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経験者が語る“下請けいじめ”の実態。不当な減額、買い叩き、タダでやり直し要求は当たり前

6/2(金) 16:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 過去数回に渡り、筆者の父が経営していた工場を通じて世の町工場が抱える問題をいくつか取り上げてきたが、今回は企業間で生じる代表的な問題の1つ、「下請けいじめ」について綴っていこうと思う。

 筆者が父の工場で働き始めたのは、大学の卒業式を待たずしての頃だった。

 学校から家に帰るよりも近かったため、小学生の頃から工場に通い、職人の働く姿を間近で見てきたが、「見る」と「働く」とでは、もちろん次元が全く違う。

 社会経験もほとんどないまま飛び込んでしまったゆえ、正直、“何が分からないのか”が分からず、職人、取引先、営業、両親の間で、とっかえひっかえ問題を抱えてはフルスロットルで空回りする生活を続けていた。にもかかわらず、「若いから」、「性別をハンディにしたくないから」という意気込みだけは無駄に強く、今考えても当時は今以上に余裕も可愛げもなかった。

 そんな中、父の工場には年に数通、「親事業者との取引に関する調査について」という書類が中小企業庁からやってきていた。見ると「下請け企業を守るため」なる内容のことが書いてある。

 しかし、毎日空回っていた入社当初の筆者にとって、こういった国からの書類や手紙の対応などは、正直なところ煩わしい雑務。期限内に提出せよという文言に、「おい、国まで私の仕事を増やすのか」と、机の“未処理箱”に放り込んでは、期限ぎりぎりになって当たり障りのない回答をして返送していた。

 が、徐々に自分の立場と工場の状況が把握できるようになってくると、ようやくこの書類が少なくとも自分に味方するものであること、そしてその内容と現状の一致から、自分の工場が「下請けいじめ」を受けている只中にあることに気が付く。

 その書類の回答用紙や質問冊子に添えられた送り状には、世話になっていた親事業者(元請け企業)の名前が1通につき1社、ダイレクトに書かれてあり、冊子にはその企業に対する質問が50問ほど羅列してあった。

 一瞬、「この会社、なんか悪いことして国に目をつけられたのか」と思ったが、送り状をよく読むとそうではないようで、この書類は、親事業者が中小企業庁に提出した「下請事業者名簿」を基に無作為に選ばれ送られてくるもの、そして、その親事業者に下請法上の問題が認められたか否かにかかわらず調査が実施されることを知った。

 回答期限を設けてはいるものの、下請け側には提出義務は存在しない。質問内容のほとんどが金銭や納期に関わることで、発注内容を書面に残しているか、期日通りに支払いされているかなど、どれも元請けが下請けに不当な扱いをしていないかを細かく問うものだった。

◆「専用請求書」を1500円で買わされていた

 日本には、下請法という法律がある。正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、先述したように親事業者の一方的な都合から下請け企業を守るための法律で、親事業者に対して「義務」と「禁止事項」が細かく定められている。公正で自由な競争を守るための法律として知られる「独占禁止法」では対処できない、末端企業を保護するための補完的法律だ。

 下請法が適用される業者かは、事業者の資本金額や職種などによって決まる。代表的なのが製造業で、父の工場のような、大手のくしゃみで大風邪を引くほどの弱小町工場にとっては、格好だけでも国が「マスク」になってくれることは心強かった。

 そんな下請法を通して父の工場を見た時、取引先数社から「減額」と「買いたたき」、そして「不当なやり直し」の項目に該当する行為を受けていたことが分かった。父の工場は、得意先が作った金型を預かって研磨する、いわば「技術業」。それゆえ、元請けにとっては値段を調整させる言い訳が立てやすく、不当な値下げや返品などの強要が頻繁に行われていたのだ。

「減額」とは、文字通り支払い金額の減額を強要する行為だ。下請法では、下請事業者に責任がないにもかかわらず、親事業者が発注後に代金を減額することを禁じている。

 父の工場は長年、ある取引先から彼らの言い値で仕事を受けており、さらには締日後に「月予算がオーバーしたから10%割引した請求書を再送するように」と強要されたことも度々あった。1冊1500円で購入させられていたその会社専用の請求書の束を、倉庫の棚奥にしまいながら、「同量の仕事くれるんやったら、こんなもん印刷追いつかんくらい買うたるわ」と皮肉る父親が、なぜかかっこよく見えたのを覚えている。

