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ハリルの秘密兵器・加藤恒平が開いた新たな扉。激しさと謙虚さ、問われる日本代表としての資質

5/31(水) 7:20配信

フットボールチャンネル

 欧州でのシーズンを終えた日本代表の海外組たちは、国内組の選手たちに先駆けてトレーニングを開始した。その中でも注目を集めるのは、初招集の加藤恒平だ。J1未経験で、モンテネグロやポーランド、ブルガリアとマイナー国を渡り歩いてきたハリルホジッチ監督の“秘密兵器”は、日本代表選手としての資質を備えているのだろうか。欧州で鍛えた武器を携え、未知の領域へ大きな一歩を踏み出した。(取材・文:元川悦子)

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●注目を集める初招集・加藤恒平の一挙手一投足

 6月7日の国際親善試合・シリア戦(東京)、13日の2018年ロシアW杯アジア最終予選・イラク戦(テヘラン)に向け、28日から欧州組だけで始動した日本代表。

 初日はサプライズ招集された加藤恒平(ベロエ・スタラ・ザゴラ)や2年2ヶ月ぶりに代表復帰した乾貴士(エイバル)、彼のバックアップメンバーとして緊急招集された宇佐美貴史(アウグスブルク)を含む10人でトレーニングをスタート。翌29日には大迫勇也(ケルン)も合流した。

 2日目からは恒例の2部練習となり、午前中は猛烈な走りのメニューが課された。午後はボールを使ったコーディネーションのトレーニング、30秒間の4対1、ミニゴール4つを使ったゲームなども盛り込まれた。途中で乾が痛めていた右足首の状態を悪化させリタイアするアクシデントが起きたものの、大事には至らない模様だ。

 そんな中、やはり注目を集めるのは、無名の男・加藤の一挙手一投足だ。

 午前練の4グループに分かれたインターバル走では、岡崎慎司(レスター)、乾らとともに先頭を走って持久力をアピール。午後練の4対1では現代表の主力たちと比べてもそん色ない技術レベルを披露し、久保裕也(ヘント)を激しく削りにいってボールを奪う激しさも押し出した。

 25日のメンバー発表会見でヴァイッド・ハリルホジッチ監督が「山口蛍(C大阪)に似ている」と語った特徴を、彼は指揮官やチームメートにしっかりと印象づけた。

「そこは僕のストロングポイントなんで、しっかり練習から出していかないと。僕が一番下の立場なんで、練習からアピールしていかないといけない。ただ、何回か(他の選手の)足を削っちゃったんで、チームメイトだからそこは気を付けないといけないですね」と本人も苦笑いしていたが、調整メインのミニゲームでも内に秘めた闘争心が自然と出てしまうのが、モンテネグロ、ポーランド、ブルガリアを渡り歩いた「成り上がり者の性(さが)」なのだろう。

 代表常連になると、いい意味でも悪い意味でも加減や塩梅を覚えがちだ。メディア対応ひとつとってもそうで、喋るのを嫌がったり、ぶっきらぼうな振る舞いをする選手も少なからずいる。だが、いつまでこの場にいられるか分からない人間にそんな高飛車な態度はできない。何事にも感謝を忘れず、100%の力を出し切ろうと貪欲に向かっていく真摯かつ謙虚な姿勢を見て、他のメンバーも原点を思い出したのではないか。

●加藤が開いた新たな扉。指揮官からのメッセージ

 実際、加藤のような異色の経歴を持つ選手に日本代表監督がフォーカスした例はこれまで皆無に等しかった。2010年南アフリカW杯初戦・カメルーン戦(ブルームフォンテーン)で本田圭佑(ミラン)の先制弾をアシストした松井大輔(磐田)がブルガリアのスラビア・ソフィアやポーランドのレヒア・グダニスクに移籍した時も、アルベルト・ザッケローニ監督は目もくれなかった。

 瀬戸貴幸(アストラ=ルーマニア)でUEFAヨーロッパリーグに出場しても、表舞台浮上のチャンスは与えられなかった。加藤の場合、モンテネグロというハリルホジッチ監督の手の届く国から欧州キャリアをスタートさせたアドバンテージはあったものの、J1未経験の選手を日本代表呼ぶというのは、指揮官にとってもハードルが高いはず。そこに踏み切ったことで、多くの無名選手が勇気と希望を持てたのは確かだ。

「恒平もそうだけど、すべての日本人の選手に日本代表という場所の扉が開かれている。今回の監督の選考はいいメッセージだと思うし、『誰にも保証がない』というメッセージでもある。代表という場は常に1人ひとりがベストを求めなきゃいけない。それがチームを強くしていくのかなと思います」と今回最年長34歳の守護神・川島永嗣(メス)は神妙な面持ちで語っていたが、W杯出場経験があっても、コンディションやパフォーマンスがよくなければ外されるのが代表だ。苦境を味わったことがある川島は、加藤の抜擢をより前向きに受け止められるはずである。

 雑草魂で這い上がってきた岡崎、長期間代表から離れた末に戻ってきた大迫や乾など、今のハリルジャパンには紆余曲折を経た人間が少なくない。サッカーの厳しさ、世界のレベルの高さを痛感する選手が増え、それぞれ辛く厳しい経験を共有していくことも、日本代表のタフさ、粘り強さを養うことにつながる。

●代表選手に必要なし資質。初招集選手が避けて通れない道

 今回の加藤はピッチ内外で他のメンバーと積極的にコミュニケーションをとっているというが、そういう行動を自ら積極的にとれる人間性を備えたプレーヤーがもっと多くならなければ、本当の意味で開かれた代表にはならない。彼には日の丸をつける選手としての十分な資質もあるようだ。

 今のところチームに大きな刺激を与え、自らも「つかみはOK」と言える状態の加藤だが、真価が問われるのはこれから。サッカー選手の技術・戦術・メンタル・フィジカル能力はフルコートで11対11を戦ってみて初めて分かる。仮に山口蛍と同等の能力を備えていたとしても、初めて尽くしの彼には「周りの特徴を理解する」という重要な課題が残されている。

 一例を挙げると、久しぶりに代表に戻ってきた乾は、2009年から断続的に代表でプレーしているので周りとの連携は問題ない。今回初招集された中村航輔(柏)、三浦弦太(G大阪)にしても、U-19代表で井手口陽介(G大阪)とともにアジア予選を戦った経験がある。そういった共有部分が皆無の加藤のマイナス面は大きい。代表は活動期間が短いため、限られた時間の中で周りと良さを引き出し合う適応力と臨機応変さがなければ、生き残るのは非常に難しい。

 ハビエル・アギーレ監督時代に、皆川佑介(広島)と坂井達弥(大分)がサプライズ招集されたものの、2人は新体制一発目だった2015年9月のウルグアイ戦(札幌)に出場したただけで定着できなかった。過去にもA代表キャップ数が1試合か2試合で終わった選手は数多くいた。加藤が彼らと同じ轍を踏まず、本当の意味で代表を活性化する戦力になるためにも、周りとうまく融合しながら、自分のストロングポイントを発揮していくこと。それが極めて重要だ。

「ようやく代表に呼ばれた。でもまだスタートラインに立っただけ。ここから呼ばれ続けることであったり、試合に出続けることが難しいと思うので、そこを目指してやっていきます」と強調した加藤が真の起爆剤になれるか否か。それを今後1週間、まずはきちんと見極めていくべきだ。いずれにせよ、一過性のブームに終わってほしくない。

(取材・文:元川悦子)

フットボールチャンネル編集部

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