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アカデミー賞脚本賞ノミネート作品、『20センチュリー・ウーマン』の監督にインタビュー

6/1(木) 18:41配信

GQ JAPAN

マイク・ミルズ監督の7年ぶりの新作『20センチュリー・ウーマン』が6月3日から日本で公開される。「脚本を書くことすべてが辛かった」と語る、苦悩の向こうに見えた希望とは。

【映画『20センチュリー・ウーマン』の写真を見る】

1979年の夏。ジミー・カーターがホワイトハウスで過ごした最後の年。「強いアメリカ」をスローガンに掲げたロナルド・レーガン政権へと移行する前のアメリカの転換期でもあったこの年が、映画の時代設定である。

主人公は、カリフォルニア州サンタバーバラで暮らす55歳のシングルマザーのドロシア(アネット・ベニング)。彼女は15歳の一人息子、ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)について、2人の女性たちに相談をもちかける。ひとりはドロシアの家を間借りする24歳の写真家アビー(グレタ・ガーウィグ)、そしてもうひとりは2つ年上の幼なじみのジュリー(エル・ファニング)。「ジェイミーを助けてやって。この混沌とした時代に自分を保って生きるのは難しい。でも私はついていてやれない。子離れしなきゃ。私ひとりの支えじゃとても足りないわ」──

監督のマイク・ミルズは、ソフィア・コッポラ監督作品『ヴァージン・スーサイズ』(1999)のオープニングでのガーリーなグラフィティや、マーク・ジェイコブスの服地のデザイン、またビースティ・ボーイズやソニック・ユースのアルバムジャケットのグラフィック・デザインを手がけるなど、ニューヨークのアート&カルチャーシーンを牽引してきた人物のひとりである。

初の長編映画監督作品『サムサッカー』(2005)と、次作の『人生はビギナーズ』(2010)では、切なくも多幸感溢れる作風で人々を魅了した。この『20センチュリー・ウーマン』は3作目の長編映画で、自身の母親をモデルとした女性の視線から反抗期を迎えた息子を描き、第89回アカデミー賞の脚本賞にノミネートされた。作品の時代背景は郷愁を誘う1970年代。トーキング・ヘッズやデヴィッド・ボウイといったパンクロックやニューウェイヴの音楽を効果的に使い、若かった時代にはだれもが持っていたみずみずしいイノセンスな気持ちを蘇らせる青春映画だ。ただし、ミルズ作品らしく、現代のフェミニズムがさりげなく、けれど力強く脈打っている。

来日したマイク・ミルズに最新作の舞台裏から子育てまでを訊いた。

──この映画は母親の視点から思春期の少年を描き出すという構図が新鮮でした。本作は、誰に向けての作品だと考えていますか?

僕はこの映画のモデルになったようなパワフルすぎる母親、そして2人の姉の下で育ちました。そんな自分の人生の記録として、「女性に育てられた男の子」のドキュメントというかポートレートを描き出したかった。僕の母はミステリアスで、息子の自分も知らないところがいろいろありました。それでも彼女を軸に映画をつくろうとしたのだから、チャレンジングでしたし、神経を使いました。だって、僕には母親の経験はないから彼女たちの気持ちが本当には分からないわけだし。それに、この映画の真価をはかるのは、きっと世の中の母親である女性たちのはずでしたから。 ということで、母親たちに向けて作った映画だとは思っているけれど、もちろん誰にでも見てほしいですよ(笑)。でも僕の作品は、グラフィティアートにしてもそうだけれど、わりと女性に受け入れられているようにも思うから、母親でない女性にも多く見てもらいたいですね。

──今回の作品はアカデミー賞脚本賞にノミネートされました。執筆で苦労した点は?<

それはもうとにかく書きつづけること、それがいちばん大変でしたよ(笑)。とくに母親をどう書けばよいか、ということについては、途中、いろいろ混乱しました。「ああ、なんでこんな作品に手をつけてしまったんだ」って何度思ったことか。プロットを使いたくない、でも面白い映画にしたい。じゃあ、どうしたらいいんだろうって途中で何度も悩みました。そういうわけで、書き上げるまでに、2年も3年もかかってようやく完成したのです。

──脚本執筆中に父になりましたね。子どもが生まれたことで、作品づくりに何か変化は起こりましたか?

