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【AI失業】収入不足をベーシックインカムの注意

5/31(水) 12:20配信

GQ JAPAN

AI失業対策としてのベーシックインカムには注意が必要だ。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの高木聡一郎が論じる。

【AI失業】収入不足をベーシックインカムの注意

人工知能の発展とその影響に関する議論が、活発になってきている。人工知能の実用化はまだ先だと思われているかもしれないが、私たちがインターネットで検索したり、ショッピングしたりする裏側では、コンピュータが人の行動を「学習」して、日々賢くなっている。コンピュータがこうした学習を続けていけば、いずれは人々の職業を置き換える存在になるかもしれないというのである。

このような技術革新に伴う雇用減少は、以前から「技術的失業」として知られてきた現象である。古くは16世紀に、自動織機を見た英国のエリザベス女王1世が「この発明が哀れな国民に与える影響を考えよ」と述べたというエピソードが伝えられている。その後の目覚ましい技術革新にともなって、自動車が御者の仕事を奪い、農機具が農民の数を減らし、工場の自動化は劇的に少ない人数による生産を可能にしてきた。経済学の教科書では、こうして減少した雇用は、より生産性の高い職業に置き換えられるとされている。しかし、人工知能に関する問題は、それが飛躍的な速度で進化を続けた場合、職業のシフトが間に合わず、大量の失業が生み出されるのではないか、あるいは、今後あらゆる職業が不要になるのではないか、という点にある。

このような懸念に対して、「ベーシックインカム」に答えを求めようとする動きが出てきている。ベーシックインカムとは、政府が全ての人に無条件で一定の生活費を支給するというものだ。現在の生活保護や年金などを廃止し、稼いでいる人にも、そうでない人にも、一律で定額(例えば毎月7万円など)を支給する。突飛な政策に聞こえるかもしれないが、実はこの考え方は18世紀末頃から、欧米を中心に人権、家庭労働への報酬、貧困撲滅など様々な観点から議論されてきた。

ベーシックインカムには、抜け漏れのない生活支援が可能になる、専業主婦などの非賃金労働も報酬を得られる、収入が保証されるため人々がチャレンジしやすくなるといったメリットが指摘されている。一方で、本当に財源を確保できるのか、労働意欲が減退するのではないかといった懸念もある。そんななか、最終的に否決されたもののスイスが国民投票までこぎつけたほか、フィンランドでは一部試験的に導入されている。

ベーシックインカムそのものは検討に値する考え方であるが、人工知能普及に伴う失業対策として使うには重要な落とし穴もある。ご存知の通り、インターネットを使ったサービスは、簡単に国境を越えて提供される。検索であれショッピングであれ、世界中の人が、もっとも便利なサービスを使うことができる。使う人が多ければ多いほどより便利になるという「ネットワーク効果」によって、この優位性はより強固になる。特に人工知能は、使われるたびに「学習」するため、人気のあるサービスは、より賢くなるだろう。こうして賢くなった人工知能が人間の職業を置き換えるほど「稼げる」存在になったとしても、それは海外の人工知能かもしれない。

もし人工知能が雇用を代替し、その分の収入不足をベーシックインカムで補うとするなら、海外の人工知能を使ったサービスにも税金をかける必要がある。もちろん、逆の立場、例えば日本にある人工知能が生み出した付加価値に対して、外国政府から分配を要求されることも想定しなければならない。現代のサービスはグローバル化しており、もはや一国の社会制度は、世界規模での富の流れを無視して考えることはできないという難しさがある。

本質的には、そもそも私たちがどのように働きたいのかという問題でもある。ポジティブにとらえれば、人工知能の発展がもたらすものは「労働からの解放」かもしれない。そのためには、皆が人工知能を所有し、活用できるようになる必要がある。うまくいけば、全ての人が人工知能の恩恵を受けつつ、短い労働時間で生活の糧を稼げるようになるだろう。しかし、人工知能が一部の人や企業の所有物である場合、ベーシックインカム構想に内在するのは、人工知能の稼ぎを分配してもらうという制度である。

封建制にもとづく中世のヨーロッパでは、家士は領主に対して「オマージュ」を捧げることで忠誠を誓い、その代わりに、稼ぐための「封土」や、生活費そのものである「俸禄」を得た。もし人々が人工知能を所有できないのであれば、人工知能に対して忠誠を誓い、稼げる人工知能から、「封土」としての機能や、「俸禄」としての分配を得るということになるかもしれない。ベーシックインカムは、いわば「デジタル封建主義」とも紙一重である。このような社会で、人の創造性や情熱はどのように発揮されるのだろうか。

私たちはどのように働き、どのような社会に生きたいのか。人工知能と社会制度の問題は、新たな問いかけを行っている。

Soichiro Takagi

最終更新:5/31(水) 12:20
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