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家賃4000円の部屋で30円の古着おしゃれを楽しむ、海外年金暮らしの66歳~日本を棄てた日本人~

5/30(火) 16:00配信

週刊SPA!

 月々7万円に満たない国民年金。

 これまで海外旅行など全く縁のなかった老人たちが、ただ「生活費が安い」という理由だけで、アジアの国々に続々と移住している。

⇒【写真】カンボジアの激安アパート

 しかし残念ながら、そこに明るい要素は見当たらない。人気の移住先であるタイやマレーシアは、今や日本と並ぶ物価高。つまらない日本食が日本より高くついてしまう。

 物価の安さが取り柄のカンボジアやフィリピンも、昨今は経済成長著しく、もはや国民年金だけで生きるには、相当のやりくり上手である必要がある。

 本コラムで前回紹介したF原は、この十年、ビザもとらずカンボジア・プノンペンの最底辺スラムに滞在を続け、不法移民の分際で小さなアパートまで建ててしまったという、生命力旺盛、サバイバルに長けた老人である。

 F原老人が所有するアパートは、月の家賃が35~40ドルというプノンペンでも最底辺の激安物件。暗く、メガネが曇るほど湿っぽい部屋は、雨が降れば滝のように雨漏りし、カンボジア人すら裸足で逃げ出す立派な怪奇ルームだが、そんな部屋にあえて引っ越してくる風変わりな日本人も、実は後を絶たない。むろん、背に腹は代えられない訳ありの人々なのだが……。

◆30円の古着でおしゃれを楽しむ66歳の海外年金暮らし

 あえて魔境に住むことを選んだ今回の主人公、茂田(仮名・66歳)は、現地人と完全に同化した大家のF原とは対照的に、ひと目で日本人と分かる色白の初老男性である。

 初めて茂田と会ったとき、虐待された犬のような目をしていたのが印象的だった。

 カンボジア在住歴は1年そこそこの初心者にして、そんな茂田が地獄のF原アパートに越して来たきっかけは、少々行き過ぎな被害妄想だった。

「ワシの部屋、1か月40ドルなんやけど、隣は5ドルも安いんですわ。ワシ、F原はんにぼったくられとるんやろうか?」

 またか……。私がF原と無関係と知りつつも、顔を見るたび同じ質問を繰り返す茂田。彼にとって5ドルの価格差は、被害妄想のスイッチが入るのに充分過ぎる金額らしい。

「前のアパートでも、悪辣なカンボジア人の大家から散々ボラれましてな……。相場の三倍も高い家賃に文句言うたら、連中、集団でワシのこと尾行して、屋台でもワシのサンドイッチだけ、大家の指示でワザと具を減らしよるんですわ……」

 これぞまさに、ザ・被害妄想。

 1円でも多くの年金を温存すべく、暗い、蒸し暑い部屋で3食具なしのインスタント麺をすする茂田。

 そんな彼の日々の楽しみといえば、炎天下、ヨレヨレの自転車で8キロも離れた日系図書館に通い、数日前の古新聞をなめるように読み漁ることと、地元民もひるむ場末の露店で30円、40円の古着を漁ることくらい。

 極度の人間不信から日本人の友達もほとんどおらず、大家であるF原のことも「ワシを騙そうとしている」と警戒しており、ほとんど会話らしい会話は無い。

 余談だが、警戒されたF原もまんざら善人ではなく、1キロワット800リエル(20円)の電気代を、茂田に対して3倍も水増しし、差額をポケットに入れている。

 これ、カンボジア人の大家は大概やっているセコい財テクだが、相手は気温40度でも扇風機を使わず、夜7時には部屋を真っ暗にして寝てしまうモンスター。さすがのF原もこれにはお手上げだった。

 そんな地獄のアパートに、時折ひょっこり現れる可愛らしいお客さん……。天使のような笑顔が素敵な、わずか5歳のカンボジア人少女である。

 同じスラムに暮らすこの少女、困窮外国人がよっぽど珍しいのか、ヒマさえあればアパートにやって来ては、キラキラと輝く瞳で(基本、ドア全開の)F原や茂田の部屋を覗き込み、ニコニコと人懐っこい笑顔をふりまく。

 近所のガキどもを虫けらのように追い払うF原も、この少女だけは特別扱い。駄菓子をエサにおびき寄せ、簡単な日本語を教えたりしていたが、常日頃、これを苦々しい顔で見守っていた茂田が、思い詰めた顔でF原に物申した。

「F原さん、言いたかないけどあのガキ、甘やかさんほうがええですわ……。そのうち虐待だのセクハラだの騒ぎよって、慰謝料がっぽり取る魂胆かもしれへん」

 相手が5歳児だろうと油断を怠らない警戒心。

 さらには毎朝、近くの市場をうろつき、地面に落ちたキャベツや白菜の切れ端を黙々と集め、炒めたりラーメンに入れるなど、サバイバル能力も特殊部隊顔負け。

 日本の年金制度がどのように崩壊しようと、このおっさんは絶対生き残る。まさにハイエナ並みの生命力。見習おうではないか。

【クーロン黒沢】

東京生まれ。90年代からアジア(香港・タイ・カンボジアなど)、洋ゲー、電話、サバイバル、エネマグラ等、ノンジャンルで執筆。強盗・空き巣被害それぞれ一回、火事・交通事故(轢き逃げされた)各一回、その他、様々なトラブルを経験した危機管理のプロ。現在は人生再インストールマガジン『シックスサマナ』発行人。同名のポッドキャストも放送中。

<取材・撮影・文/クーロン黒沢>

日刊SPA!

最終更新:5/30(火) 16:00
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