あらゆる点で見方が変わりました。それゆえ、途中で脚本を書き直すことにもなりました。ドロシア(母親の役名)と同じ感情を自分の息子に抱くようになったしね。例えば、こんなふうです。あるとき、息子を保育園に送り届けた後に、ちょっと隠れて彼を覗いていたことがあったんです。すると、遊んでいるとき息子は、普段僕たちが見たことのない表情を浮かべ、普段僕たちの前ではしない振る舞いを見せたのです。「こんな息子、僕は知らないぞ!」ってショックを受けましたね。それに何より、息子を愛しすぎて周りが見えなくなってしまう、まさにドロシアみたいな感情を覚えました。

そんなこんなで、作品のいろんな構造を変えていくという作業に手こずって、「ああ、こんな作品を作ろうなんて思わなけりゃよかったのに」と何度もおもいましたよ。

──製作中に生まれた息子さんも、今や5歳ですよね。どんな少年時代を過ごしてほしいですか? やはりフェミニストになってほしい?(ミルズのパートナーはフェミニズムを唱える映像作家で小説家のミランダ・ジュライ)

もちろん、母親にならって彼はすでにかなりのフェミニストですよ(笑)。たまにズボンじゃなくってドレスを着たりするし。そうですね、他人を傷つけることなく、誰かにそっと見つけてもらえるような人間になってほしい、と思っています。今のこんな時代じゃなかなか難しいことだけれど。ただただ幸せになってほしい。その手助けができるといいな、と思いながら育てています。

──母親、女友達、同居人……すべての登場人物のキャラクターが立っていて魅力的でした。もし監督がこの登場人物の中で友情を深めたいとしたら誰ですか?

うーん、それは自分の子ども達の中から誰かひとりを選べというような質問ですね。現場ではみんなと親しくなってしまったし、みんなで映画を作るという旅をしたことは素晴らしい経験になったから、誰と特定するのは難しいですね。

──GQ読者にどのシーンを一番観てほしいでしょうか?またどんなことを感じてほしいですか?

僕はひとつの回答やひとつの感情を導き出すための映画を作っているつもりはなくて、それぞれの人の中にある何かの思いを膨らませてもらうために作品を作っています。だからどう感じてもらってもいいし、どう見てほしいとコントロールする気もない。映画の中に自分の居場所を見つけてもらえると嬉しいな、と思うだけです。もちろん、見た人に嫌な思いを持ってもらいたくはないけれどね(笑)。 ただ、今回の作品は、今までになくファニーな娯楽性のある映画になったと思っています。僕の母親が好きだった30年代や40年代のハンフリー・ボガートの作品などを見返したりもしましたが、それらの映画のウィットが僕に楽しい映画を作る勇気をくれたと思っています。

──最後に、あなたにとって理想の紳士像は?

とにかく礼儀正しく、優雅で、相手に対してリスペクトを持っている人かな。母も「自分より弱い人や目下の人に敬意をもてる人がジェントルマンよね」と言っていました。例えば従業員やウェイターといった人たちにとる態度でもジェントルマンかどうかがわかると言っていたけれど、僕も本当にそうだと思っているよ。

『20センチュリー・ウーマン』
2017年6月3日(土)丸の内ピカデリー/新宿ピカデリーほか全国公開
監督:マイク・ミルズ
出演:アネット・ベニング、グレタ・ガーヴィグ、エル・ファニングほか
配給:ロングライド
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Words: Yoshiko Miyasaka

最終更新:6/1(木) 18:41
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