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ホークとノートンはやっぱり親友――フミ斎藤のプロレス読本#014【Midnight Soul編9】

6/1(木) 9:00配信

週刊SPA!

 1992年

<プロレスってのはすばらしいビジネスだなんて、いったいだれがいった? 富と名声だとー?>

 スコット・ノートンは、どこでどうまちがってこんなことになってしまったのか自問自答をくり返した。

 ある先輩レスラーは、このビジネスはタイミングがすべてなんだとアドバイスしてくれた。それから、一人前になるまでは“修行税”を支払っておくものだとも教えてくれた。

 ノートンは、少年時代からタイミングの悪さにかけてはだれにも負けない自信があった。チャンスが訪れるまで自腹を切れといわれても、もう満足にメシを食うお金もなかった。道路工事をしていたころのほうがよっぽどましな生活だった。もうプロレスはあきらめてミネアポリスに帰ろうかと真剣に考えた。

 たまにはまともな食事をしようと、サンクスギビング・ホリデーに七面鳥を食べに故郷に帰ったら、日本遠征のはなしが舞い込んできた。

 ニュージャパン・プロレスリングのマサ斎藤が「キャリアは浅くても体がケタ外れに大きくてパワーファイター・タイプの人間的にまじめな選手」を探していた。「あまり露出されていない選手を優遇」との注釈までついていた。

<そりゃあ、オレのことじゃないか>

 ノートンは無名の新外国人選手として新日本プロレスにやって来た。オレゴンと日本を1カ月おきに往復しながら年間12週間のスケジュールで日本じゅうをツアーしながら、ノートンは2年がかりでメインイベンターのガイジンに成長した。

 ファイトマネーも2年間のあいだにプロ野球選手くらいの額にハネ上がった。チャンスがめぐってくるまでは自腹を切れ、というセオリーはほんとうだった。

「なあ、マイクとオレの試合、どうだった?」

 マイクとはホーク・ウォリアーのことだ。ノートンはきょう、ジム・ナイドハートとタッグを組んでホーク&パワー・ウォリアー(佐々木健介)と試合をした。

 ハイスクール時代から親友だったノートンとホークが、プロレスのリングで肉体をぶつけ合ったのはこれが初めてだった。

 ふたりはついに再会したのだった。

 ノートンがプロレスラーになってからは不思議なくらいふたりのあいだには接点ができなかった。ホークがWWEと契約して世界じゅうをツアーしていたころ、ノートンはまだオレゴンのローカル団体で1試合50ドルの日銭を稼いでいた。同級生なのにいろいろな意味で別べつの人生を歩んでいた。

 でも、ノートンはホークのことを羨んだり妬んだりはしなかった。ホークのような華やかなスターになりたくてプロレスラーになったわけではない。マネーも大切といえば大切だけれど、それだけが目的ではない。

 これが自分にいちばん合った仕事だとわかったから、ずいぶんまわり道をしたけれど、最終的にプロレスを選んだのだった。

 プロレスのリングでは接点はなくても、ふたりはおたがいがいまどこでなにをしているかをちゃんと知っていた。ベンチプレスだったらホークはせいぜい400ポンドくらいしか挙げられないけれど、ノートンは660ポンドを軽くクリアできる。こういうことは恨みっこなしだ。

 どちらかひとりが酒場で喧嘩に巻き込まれたら、必ずもうひとりが応援にかけつける約束になっていた。

 ホークはホークのやり方でサーキットをまわりつづけ、ノートンはノートンのやり方でプロレスを模索していたら、ぐるっと一周してふたりとも同じ場所にたどり着いた。

 高校時代とひとつだけちがっているところは、ふたりともプロレスラーとしての自我を身につけたことだった。

 反対側の花道から入場してきて、リング上の対角線を結んでおたがいの顔を見たとき、いつかはこうして再会できる日がやって来ることは初めからわかっていたことをふたりは思い出した。

 プロレスは長い時間をかけてゆっくりと完成させていくスポーツ・アートである。だから、きのうきょうの勝った負けたで大騒ぎなんかしない。ホークにはホークが思い描くプロレスの様式があって、ノートンにはノートンが考えるプロレスのスタイルがある。ふたりは、きょう初めてそれを確かめ合った。

 ノートンはバスのなかでかなりビールを飲んだのだろう。それともただ単に体が大きいからだろうか。ずいぶん長いあいだ便器の前に立っていた。やっぱり、本人がそういうように完ぺきにリラックスしちゃってるんだろう。

 プロレスラーはボディー・ランゲージの達人だ。ホークとマイクは子どもが取っ組み合いのケンカをするときみたいに、何度も何度もクォーターネルソンで首をつかみ合い、頭がもげそうになるほどの勢いでクローズラインを打ち合って、おたがいの気持ちを確認した。

 ふたりはやっぱり親友だった。(つづく)

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

日刊SPA!

最終更新:6/1(木) 9:00
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