ここから本文です

ナポリに魔法をかける、元銀行員サッリ監督の戦術「トータル・ゾーン」

5/30(火) 12:26配信

webスポルティーバ

 今から5年前の2012年に、フィレンツェ郊外にあるクラブの下部組織を指導する旧知のベテラン監督から誘いを受け、当時セリエBに所属していたエンポリの練習を見に行った。

【写真】こちらの海外組の来季はどうなる?

 そこでは、これまで見たこともないトレーニング・メニューが行なわれ、紅白戦になると目を疑うような「戦術」の応酬を目の当たりにすることになった。見学に誘ってくれたベテラン監督は、私の隣で熱心にメモを取りながら、こう何度も繰り返していた。

「この監督は必ず近い将来に上(セリエA)に行く。そして彼の戦術は必ず広く知られることになるから、今のうちに中身を詳しく学んでおく必要がある」

 一言で表現するなら、「トータル・ゾーン」。その戦術を実践する監督の名は、現在、セリエAの強豪・ナポリを率いるマウリツィオ・サッリだ。

 我々が見ていた夏の合宿を終えると、サッリはエンポリ監督就任1年目にして、前年にセリエB18位に沈んでいたチームを4位に引き上げた(プレーオフ決勝でリヴォルノに敗れ、昇格は逃す)。さらに翌2013-14年シーズンには2位まで順位を上げ、無条件でセリエA昇格を果たしている。

 いわゆる「ゾーン・ディフェンス」はもはや誰もが知るところだが、私が目にしたそれは明らかに違っていた。

 いかにゾーンで守ろうと、通常は「マンマーク」と併用されるのが常だ。多くの監督が採る戦術は、ゾーンとマンマークをミックスしているという意味で、イタリアでは「ゾーナ・ミスタ(ミックス・ゾーン)」と呼ばれる。

 相手ボールの局面では、自らがマークすべき相手の位置に応じてポジションを取るのが一般的だが、サッリの「トータル・ゾーン」では考え方が異なる。端的に言ってしまえば、すべての選手が守備のポジショニングを決める際に相手選手の位置は考慮しないのだ。

 最も重視されるポジショニングの基準は「ボールの位置」。相手がキープするボールが横に2メートル動けば、守る側の全員が同じ方向へ2メートル動くことになる。この考え方は通常の「ゾーン・ディフェンス」と同じではあるものの、当時のエンポリも現在のナポリも、その次に優先される基準が他のチームとはまったく違う。

「マンマーク」では、基本的に「ボールの位置→相手の位置」の順に判断し、ポジショニングを決める。そして、通常の「ゾーン・ディフェンス」では「ボールの位置→味方の位置→相手選手の位置」と優先順位が変わる。

 それに対し、サッリの「トータル・ゾーン」ではもうひとつ基準が増え、「ボールの位置→守るべきゴールの位置→味方の位置→(相手選手の位置)」となる。相手のボールホルダーに最も近い選手が「ボールとゴールを結ぶ線上」にポジションを取り、それによって他のチームメイトの立ち位置も決まるのだ。

1/2ページ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

Sportiva

集英社

Sportivaムック
4月13日発売

定価 本体1,472円+税

フィギュア特集
『羽生結弦 平昌への道』
■ヘルシンキの激闘
■宇野昌磨、本田真凜ほか