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川島永嗣が語る「葛藤の1年」。求めるものは「もっと先にある」と気づいた【インタビュー】

6/1(木) 10:20配信

フットボールチャンネル

 昨夏にフランス・リーグ1のメスに移籍したGK川島永嗣。加入当初こそベンチ外になることが多かったが、チームが1部残留を争うシーズン終盤には、正守護神としてゴールを守った。日本代表GKは出場機会の少ない日々をどのように過ごし、立場を逆転させたのか。シーズン終盤の5月10日、メスのホームスタジアムで川島本人がインタビューに応じてくれた。(取材・文:小川由紀子【フランス】)

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●五大リーグでやりたいという思い。チャンスを獲らない理由はなかった

 昨年8月、日本代表のGK川島永嗣はフランス・リーグ1のFCメスに入団した。

 昨季もゴールを守ったクラブ生え抜きでフランスU21代表の成長株トマ・ディディヨン、昨年バックアッパーを務めたダビド・オーベルハウザーとすでにお抱えGKが2人いるところへ迎えられた川島だったが、4月18日に行われた31節のPSG戦でリーグ戦に初出場すると、35節のナンシー戦からは先発GKとして最終節までゴールを守り、37節のトゥールーズ戦ではPKもセーブ。来季のリーグ1残留にも貢献した。

 控えGKというこれまでなかった経験からシーズン終盤に先発の座をつかんだ、ドラマティックな今季を振り返ってもらった。

―――まずは簡単にメスに入団した経緯からお聞かせください。

川島(以下K) 去年の夏は正直すごく厳しくて、ダンディーに残るオプションもあったけれど、自分としてはやはり1部でやりたい気持ちがありました。

 いろいろ話が出たりする中で、一昨年もそうだったんですが、GKのマーケットはポジションがひとつしかない分なかなか動かないこともあって決まりそうで決まらない、という状況が続いていて、その中でたまたまこの話をもらって。

 最初電話をもらったときには、「出る保証は正直ない、ただ、競争はある」と言われました。一番手、二番手はいるからと。

 でも電話をくれた人から「お前なら競争に勝てるという気持ちがあると思うし、クラブはリーグ1でもやれる経験のある選手を探している」と聞いたので、それだったら挑戦したい、と。その場で「ここでやろう」と思いました。

―――最初に監督やクラブ関係者と顔合わせしたときの感触は?

K (実際に出られそうかという感触は)わからなかったですね。そもそもキーパーというのは(先発選手が)替わるポジションではないし、保証はまったくなかった。

 今までベルギーとスコットランドでやらせてもらってきた間も、ずっとヨーロッパの五大リーグでやりたい、という気持ちでやっていたけれど、そのチャンスはなかなか得られなかった。

 なので、保証はないけれどチャンスがあるよと言われたら、今まで自分が思い描いてきたところにたどり着くためのチャンスを獲らない理由はない、と。

●葛藤の日々…思うようにいかない苛立ちはあった

―――その覚悟で加入したあと、実際に2人のGKと合流してからの印象は?

K 自信はもちろんありましたけど、今までベルギーやスコットランドでは出ることが当たり前だった中で、トマはすごくポテンシャルのあるキーパーだし、21歳といったらGKとしては若いけれど、やれることの大きさというのを練習で感じたので、競争という意味ではすごくやりがいがあるな、と思いましたね。

若くても体がでかくてパワーもあるし、止められるエリアとか範囲が全然違う。そういうところで自分が勝っていかないと試合に出られないな、と。

―――反対にアピールできると感じた点は?

