ここから本文です

ジビエ・ビジネスの光と影 獣害対策の切り札となるか

6/2(金) 12:20配信

Wedge

 ジビエ(野生鳥獣肉)が注目を集めている。政府もジビエ利用拡大の旗を振り、各地で事業化の動きが目立つ。獣害を引き起こすシカの駆除をジビエの普及によって促進しようという発想だ。

 その最前線に位置する兵庫県丹波市で、シカ肉の販売・流通を手掛ける丹波姫もみじに到着したのは3月上旬の朝だった。柳川瀬正夫社長に話を聞こうと思った途端、事務所の前に軽トラが止まった。荷台には大きなニホンジカ。胸が赤く染まっている。

 さっそく社員が集まって、食肉処理場に運び込む。重さを量ると70キロを超えた。「これは大物だな」。そんな声が響く。持ち込んだ人によると、畑に仕掛けたくくりワナに掛かっていたのだそうだ。まだ仕留めて30分と経たない。その後も次々とシカが運び込まれた。猟期中は1日10頭以上持ち込まれるという。

 「もっとも多い日は26頭だったかな」というのは、解体を担当する足立利文さん。1頭の皮を剥ぎ内臓を抜くまで10分くらいだという。その後冷蔵室で約1週間熟成させてから肉の部位を切り分ける。

 丹波姫もみじの昨年の処理数は、約1800頭にのぼる。ニホンジカ専門の処理施設としては日本最大級だ。ジビエブームに乗って急成長か……。

 「全然、利益は出ません。一時は廃業を考えたくらいです」

 意外や柳川瀬社長の口調は重かった。シカ肉ジビエの現状はどうなっているのか。

 農林水産省の出す野生鳥獣による農作物被害額は年間200億円前後だが、実態はその数倍といわれる。とくに多いのがシカによる食害だ。推定生息数はニホンジカ305万頭(本州以南)、エゾジカ57万頭(いずれも2013年)。この数字はイノシシの4倍強だ。

 国は生息数を23年までに半減させる目標を立てたが、駆除した個体の有効利用が課題になってきた。毛皮や角の商品化もあるが、やはり中心は食肉だろう。

 シカ肉は高タンパク低脂肪、鉄分が多くて栄養価が高いと謳(うた)われる。シカ肉流通量の統計はないが、鳥獣処理加工施設(シカ以外も含む)は、把握されているだけで08年の42カ所から15年の172カ所に増えた。

 丹波姫もみじは、柳川瀬社長が06年に立ち上げた。補助金は使わなかったという。初年度の処理頭数は約400頭。売り物になりそうなシカのみを選び、自治体から支給される有害駆除報償金と合わせて1頭5000円で買い取っていた。5年前に丹波市から求められて獣害駆除のシカをすべて受け入れ始め、急拡大した。また営業を重ねてシカ肉を扱う料理店なども増やしてきた。

 しかし利益はほとんど出ないという。買い取りも打ち切り、今ハンターに渡すのは割り増しされた報償金(7000円)だけだ。柳川瀬社長は、シカ肉がビジネスとして難しい理由を語る。

 「シカは売り物になる肉が少ないんですよ。重量でみるとだいたい肉と内蔵、骨・皮・角が3分の1ずつ。その肉もおいしくて売り物になるのは背ロースとモモ肉ぐらい。肉質が良いのはさらに少ない。計測したところ、全体の15%程度でした。だから肉の注文が増えても十分に供給できないのです」

 背ロース肉は100グラム当たり700円前後で取引されるが、これ以上値を上げるのは難しいという。

 また肉質はシカの捕獲方法に左右される。銃猟の場合は頭か首を撃ち抜かねば使えない。銃弾が肉はもちろん内臓に当たると、大腸菌が飛び散るため食用できなくなる。

 ワナ猟も、かかったらすぐに仕留めないと暴れて打ち身になり鬱血したり、体温が上がって「蒸れ肉」になる。すると臭みが強くて食べられなくなるという。しかしハンターによってはワナにかかって数日経ったシカを持ち込むこともある。報償金目当ての猟だと、肉質を気にしないからだ。

 ほかにも年齢やサイズによる肉質や量のばらつきも大きく、実際に食用に回せる部分は極めて少ないのだ。

 残りは、よくてドッグフード用。しかし価格は10分の1以下だ。角や毛皮の商品化も進めているが、大きな需要にはなっていない。

 「有害駆除個体を受け入れると補助が出る点は有り難いのですが、逆に個体を選ばず引き取らねばなりません。しかし利用できない部位や個体は、廃棄物として処分する必要があります。その経費が経営を圧迫します」

 肝心のシカ肉供給側では、経営が厳しく悲鳴を上げているのだ。

1/3ページ

最終更新:6/2(金) 12:20
Wedge

記事提供社からのご案内(外部サイト)

月刊Wedge

株式会社ウェッジ

2017年10月号
9月20日発売

定価500円(税込)

■特集  がん治療の落とし穴 「見える化」で質の向上を
・玉石混交のがん治療
・質を競い合う米国の病院
・効果不明瞭のまま際限なく提供される「免疫療法」の〝害〟