ここから本文です

米議会で債務上限引き上げをめぐる攻防再び

6/1(木) 20:00配信

ニューズウィーク日本版

<アメリカにデフォルトの危機が再来。すぐにも債務上限を引き上げなければ資金調達ができなくなるが、保守強硬派は財政支出削減が条件と譲らない>

トランプ米政権は、大きな問題を抱えている。悪くすると、世界を巻き込む危機になりかねない。連邦政府の資金調達が予定通りに進まず、すぐにも新たな借り入れをしなければならないかもしれないのだが、米議会が連邦政府の債務上限を引き上げてくれない限り、借り入れは増やせない。そうなると、米政府は国債の元利金などが支払えなくなるデフォルト(債務不履行)も免れない。

アメリカが突然デフォルトに陥れば、世界の金融システムが混乱する。米ドルは、世界で最も安全な資産され、世界各国が外貨準備として保有する。万一ドルへの信頼優位が揺らげば、世界的な金融危機の引き金を引きかねない。招きかねない。

デフォルトはおそらくないとしても、依然として深刻で極めて高くつきそうな問題は存在する。

この問題は過去にも何度か浮上した。オバマ政権下の2011年には、共和党が歳出削減を条件に債務上限の引き上げに反対した。民主党との対立が続くなか、市場では米国債に対する絶対的な信用が揺らぎ始めた。夏に土壇場で合意に達し、デフォルトは回避されたが、格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)が米国債の格付けを引き下げた結果、米政府の借り入れコストは上昇した。

保守強硬派はデフォルトに危機感なし

そして今年、スティーブン・ムニューシン米財務長官は議会に対し、歳入が思うように上がっていないので、8月に議会が休会する前に「付帯条件なし」で債務上限を引き上げるよう求めた。だが、共和党の保守強硬派下院議員で構成する議員連盟「フリーダム・コーカス」は、歳出削減とセットでなければ債務上限の引き上げには応じないと今から噛みついている。ムニューシンが、デフォルト寸前だった2011年の悪夢の再来を懸念するのは当然だ。

【参考記事】「財政の崖」危機と米国債格下げのから騒ぎ

議会の駆け引きを難航させそうなのが、米行政管理予算局(OMB)のミック・マルバニー局長だ。共和党下院議員でフリーダム・コーカスの共同創設者でもあるマルバニーは、財政保守派として知られ、歳出削減なしでは債務上限引き上げに応じたくない立場だ。債務上限が引き上げられなかったときの混乱に対する危機感が、ムニューシンほど強くないのだ。「米国債がデフォルトになれば、世界経済に甚大な被害をもたらす」とマルバニーは1月に上院議員に向けた書簡で述べた。「だからといって債務上限を引き上げれば絶対に事態を打開できるとも思わない」



理論的には、マルバニーの見解が正しいのかもしれない。財務省はたとえ債務上限が引き上げられなくても、会計上の操作で当面の間はデフォルトを回避できる。ただしそれは単なる時間稼ぎで、米国債の急落を止めることはできない。マルバニーは先週の下院予算委員会で、債務上限の引き上げをどのくらい引き上げたいのか、どんな譲歩をするのかについて、具体策を示すようトランプ政権に求めた。一刻も早い債務上限引き上げを求めるムニューシンとは全く対照的だ。

しかも議会は今、米大統領選へのロシアの関与やトランプ陣営とロシアの共謀をめぐる疑惑で大忙し。今後の議会運営がますます苦しくなるのは必至だ。

大統領就任前のトランプが、多くの事業で資金繰りができたのは借金のおかげだ、借金が大好きだと豪語していた。実際に自分が助かるためなら、連邦破産法11条の適用を申請して債権者に損をさせるのも厭わなかった。

不動産王だったトランプは、過去に4度も破産した。昨年の大統領選中も、財政難のアメリカを救うため、米国債の債権者に借金棒引きを受け入れてもらうと言ったこともある(トランプはすぐに発言を撤回した)。

【参考記事】トランプは米国債をデフォルトしかねない

だが米投資銀行ゴールドマン・サックス出身のムニューシンは、それがどれほど危うい話かを理解している。議会もその危機感を共有できるかどうか、今後も目が離せない。

(翻訳:河原里香)

マシュー・クーパー

記事提供社からのご案内(外部サイト)

ニューズウィーク日本版

CCCメディアハウス

2017-8・15号
8/ 8発売

460円(税込)

他の日本のメディアにはない深い追求、
グローバルな視点。
「知とライフスタイル」のナビゲート雑誌。