K 自分が劣っていると考えたことは逆になくて、競争の中で勝っていくためにはどうしないといけないのかな、と考えていました。自分は日本人でこちらでは外国人だから、同じスタンダード、同じ舞台でやっていても自分を出す意味が無い。

 同じレベルのことを考えるのではなくて、自分は外国人として何をチームにプラスアルファとしてもたらせるのか、ということを突き詰めていかないといけないと。言葉で言うのはなかなか難しいですけれど……。

―――その中で1月に実戦のチャンスが訪れました(1月8日のフランス杯ラウンド32、対FCランス戦にフル出場。2?0で敗れて敗退)。

K あの試合はメンバーもローテーションで若手も出ていたし、ずっと出ていた先発メンバーが出ていたゲームではないから、その中で自分に何ができるのか、とにかく自分のやれることに集中するしかない、というゲームだったと思うんです。

 結果が出なかったのは残念だったし内容も含めて自分では納得していないですけど、8月からずっと試合に出られない状態で(チャンスを)待っていたわけだから、そういう意味では試合に出られたことはまず第一歩。

 10月くらいに初めてベンチに入れて、そこから試合に出られて、と、ステップ的には前に進んだのかな、と思いました。

―――日々懸命に取り組んでいながらも心が折れそうになったことも?

K それはもう、日々葛藤……じゃないですか(苦笑)。

 葛藤するからこそ、自分が新しい気持ちを求めるわけだし、逆に葛藤とかそういうものがなければ、自分の中から湧き出てくるものもないだろうし。

 ベンチに入ったりとか、日々やっている中で本当にゆっくりだけど一歩一歩進みながらも、なかなか自分が思っているようには進まないということに対する苛立ち、というのはもちろんありました。

 でもとにかく自分は、キャリアが終わったときにやりきった、と思える人生が良い。それを考えたら、「もらったチャンスだから、やるだけやって、ダメだったらしょうがない」と思いながらやっていましたね。

●終盤の残留争い。自分のアピールより“使命”を果たすという思い

―――PSG戦はローテーションで出場したとのことですが、その後チャンスが来るとは思っていなかった?

K 代表から帰ってきた後で(3月のW杯予選)残りのシーズンも少なくなったし、チームの調子も、年が明けてから失点も減って悪くなかったから、現実的に考えて難しいんじゃないのかな、とは考えていました。

―――PSG戦の次のロリアン戦でディディヨンが5失点を喫すると、翌節のナンシー戦で先発に起用されました。監督からはなんと?

K 「次の週末の試合はお前で行くから」と。

 また大変なゲームが来るなあと思いましたね。ダービーだし。ダービーはその町の人が一番思いを賭ける試合で、それはどこの町でも変わらない。ベルギーでもスコットランドでも経験させてもらったけれど、それだけ注目されて思いがこもった試合だし、なおかつ直接対決。

 勝てば自分たちは残留に近づくけれど、負けたらかなり危ない状況になる……自分が試合に出る、出ないよりも、これだけ大きい試合になったらとにかく集中力高めてやるしかないな、という気持ちで、自分が出るとかそういうことはあまり考えていなかった。

 試合が終わった後で、ひとつ山を乗り越えた、というような気持ちの高揚はありましたね。

―――ということは、ここで自分をアピールしよう、といったことはあまり考えていなかった?

K というよりは“使命”、ですよね。PSG戦はどちらかというとプレゼントのようなもので、ここまでやれることはやってきて、ローテーションだったけれど監督からは「tu merites(君はそれに値する)」と言われたのでとにかく楽しもう、と。

 けれどナンシー戦に関しては、クラブの行く末がかかった試合、なおかつダービーだったので、自分が出るからどうこうというよりは、このクラブの一人として勝つ、という使命を託された感じでした。

―――この試合でのプレーが(2-1で勝利)次のリール戦出場にもつながりました。

K そうですね。勝てばやっぱり。キーパーを替えるということはあまりないので。

●「思い描いてきたものを達成できた」という感じではなかった

―――フランスリーグのアタッカーの印象は?

K ベルギーでも飛んでくるシュートなどは違うので、日本とは違う感覚で、キーパーとしての役割をより求められる中でこなしていかないといけない、という中でやっていましたけど、(フランスでは)選手のサッカーIQも技術もみんな高いし、そういう相手とやれるのは、今までとは全然違うと感じますね。

―――自分も研ぎ澄まされる?