「買いたたきと」は、市場価格に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めることで、筆者の入社当時、訳あって混乱していた工場の弱みにつけこむ形で、通常の3分の1の価格で仕事をさせられていた時期があった。

 中でも「不当なやり直し」は、技術を売る企業にするとかなりやっかいで、父の工場の場合納品した金型のどこにも傷はなく、検品にも通った後にもかかわらず、電話で「今再確認したら傷がある。これでトライ(成形)してみるが、もしNGだったらやり直せ」と一方的に言われることが頻繁に起きていた。結局一度使った金型は全体に傷がつくため、元々傷があったなかったに関係なく、「やっぱりNGだった」のひと言で無償のやり直しをさせられることになるのだ。

 こうなれば、下請けは取引先のいいなりになるしか術がない。中小・零細の下請け企業は大手と違い、1つの契約が突然切れると、たちまちに経営が立ち行かなくなることが多々あるため、下請けは注文書に書いてある納期や金額よりも、結局取引先の顔色を見ることになる。

◆「他の会社はタダでやりなおしてくれる」

 当時、威勢の良かった筆者はこれらを埋め合わせるべく、自分の持ち合わせる最大の営業スマイルで「少しでもいいので工賃をくれないか」と何度か取引先に頼んだのだが、「他の会社は無償でやっている」「今後は他を探す」と言い放たれるばかり。

 溜まったストレスは、1人になれる帰路のトラック車内で、彼ら担当者にあだ名をつけて発散させていた。手に油が少しでも付けばすぐに洗いに行って当分帰って来ない購買部の担当者には「ラスカル」、完璧な仕事にも毎度必ず首をかしげて無言の保険をかけてくる検品担当者には「慢性肩こり」。共感してくれるのは、工場で働く営業マンだけだったが、それでも幾分気は晴れた。

 前出の「親事業者との取引に関する調査」の書類に回答した内容は、一切親事業者には伝わらないという。が、いわゆる「チクり」のようで気が進まないことに加え、逆恨みなどを気にして泣き寝入りする下請けも未だ少なからずいる。

 当時、筆者も「どうせこんな紙切れに正直なこと書いたところで、元請が変わるワケないじゃないか」という思いがあった。というのも、こういう「下請けいじめ」をするのは、「下請法」の存在を知る元請け上層部ではなく、その会社の第一線で働く工場マンで、下請法の存在や詳細を知らない作業員がまだまだ多かったのだ。

 それに彼ら工場マン自身も、上からの圧力に毎日押さえつけられながら仕事をしていることは斟酌すべき点だろう。

 世界屈指の「縦社会」国家である日本。尊敬語や謙譲語を操り、役職や位で呼び合う社会では、下にいけばいくほど時間もコストも不足し、末端に満たされるのは「変更」や「中止」などで生じる問題ばかり。

 ハンコがないと動けず、逆にハンコのせいでフレキシブルに対応できない体制が出来上がっている。上司にせがまれ、短納期・低賃金を現実化しようと思えば、彼らの「下」に位置する下請けに矛先を向けるしか道がないのかもしれない。下請けも大変だが、大手の第一線現場従事者も大変だったんだなと、工場を離れ、「上下」から解放されて分かるようになった。

 昨年度、公正取引委員会が行った下請け企業に対する親事業者への勧告や指導の合計は、過去最多の6,603件にのぼる。また、今年の1月からは「下請けGメン」なる調査員による監視やヒアリングを強化させ、取引の公正化を図ることで、中小・零細企業の経営の安定と賃上げにつなげる動きも活発化し始めた。

 フットワークの軽い中小・零細企業は、日本の技術発展の鍵をにぎっている。目先の利益だけで、下請けをぞんざいに扱うことは、大手企業にとっても日本にとっても、決していい結果を生み出さない。下請法の存在や内容を会社全体に周知させ、守らせることが、親事業者が今後「大風邪」を引かないための大きな予防策になるかもしれない。

<文・橋本愛喜>

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