの試合が組まれていない関係で、レイソルが勝てばガンバ大阪を抜いて、暫定首位に立つことがわかっていた。

 期待して詰めかけたファンやサポーターを驚かせる幕開けとなった一戦はしかし、中村が思い描いた通りの展開となる。前半のうちに追いつき、後半に入ると怒涛の3連続ゴールで一気に試合を決める。

 これで破竹の7連勝を達成。開幕節を除けば、初のJ1制覇を成就させた2011シーズン以来となる首位に立った。それでも、ピッチを離れれば驚くほど寡黙になる男は冷静だった。

「試合が始まる前から、勝てばそういう状況になることはわかっていたので。前半からウチに多くの決定機があったなかで、ミス絡みで同点に追いつくことができた。そういう流れがあったと思うし、後半は相手の隙を狙って得点を重ねていこうということで試合に入りました」

●「ここ最近、素晴らしいクオリティーを見せてくれている」(ハリルホジッチ監督)

 昨夏のリオデジャネイロ五輪。グループリーグ第2戦からゴールマウスを守り、ナイジェリア代表との初戦を4‐5の打ち合いの末に落としていたU-23日本代表を最後尾から立て直した。

 残念ながら決勝トーナメントへ進めなかったものの、スウェーデン代表との第3戦では相手をシャットアウト。株をあげた中村は、同年11月に実施されたキーパーのみの日本代表候補合宿に招集される。

 UAE(アラブ首長国連邦)、タイ両代表に連勝した3月のワールドカップ・アジア最終予選でも、中村はバックアップメンバーに名前を連ねた。中村自身、A代表との距離が狭まったと感じていた。

「もしかしたら考えてくれているのかな、とは思っていました。チームが上位にいますので、そういう流れが個人的にも来ているのかなと」

 都内で25日に行われた代表メンバー発表会見。常連だった西川周作(浦和レッズ)を外し、5番手前後だった中村を抜擢した理由を、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督はこう説明している。

「長くニシ(西川)と林(彰洋=FC東京)も追跡してきたが、いま現在の彼らのパフォーマンスには満足していない。若い選手を合宿に呼ぶ。ここ最近、素晴らしいクオリティーを見せてくれている。柏は上位につけているが、彼のプレーによるところも大きいのではないか」

●五輪からステップアップした先駆者・川口能活が語る中村航輔

 五輪で演じた好パフォーマンスを手土産にするかたちで、年齢無制限となるA代表での戦いへステップアップを果たした先駆者として川口能活(SC相模原)があげられる。

 1996年のアトランタ五輪。いまも「マイアミの奇跡」として語り継がれるブラジル代表戦で、1‐0の完封勝利の立役者とった川口は同年8月のウルグアイ代表戦で、21歳にしてA代表に抜擢されている。

 以来、ゴールキーパーでは最多の116キャップを獲得。4度のワールドカップ代表に選出されたレジェンドと中村は一度だけ、2015年11月23日にJリーグのピッチで敵味方として対峙している。

 舞台はJ2最終節。川口はその年限りで退団するFC岐阜の、中村は出場機会を求めて期限付き移籍していたアビスパ福岡のゴールマウスをそれぞれ守っていた。

 試合は4‐1でアビスパが快勝し、3位を確保してJ1昇格プレーオフに進出。最終的に昇格を果たしている。20歳も年下の中村への印象を問われた川口は「いいキーパーですよね」と、こう続けている。

「僕が20歳くらいのころは、井原(正巳)さんや小村(徳男)さんに支えられながらも、自分が将来、代表のゴールマウスを守りたいという野心をもってプレーしていた。彼もそういう気持ちでやってほしいし、そうなる資質はあると思う」

 図らずも中村は、胸中に野心にも近い思いを抱いていた。レイソルでビッグセーブを連発してきた今シーズン。A代表入りへ向けた、執念にも近い本音を吐露したことがある。

「そこを目指すのは、当たり前のことだと思っているので。何とかして入りたい」

 技術面はどうか。「彼が考えてやっているかはわからないですけど」と前置きしたうえで、川口はゴールキーパー独自の視点で中村のセービングをこう絶賛していた。

「マニアックな話になると、細かくステップを踏みながら、上手くポジション修正をしてシュートコースに入れる技術をもっている。ただ単にセーブしているだけではないと思います」

●「いまは若いし、どんどんアグレッシブにトライしてほしい」(川口能活)

 たとえば5月6日のセレッソ大阪戦。試合終了間際に清武弘嗣がペナルティーエリアのぎりぎりから放ったシュートは味方の足に当たって大きくコースを変えて、それでも枠のなかへ飛んできた。

 中村は体勢を崩しながらも必死に踏ん張り、ジャンプしながら左手をボールに触れさせてコーナーキックに逃れた。川口が指摘した細かくステップを踏む技術を、さらにスケールアップさせていたわけだ。

 この場面ではボールという獲物を追う、まるで獣のような反応の速さも見せている。5月20日のジュビロ磐田戦では中村俊輔の十八番、直接フリーキックも完璧な反応から弾き返した。

 川口は神懸かり的なセーブを連発したアトランタ五輪出場を決めたアジア最終予選から、「炎の守護神」という異名とともに絶対的な存在へ登り詰めた。若い選手には欠かせないプロセスだと指摘する。

「いまはまだ年齢が若い分、勢いもあると思う。その勢いがあるときにインパクトを残して、自分はこういうゴールキーパーだとアピールしていけば、周囲からの信頼も勝ち得られる。壁にぶち当たったときは、上手く軌道修正すればいい。いまは若いし、どんどんアグレッシブにトライしてほしい」

 すでに中村は、レイソルの最後尾で絶対的な存在感を放ちつつある。何度もチームの窮地を救ってきたからこそ、不用意な失点を喫したアルディージャ戦では取り返してやろうと周囲が逆に奮起した。

●若き守護神にいま、訪れようとしている飛躍の瞬間

 後半に入って勝ち越しとダメ押しのゴールを連発。FWクリスティアーノが決めたトドメの4点目もアシストした、FW武富孝介は中村が代表入りした相乗効果を指摘する。

「自分たちとしては『航輔が入るだろうな』と思っていたし、やはり刺激にもなりますよね。代表に選ばれたい気持ちは、みんなもっているはずなので。これまでは航輔のおかげで勝てた試合もありましたけど、今日はチーム全員で勝てた。その意味でも、大きな1勝だったのかなと」

 終了間際に1点を返され、4月8日の清水エスパルス戦以来、通算3度目の複数失点を許した。それでも中村は次の試合の糧になれば、という思いを込めて努めて冷静に振り返っている。

「味方の足が止まって、相手がフリーになっていた。失点するときは、そういうものだと思います」

 来月4日の第14節を終えれば、いよいよ日本代表での未知なる挑戦が幕を開ける。ホームに迎える相手は浦和レッズ。チケットは前売り段階ですでに完売。舞台は完璧なまでに整った。

「ルヴァンカップがまだありますけど、リーグ戦に限って言えば、ビッグゲームになると思っています。チームとして、そして個人として、そこで何ができるかという思いで臨みたい」

 勝てば混戦状態のJ1戦線を、わずかながら抜け出せる状況も生まれるかもしれない大一番。レジェンド川口が認めた才能と存在感をさらにグレードアップさせて、A代表選出を「嬉しいと同時に責任も大きく感じる」と心の糧にも変えている若き守護神にいま、飛躍の瞬間が訪れようとしている。

(取材・文:藤江直人)

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