K 自分のスタンダードを変えていかないといけないと感じます。このスタンダードで自分も勝ち残っていけるようにやっていかないといけないし、そういう基準を肌で感じられるのは大きいんじゃないかと思いますね。

 代表でもそのような機会はありますけど、対戦できる回数が年に一回なのか、3、4回なのか、回数によって違ってくる。そういう相手と対戦する回数が多ければそれだけ自分が感じたことを、次の試合で何ができるかという基準をもってやれる。

 一回だけ経験して何か答えが出る、ということはおそらくないと思うんです。何回も対戦するから、自分の中の基準が変わっていって、「こういう中でこういうようにやらないといけない」というように自分の実になっていく。そういう意味で、スタンダードにそういう相手とやれるというのは、自分にとって大きいのかな、と思います。

―――五大リーグでプレーしたかったという目標を達成したという充実感は?

K う…………ん。……それも考えていたけれど、結局やっぱり記録というか、そんなのはどうでもいいというか……。いままで僕は五大リーグで日本人のGKがピッチに立っている姿をずっと想像してきたし、その日がくるのを自分の中で心待ちにしてきたし、そんな日が来たらいいな……とすごく思っていたけれど、自分が思い描いているものとか、自分がパッションをもってやっていることって、それだけじゃないんじゃないかな、と。

―――それに気づいたのは?

K 試合に出てみて、大きな一歩を自分の中で踏み出した、またひとつ結果を出せた、と思ったけれど、でもそれは自分の中で、「自分が今まで思い描いてきたものを達成できたんだな」という達成感、ではなかったんですよね……。

―――それはなぜだと?

K 自分が思い描いているものは、もっと先にある、ということなのかな、と。

 でもうれしかったですよ。というか、その一言では表せないような……試合に出たときは奥さんとも喜んだし、これまでチームがないときも、試合に出られないときも多くの人に支えられてきたし、そういう人たちにはすごく感謝しているし、そういう支えがあったから自分はその一歩を踏み出せたんだと思うけれど、自分が目指しているのは、そういう記録、のようなものではなくて、もっとこう……人の心に残るようなことをやりたいということなのかな……と。

●単純に「最後出られてよかった」、という感じではない

―――メスはどのようなクラブですか?

K 言い方は変ですけど、すごくまともなクラブ、というか、すごくファミリー的なクラブです。近年こそ落ちたり上がったりを繰り返していますけど、もともとリーグ1にずっといるクラブで、そういう意味ではプロフェッショナルの定義というのがクラブの中にある。

 フランスの中でも小さいクラブですが、その中でもプロフェッショナルな意識はしっかりありますね。

―――ではフランスリーグの印象は?

K フランスって全然ブーイングがないんですね!

 みんなは「ファンのブーイングが!」と言ってるんですが、僕は「スタンダールと比べたらこんなのブーイングじゃないよ」っていつも思うんです(笑)。

 サンテティエンヌなんて、僕たちとやったときにはひどい試合をしたのに、ブーイングが一度もなかったんですよ、90分間! ランスなんかも超ポジティブですし。スタンダールの印象で、フランスもそういう基準なのかな、と思っていたんですが、スタンダールが特別だったんですね……。

 なのでフランスリーグの印象が変わりました。でもヒロキ(酒井宏樹)は大変かもしれないですね。マルセイユは!

―――今シーズンを振り返ると、どんなシーズンだったと?

K 大事なシーズンだったなあと。出る回数は少なかったけれど……1試合にかける気持ちが半端じゃなかったですよね。代表戦も含めて。なので単純に、「最初出られなかったけど、最後出られてよかったな」と言えるようなシーズンではなかったです。

 3月の代表戦のときもどれだけ重要なゲームかわかっていたし、ここ(メス)でもそうだし、単純に「最後出られてよかった」、という感じではないですね……。

―――来季については?

K 契約があと一年あるので。一部に残れることも決まったし、ここでチャレンジできれば最高です。

(取材・文:小川由紀子【フランス】)

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