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相手を見極めずしてディレクションはできない|片渕須直監督

6/2(金) 11:20配信

Wedge

自分の指示や考えが、相手にうまく伝わらない――。それは自分の伝え方の問題なのか、相手の理解力の問題なのか。そこで立ち止まって悩んでいても、なかなか解決策は見つからないものです。そんな時は仕事から一旦離れて、相手との何気ないコミュニケーションから始めてみるとよいかもしれません。

片渕監督が『この世界の片隅に』で示した“指針”とは

――『この世界の片隅に』は、タイトルどおり「戦中の世界の片隅」をスクリーンの上に再現した作品です。この映画は、どのような指針のもとにつくられたのでしょうか。

片渕:もともと、こうの史代先生が描かれた原作マンガが、戦時中の生活をリアルに描くという大きな指針をもっていました。僕自身そこにとても共感するものがあり、僕らもできる限り調べることで、主人公のすずさんが暮らす呉などを、徹底的にリアリティをもって描くことにしたのです。こうした作品をつくる時の指針は、監督が責任を持って出すべきです。もしかしたら会議をやって固める方法もあるのかもしれないけれど、僕はそうじゃないと思っています。

 『この世界の片隅に』は資金が集まらず本格的に制作スタートできない状況が4年ぐらい続いたので、幸か不幸か、自分たちの中で定めた指針を具体的に熟成させていくだけの時間がありました。なので、後から参加したスタッフにもより詳細な指針を伝えることができたと思います。

 たとえば、「下駄の構造がこうなっているから、歩く時の足の動きも靴とは違うよね」という部分が当時の暮らしを描くうえでとても大事なんです。そうやって指針を表現の細部にまで落とし込むことで、初めて人に任せられるようになります。また、「この細部を守らないと、この時代を描けていない。そうしないとこの作品は成り立たない」というポイントが必ずあります。それをどこに設定するか決めるのも、監督の仕事のひとつです。

――「指針の理解」というと、抽象的な大目標を共有することだと考えてしまいがちですが、そうではないんですね。

片渕:具体的なことのほうが共有しやすいですよね。アニメにはマニュアル化された「標準的な歩きの描き方」があります。でも、『この世界の片隅に』のキャラクターの歩きはマニュアルどおりではなく、「かかとを高く上げない」など自然な動きを目指しました。

 掲げた指針を具体化していくと、自分のやろうとしていることが、ほかの“標準的なもの”とどう異なっているかが見えてくるんです。それが、その作品の“旗印”を鮮明に掲げることにも繋がります。

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最終更新:6/2(金) 16:20
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