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車の運転、何歳まで? 各所で進む高齢運転対策

6/1(木) 12:41配信

オーヴォ

 カンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)に輝いた今村昌平監督の「楢山節考」には、年老いた母親が自らの丈夫な歯を石でたたき折る印象的なシーンがある。老人を山に捨てる村の掟にためらう息子を思いやり、老母はあえて長寿の象徴である歯をつぶす。息子のため“人並み”の老いを“演出”する母の心情が、掟の非情さの中に浮かび上がる名場面だ。誰もが老いを迎えるが、老いの進行は決して一様ではない。

 国立社会保障・人口問題研究所の予測(2017年推計)では、日本人の平気寿命は2065年に、男性84・95歳、女性91・35歳に延びる。「人生50年」と詠んだ織田信長もびっくりの「人生100年時代」が透けて見える近未来予測だ。年金の支給開始年齢の繰り下げ、定年後の雇用延長、75歳以上の後期高齢者医療制度の創設など、これまで続いてきた「高齢社会」を前提にした動きは今後もやむことはなさそうだ。

 ことし3月施行された改正道路交通法もその1つ。75歳以上の「高齢運転者」に焦点を当てた改正だ。これまでの免許更新時に加え、一時停止違反など一定の違反行為をした場合にも認知機能の検査を義務付け、「認知症のおそれ」があれば、医師の診断か診断書提出が求められ、診断結果によって運転免許を取り消す手続きを設けた。

 警察庁によると、75歳以上の運転免許保有者はおよそ478万人(2015年末)。警察庁は、このうち年間5万人が医師の診断を受け、約1万5000人が免許の取り消し等を受けると推計。医師の診断前に自ら免許を返納する人も1万人余り出ると仮定している(政府の「高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議」資料)。

 今回の改正は75歳以上の免許を取り消しやすくし、自主返納へのプレッシャーを高めるものであることは間違いないだろう。

 しかし、公共交通が未発達の地域では、仕事や生活の上で運転免許を失う不利益は大きい。認知症の専門家の団体などは、免許を失う高齢者への生活支援強化や認知症の診断だけで運転能力を判断する不当性を提言して、取り消し処分への慎重な姿勢を求めている。老いの進行は一様でなく、専門家の英知を集め、実態を見極めるしっかりとした能力判定手法の開発が求められる。

 もちろん、高齢運転者の事故を防ぐ手立ては免許取り消し制度以外にもある。国土交通省は、自動ブレーキなど安全技術の向上、普及をメーカー各社に求めている。特に地方の高齢者がよく利用する軽自動車を自社生産するメーカー4社(スズキ、ダイハツ、ホンダ、三菱)に対しては「軽自動車における高齢運転者事故防止対策プログラム」の策定をことし2月、要請している。

 軽自動車が主力のダイハツは、自治体や日本理学療法士協会らと組み、高齢運転者の事故低減を目指す「産官学民」の取り組みを本格的に始めた。取り組みの幕開けとして位置づけたイベントを5月26日、三重県松阪市の三重ダイハツ松阪船江店で開催。地元のお年寄りらを招き、理学療法士による運転能力維持の運動講座や安全運転の講習会などを催した。ダイハツの三井正則社長や竹上真人松阪市長、半田一登理学療法士協会会長らも顔をそろえ、参加者のお年寄りらと交流しながら運転能力維持の体操などを体験した。

 三井社長は「ダイハツは少子高齢化という日本社会の課題に取り組む。お年寄りがいつまでも自由に移動できる自立した生活をサポートしていく」と述べ、今回の松阪を皮切りに今後、全国の販売会社を拠点に同種の取り組みを継続していく決意を表明した。竹上市長は「(少子高齢化対策は)行政だけでは限界がある」と今回の産官学民の取り組みを歓迎した。

 半田会長は「我々は運動のプロ。退化(老化)を止めることはできないが、遅らせることはできる。(診療の補助に該当しない)健康づくりは医師の指示なしでできる」と理学療法士の役割増大に自信を示した。

 人生100年時代を迎えたころ、人の運転能力は何歳まで維持されるのか?100%安全な夢のような自動運転技術が確立されるまで続く難問かもしれない。

最終更新:6/1(木) 12:41
オーヴォ