ここから本文です

リアルとは何なのか?奇妙な写真がもつ「客観性」の不確かさ

5/30(火) 17:50配信

WIRED.jp

これらの画像はどこか懐かしさを感じさせる日常風景のように見えるが、よく見ると加工が施されていて非現実的なイメージになっていることに気づく。写真家ヴェロニカ・ゲンシツカは、奇妙な加工を通じ、写真というメディアがもつ「客観性」の不確かさを浮き彫りにしようとする。

【写真をみる】何かがおかしい

水着を着て肩車する楽しそうな男女、トレーニングウェアに身を包み整列する少年たち、建設中の家を見上げる家族──。どの写真も少し色あせており、服装や髪型からも少し懐かしさが感じられるが、何かがおかしい。

よく見ると、女性を担いでいる男性の頭部がどこかに消えてしまっているようだし、整列しているはずの少年たちはところどころ溶け合っている。家を見上げる家族の一部は木の枠に置き換えられてしまっている。一体これは何なのだろうか?

「さまざまな方法で修正されているこれらの写真は、新しい文脈のなかに組み込まれます。撮影された人々や状況は変形していき、次第に新たなリアリティのなかにぼんやりと溶け込んでいくのです」。そう語るのは、これらの写真作品をつくったポーランド出身の写真家、ヴェロニカ・ゲンシツカだ。彼女は、ストックフォトから購入した写真をPhotoshopによって細かく加工し、これらの奇妙なイメージを制作している。

ゲンシツカがこの作品『Traces』をつくり始めたのは、約2年前のことだ。元々「記憶」に関心があった彼女は、ストックフォトとして売られている写真の起源が不確かなことに魅力を感じたのだという。「人々が自分たちの家族写真をストックフォトとして売ったのか、ストックフォトのために撮影したものなのかはわかりません。その不確かさが、解釈の余地を生んでいるのです」とゲンシツカは語る。

ぼくらはもちろんのこと、ゲンシツカ自身でさえ、これらの写真のなかの人々が誰なのか知らない。ゲンシツカにとって、写真とは当初から曖昧なメディアだったのだ。「わたしにとって写真が魅力的だったのは、その客観性が偽りのものだったからです。わたしたちは写真が常に現実を反映していて中立的だと考えがちですが、それは幻想なのです」。写真に取り組み始めたときのことを振り返り、彼女はそう語る。

「この作品は個人の記憶に関するものであると同時に、より広い、社会的な記憶に関するものでもあります。写真は記憶を運んでゆき、わたしたちの社会的・文化的アイデンティティを構築し『現実』を創造しうるからです」とゲンシツカは語り、次のような疑問を提示する。「果たして、何年も前に撮られた何の説明もない写真を見て、それらが実際に何を表しているのか判断できるのでしょうか?」

ゲンシツカのつくる写真はどれも奇妙な加工が施されているので、明らかにフィクションだと判断できる。しかし、実際には加工される前の写真でさえ大昔に加工されているかもしれない。それは彼女が選んだ写真に限った話ではなく、ぼくらが日頃から目にしている写真は広告写真であれ報道写真であれ、加工されている可能性を秘めている。ゲンシツカは、写真にこれみよがしな加工を施すことで、ぼくらが目にするすべての写真に揺さぶりをかけるのである。

WIRED.jp_IS

最終更新:5/30(火) 17:50
WIRED.jp

記事提供社からのご案内(外部サイト)

『WIRED Vol.29』

コンデナスト・ジャパン

2017年9月11日発売

630円(税込み)

『WIRED』VOL.29は1冊まるごとアフリカ大特集!「African freestyle ワイアード、アフリカにいく」南アフリカ、ルワンダ、ケニア etc