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【U20】団結するベネズエラ。チームは“家族”…悪政とインフレで疲弊する国民の希望に

5/30(火) 7:04配信

フットボールチャンネル

 U-20W杯の決勝トーナメント1回戦で日本と対戦するU-20ベネズエラ代表。彼らはグループステージを3戦全勝という圧倒的な強さで突破してきた。これまであまり注目されてこなかった国が、ドイツやメキシコを上回れたのはなぜだろうか。監督や選手たちの言葉をもとに紐解く。(取材・文:舩木渉【韓国】)

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●全員で喜びを共有するベネズエラ

 グループステージ3戦全勝、10得点無失点。ベネズエラがU-20W杯で猛威を振るっている。そして日本の次なる対戦相手となった。

 各ポジションにA代表経験のある実力者が揃っており、特に攻撃陣の破壊力は凄まじい。

 日本戦翌日に20歳の誕生日を迎えるアダルベルト・ペニャランダは、この若さにしてイタリアやイングランド、スペインでプレー経験を持つ。今季後半戦はプレミアリーグのワトフォードから期限付き移籍でスペイン1部のマラガに所属していた。U-20ベネズエラ代表では左サイドからの崩しを一手に担う。

 現在4ゴールを挙げてU-20W杯得点ランキング首位に立つセルヒオ・コルドバは、本来はストライカーながら右サイドで起用され、斜めのランニングで積極的にゴール前まで顔を出してフィニッシュに絡む。ラス・パルマスで将来を期待されるFWのロランド・ペーニャ、身長158cmと小柄な攻撃的MFジェフェルソン・ソテルドも非常に高いクオリティを備える。

 だが、彼らのプレーよりも印象的なシーンがあった。26日のグループステージ最終戦、メキシコ相手に先制ゴールを挙げた直後、ベンチからも選手たちが飛び出し、全員で得点者のコルドバを囲んで喜びを爆発させた。

 記憶をたどってみると、メキシコ戦の3日前に大田で行われたバヌアツ戦でも同じような光景が見られたことを思い出した。ピッチ上での攻守における11人の献身性はもちろん、全員で喜びを共有する様は、U-20ベネズエラ代表の団結力を象徴するシーンだった。

 南米の代表チームについて議論する際、組織としての総合力よりも個の力について言及されることが多い。だが、今回U-20W杯に参加しているベネズエラの選手たちは個の力と組織力をバランスよく兼ね備えている。

 団結力の秘訣について、メキシコ戦後の記者会見でU-20ベネズエラ代表を率いるラファエル・ドゥダメル監督に質問してみた。自身もベネズエラA代表で56試合に出場した経験を持つ名GKだった指揮官は、ゆっくりとした口調で噛みしめるように答えた。

「すべての勝利、すべての結果はコンパクトなチームとして戦わなければ得られなかった成果だ。このような高いレベルの大会で、個人で戦っても3連勝することはとても難しい。全員がそれぞれの役割を理解して、選手自身が代表チームに重要な一員であると感じられることが重要なんだ」

●チームは「家族」。ピッチ内外で築かれた固い絆

 ベネズエラは比較的メンバーを固定しながら戦っており、控えGKのジョエル・グラテロルとラファエル・サンチェスを除いても、3試合を終えて1分もピッチに立っていない選手が3人いる。日本はすでに帯同しているフィールドプレーヤー全員が1分間以上出場している。

 そう考えると「選手自身が代表チームに重要な一員であると感じられる」のは難しいのではないかと考えてしまうが、ドゥダメル監督の考えは違った。

「彼らは毎日を楽しむことができていた。ホテルでも、ピッチ内でもすべてのゴール、すべての勝利を毎回家族のように喜べていた。チームはピッチ外でもすばらしく、互いに励まし合い、勝利すればそれをみんなで喜んだ」

 ベンチに座っているメンバーも、控えとしてチームにどう貢献できるか理解し、喜びを全員で共有する。ドゥダメル監督の言う「家族」という表現や、似たような言葉は選手たちからも聞かれた。

 得点力が爆発しているコルドバは「僕らは2年前からお互いを知っている。そしてピッチ内外において家族のような関係でもある。それこそが団結の理由だね。どこにいても家族でいることだ。これからもずっと家族のように一体となってW杯を戦っていきたい」と述べる。

 ペニャランダも「僕らは全員のことを信じているからこそグループのトップにいる。信頼関係が出来上がっていて、チームのために力を尽くそうと思える。強く団結したチームで、全員が友だちで、みんなのことを小さいときから知っている。毎日の練習でどんどんやりやすくなっているし、このチームでプレーできることが幸せだ」と、笑顔で語った。

 マンチェスター・シティからのレンタルでMLSのニューヨーク・シティFCに所属しているヤンヘル・エレーラは、A代表でも出場歴を持ち、U-20代表では不動のキャプテンを務める。中盤からチームをまとめ、攻守にハードワークできるベネズエラの心臓である。

