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佐藤琢磨選手のインディ500優勝は大変な快挙 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

5/30(火) 16:10配信

ニューズウィーク日本版

<白人保守層を象徴するカーレースで日本人選手が優勝を成し遂げたことは、「クールジャパン」の多様性を示す意味でも大きな功績>

インディ500優勝というのは大変な快挙です。何しろ時速350キロ以上の超高速で約3時間、全部で500マイル(約800キロ)にわたって接近戦を続ける過酷な自動車耐久レースで頂点に立ったのですから、これは大変な快挙です。

何といってもアメリカ人の大好きなモータースポーツの最高峰で、それがどのぐらいのインパクトがあるのかというと、野球ならワールド・シリーズ、NFLならスーパーボウルのレベルでしょう。個人技で言うならゴルフのマスターズかもしれませんが、むしろそれを越えています。何しろ「インディ」の場合は収容人員35万人という巨大スタジアムで開催されますから規模が違います。

それにインディアナ州といえば「インディ500」というくらいの名物イベントで、5月のメモリアルデーの連休といえば「インディ」がアメリカのメインイベントになっています。

ただ、こうしたモータースポーツが好きなのは、アメリカの「白人貧困層=草の根保守=トランプ支持層」だけという側面もあります。このインディよりもう少し市販車に近い車両を使った「NASCAR」というカテゴリのレースも人気があり、全国にピラミッド構造のリーグがあって転戦する形態になっています。

この NASCAR はある種「保守的な白人層を象徴する」と言われ、反対に、東西の沿岸に住むリベラルには全く無関係なカルチャーと言っても良いわけです。プリウスに乗っている人には完全に「別の国の話」です。インディの場合は、規模もスピードも大会の権威も NASCAR とは桁が違うわけで、やはりそこで優勝するインパクトは大きいのです。

【参考記事】世界最高峰に立つ日本人女性冒険家の戦い

では、そんな「白人保守派の聖域」で日本人が勝ってしまったことで、何かリアクションがあったのかということですが、確かにデンバーの新聞「デンバー・ポスト」の記者が「日本人の優勝は不愉快」というツイートをして即クビになる事件が起きています。

ちなみに、この記者は父親が第二次大戦で日本と戦ったので、感情的になったと釈明していますが、SNSの世界で「レイシスト(人種差別主義者)」と言われて大炎上、新聞社は即刻「この人物は当社の人間ではなくなりました」と告知と同時に謝罪しています。デンバーといえば、中西部の中心都市ですが、今回の事例はあくまで個別の問題であり、あまり気にする必要はないと思います。



例えばですが、映画の『ワイルド・スピード』シリーズの『TOKYO DRIFT』という作品があって、大ヒットしているのですが、その中では日本人というのは「ドリフト走行の神様」として手放しで絶賛され、憧れの対象として描かれています。要するにインディが好きな人は、日本のことを悪く思っていないようです。

ちなみに、80年代の日米自動車摩擦の流れで日本に対して悪感情を持っているグループは、基本的に「組合カルチャー=左派」になります。日本でも有名なマイケル・ムーア監督は、実は「デトロイトを潰したのは日本」という感情をかなり深いところに抱えていて、日系記者などとイザコザを起こしていますが、彼が良い例です。

ですから、むしろ佐藤選手の優勝で、草の根保守における日本のイメージは『ワイルド・スピード』との相乗効果でさらに良くなっていくかもしれません。

【参考記事】「これでトランプを終わらせる」マイケル・ムーアが新作を製作中

その意味で言えば、実は寿司がどうとか、アニメがどうといういわゆる「クールジャパン」というのは、真ん中から左のカルチャーで、地域的には東海岸と西海岸主導で来ている(今は完全に全国的ですが)面があります。さらに、「クールジャパン」が左にアピールする一方で、モータースポーツが右にアピールするというわけで、日本文化はアメリカ国内で全方位にアピールできるということになるでしょう。

佐藤選手の勝因ですが、チーム力とか資質とかもあると思いますが、アメリカのコミュニティに溶け込んで、ライバルたちとも友情を結び、その相互の関係性の中から勝っていく生き方を学んでいるようです。

まあ、燃料(現在はエタノールが主体)をジャブジャブ燃やし、大事故を起こすのは当たり前というインディは、カルチャーとしては時代の先端では全くなくなってしまいました。それでも佐藤選手の優勝は、大いに称賛したいと思います。

冷泉彰彦

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