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文在寅は「反日」「親北」なのか - 金香清 朝鮮半島3.0

5/31(水) 7:00配信

ニューズウィーク日本版

<文在寅(ムン・ジェイン)政権への歓迎ムードに沸いている韓国。日本の報道では、「反日」「親北」という論調が多いが、果たしてそうなのか>

文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足して、およそ3週間が経った。政権支持率は87%(5月19日韓国ギャラップ)と史上最高値を記録し、韓国内は新政権への歓迎ムードに沸いている。

一方、日本の報道を見ると文政権発足に対して、必ずしも歓迎しているようには見えない。「反日」「親北」という表現を使った、否定的な論調も目立つ。

文在寅政権が「反日」とされる理由の一つには、慰安婦問題に関する日韓合意に積極的とは言えない姿勢をみせていることが含まれるだろう。

しかし文政権は日韓合意について「再交渉する」という表現は使っても、「破棄する」「白紙にする」とはしていない。

韓国内でこの合意は、朴槿恵政権によって唐突に決められた印象が強い。というのは、国民に対してそのプロセスの説明が十分でなかったし、何よりも被害者に対して、事前に何かしらの説明や意思確認がなかったからだ。さらに一連のスキャンダルによって、黒幕によって国政を左右された実態が明らかになり、合意に至るまでの朴政権の判断への不信感はさらに強まっている。

政権交代を成し得た文政権にとって、この国民の不信感を払拭する作業は避けられない。かと言って、日本との合意を一方的に白紙に戻すことはできない。そのため解釈の幅のある「再交渉」という言葉を使っているのだろう。

保守政権なら親日、というわけでもない

就任直後の電話会談では日本の安倍首相に、「韓国国民の大多数が情緒的に合意を受け入れることができないでいる」とし、「努力する」とした少女像の移転については「民間の領域で起きた問題を政府が解決するのには限界があり、時間が必要だ」と伝えている。29日にも、韓国政府は「我が国民の大多数が情緒的に受け入れられていない現実を認めながら、韓日両国が共に努力し、問題を賢明に克服することを望む」と発表している。

これらの内容を見ても、合意そのものに難を示していると言うよりは、韓国世論の同意を得るのに時間がかかることについて、日本側から理解を得たいという立場に力点が置かれているように思われる。

そもそも文在寅がこれまで、日本に対して敵意を示すような言葉を、公の場で吐いたことはあるのだろうか。

一方、保守政権なら親日なのかと言われると、一概には言えない。日韓関係が急速に悪化したのは2012年8月、李明博元大統領による竹島・独島上陸がきっかけだ。その翌年に朴槿恵政権が発足した後も日韓首脳会談は開かれず、およそ3年後の15年11月に会談が開かれ、その翌月に日韓合意が突如、発表されたのだ。また、長年、禁止されてきた日本の大衆文化が解禁されたのは、進歩政権である金大中時代だ。

文政権に限らず、一政府の政策や外交路線を短絡的に「白か黒か」で決めるのは無理があるだろう。



対北朝鮮路線についても同様のことが言える。最近では、文政権に対して韓国の保守層の使う「従北(北朝鮮に従う)」という単語を、日本のメディアでも目にすることがある。

文在寅は北朝鮮との対話に意欲を見せており、そのため「北朝鮮を利する政権」とされているようだ。特に16年2月に操業が中断された、南北が共同運営する開城工業団地の再開について前向きであることに対する批判が大きい。そこで北朝鮮が得られた利益が、核やミサイル開発に利用されるのではないかという憂慮がある。

開城工業団地について注視すべき問題

しかし、北朝鮮は開城工業団地の操業が停止されても、それどころか国際社会から経済制裁を受けても、軍事開発を止めていない。むしろこの数年、核実験・ミサイル発射の回数は増えている。

北朝鮮の軍事開発が「制裁」というカード一枚で、解決できるような単純な問題でないことは明らかだ。

実際、米国もあらゆるカードを使い分けている。最近でも、米国のトランプ大統領は4月末に米韓軍事合同演習を終えた直後の5月2日に、環境が整えば「金正恩と対話する用意がある」とした。中国が部分的な経済制裁を発動しても、北朝鮮は東南アジアなどを経由しながら、外貨を手に入れ、独自のビジネスルートを築いてきた。こういった網の穴があることを熟知しているため、中国は常に経済制裁に慎重な姿勢を見せている。

また実のところ、韓国歴代政権の対北支援金は金大中13億4500万ドル、盧武鉉14億1000万ドル、李明博16億800万ドル(韓国統一部)で、保守政権と進歩政権を比べても大きな差がない。

開城工業団地については、もう一点注視すべき問題がある。

開城工業団地の工場は韓国の企業が運営し、そこに北朝鮮のスタッフが雇用されている。そのため操業停止による韓国企業側の損害は大きく、今年2月の段階で損失額は2500億ウォン(約250億円)とされ、合計でおよそ1000人の韓国人従業員が退職に追い込まれた。それら企業のほとんどが中小企業だ。

北朝鮮から外にでる機会のない人々が、開城工業団地の中で、韓国企業のスタッフとの接触や韓国製品を通じて、北朝鮮以外の世界に触れていたのも現実だ。人と物が動くことによって、北朝鮮に「外の風」が吹くことは、プラスの面が大きいのではないかと思う。

金香清

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