 そんな中心選手が「このチームには個性豊かな選手たちがいる。そして彼らは皆、それぞれがチームの力になれることを理解している。だからこそ全員が他の選手のためにも力を尽くそうとするし、チームとして最高の形になるんだ」と言えば、彼らの団結力が本物であることは理解していただけるはずだ。

●指揮官からのメッセージ。代表の活躍が国民の希望に


 ベネズエラは現在、国内情勢の不安定さが連日報道されている。独裁体制を築くニコラス・マドゥロ政権に業を煮やした多くの国民が立ち上がり、政権打倒などを掲げて何十万、何百万という人々が全土でデモ活動を展開している。それを政府が後ろ盾となっている民間のギャング団が弾圧、住民側からは多数の死傷者が出ており、憎悪の炎は大きくなるばかり。報復の連鎖は止まらず、もはや泥沼の様相を呈している。

 ここ数年、ベネズエラでは国の財政が破綻状態で、1000%を超えるハイパーインフレ状態が続く。失業率は上昇の一途をたどり、食糧不足、治安悪化、停電など、国民はまともな生活を送れていない。ただマドゥロ大統領が君臨する独裁政権は、その責任を国民に押しつける、権力の拡大を止めようとしない。

 国会の立法権の剥奪を試みたり、大統領選出馬阻止を目的として野党のリーダーに15年間の政治活動禁止を言い渡したり、しまいには今月初旬にマドゥロ大統領が新憲法制定の方針を明らかにした。ここに隠された真の目的は大統領権力の拡大と国民のさらなる弾圧に他ならないと見られている。

 とはいえ国際社会は、数年前から深刻な財政問題を抱え、デフォルトが噂されるベネズエラの崩壊を望んでいない。アメリカや中国などにとっては重要な貿易相手であり、世界最大級の産油国でもあるベネズエラの政権が崩壊すれば、多くの国が大打撃を受けかねないからだ。

 そんな状況でメキシコ戦後の記者会見に出席したドゥダメル監督は、「私はこのチームを代表して祖国にメッセージを送りたい。選手たちには慎重さがあるが、全力を尽くしていて、ベネズエラの代表になれたことを誇りに思っている。国を守り、より良いベネズエラを目指すすべてのベネズエラ人と夢は同じだ」と述べた。

 直接的にベネズエラ国内の政治などに言及したわけではないが、マドゥロ政権と相反する立場にいると示したととれる発言だった。選手たちがU-20W杯で活躍すれば、国民に誇りと希望を与えることができると考えているようだ。

●目標は「世界一」。チーム一丸で挑むW杯

 選手たちにも「君たちがプレーすることで国民に希望を与えられるのでは?」と尋ねてみたが、ペニャランダは「うーん…」としばらく考えた後、「それについてはあまり答えたくないな」と言葉を濁した。

 その直後、チームの広報から「選手たちはデリケートな精神状態で戦っているので、今は国内情勢に関する質問はしないでほしい。確かに君の質問はポジティブなもので、本来は問題ないのだが…すまない」と指摘されてしまった。ペニャランダにも謝罪したが、彼らが団結している理由のひとつに「祖国ベネズエラ国民のために戦うこと」があると考えて差し支えないのではと思う。

 キャプテンのエレーラは、決勝トーナメントでの戦いを見据えて宣言した。

「W杯での目標は、もちろん世界一になることだ。この目標は僕たちのキャリアにおいて大きな節目になるだろう。これまでのところはうまくいっていると思うし、トロフィーを獲得できると信じている。僕たちは大きな自信を感じているんだ。これからはもっと厳しい戦いになるだろうね。簡単ではない。それでも優勝のために努力を続けるだけだよ」

 バヌアツ戦でPKを蹴ってゴールを挙げた小柄なGKウイルケル・ファリニェスも「僕らは一歩一歩進んでいく。まずは目の前の試合に集中する。それで優勝することができれば、本当に幸せなことだ」と言う。

 ゴールを量産するコルドバも「チームを助けられてとても嬉しい。僕がゴールを決められるのはチームメイトの助けがあってこそだ。今この瞬間を楽しんで、もっと上までいきたい。何が起こるかはわからないけど、もっとたくさんのゴールを決めて喜びたい」と、勝利への希望に溢れている。

 彼らは団結し、世界制覇を見据えて懸命に戦っている。これまで野球に隠れ、あまり注目されてこなかったベネズエラのサッカーだが、U-20W杯で結果を残せば明るい未来が拓けてくるかもしれない。それは個人としてのキャリアアップのみならず、ベネズエラ国民の希望としての代表チームになることも含めて。

 ベスト16で日本と対戦するU-20ベネズエラ代表は大きな覚悟を背負っている。チーム一丸となって彼らを打ち破ることができれば、U-20日本代表にとっても大きな成長のきっかけになるだろう。

(取材・文:舩木渉【韓国】)

フットボールチャンネル編集部

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