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マルタ疑惑 地中海に浮かぶ小国がヨーロッパの脱税天国に?

6/2(金) 17:30配信

ニューズウィーク日本版

<地中海の美しい島マルタ島が、オンラインギャンブルのマネーロンダリングの巣窟になっているという内部告発がおこなわれた>

地中海、イタリアのシチリア島の南に浮かぶ人口43万人程度のマルタ共和国は、世界で最も小さい国の1つだ。英連邦とEUの一員でもある。「マルタ島」の名称の方が馴染み深いかもしれない。アメリカのミステリー作家ダシール・ハメットの小説で、ボギーことハンフリー・ボガートが主演した映画『マルタの鷹』(1941)の舞台として知られるほか、その美しい街並みとビーチで人気の観光地となっている。

だが、マルタにはもう一つの顔がある。それは、EUきってのタックス・ヘイブン(低課税地域)であるために外国企業を魅了し続け、とくにオンラインゲーミング産業においては世界的中心地であるということだ。その歳入は同国GDPの12%にのぼるという。

内部告発でずさんな管理が明るみに

オンラインゲーミング産業とはつまり、オンラインカジノ等でギャンブルを行うオンライン賭博のことだ。2015年には全世界で380億ドルの歳入がある。

合法的に運営するには、オンライン賭博が合法である国が発行するライセンスが必要で、マルタは2015年の時点で世界各国の企業に約500のライセンスを発行している。そのほとんどはヨーロッパの企業だ。マルタでライセンスが発行されると、マルタベースのサーバーを通してEU28か国での操業が可能となる。

ライセンス申請者の信憑性を調べ、また脱税やマネー・ロンダリング(資金洗浄)などの違法行為がないかを監視するのがマルタ・ゲーミング・オーソリティー(MGA)だが、このほど内部告発により、MGAが少なくとも2012年から14年のあいだ、サーバーのモニタリングを行わずに操業を許していたことが明るみに出た(5月26日、ロイター)。ただし、今のところは実際に違法行為があったかどうかの確認はとれていない。

MGAでは賭博サイトに使われるコンピュータサーバーにIDつきのステッカーをつける「シーリング」という方法でモニタリングをしている。IDはMGAに登録されたものと同じでなければならない。内部操作はできないが、MGAは各社がオンライン取引にどのハードウェアを使っているかを知ることができる。同社の元社員でITエキスパートであるブルガリア人のヴァレリー・アタナソフは、モニタリングの過程で10数社で不審な行為を発見し、そのたびに上司に報告したが、告発は却下されるばかりだった。

【参考記事】「パナマ文書」、「暴露の世紀」の到来

違反行為が確認された会社の一つに、スウェーデンの大手ベットソンがある。ドイツで人気のオンラインゲームサイトで、ページを見ると、ギャンブル好きで知られる元ドイツナショナルチームのサッカー選手であるマリオ・バスラーが広告塔として登場し、同サイトへの登録を誘いかけている。スポーツ賭博のほか、ライブ・カジノ、ポーカーなどもある。全世界で約1800万人が同サイトで日常的にポーカーに興じているという。



独シュピーゲルによると、2012年、ベットソンがいくつものサーバーを数年にわたってシーリングなしで使用していたことが発覚し、アタナソフが上司に報告したが、ベットソンは引き続き操業が許可された。翌年、アタナソフがベットソンとその他のケースをマルタ政府の内部監査・操作部門に報告し、さらにその翌年、ジョゼフ・ムスカット首相に宛てて手紙を書く。結局は何も起こらず、アタナソフは2015年にMGAを解雇された。ちなみに、アタナソフの上司はその後ベットソンの法律事務所に職を得ている。

ベットソンはシュピーゲルに、「シーリングはセキュリティには何の効果もない」と答え、同社は脱税や資金洗浄にはまったく関わりがないとしている。またMGAチェアマンのジョゼフ・カスチエリもロイターに、シーリングと脱税や資金洗浄に関連性はなく、監査には別の手法を用いていると述べている。

だがアタナソフは、手ぬるい監視は「疑わしい資金操業や資金洗浄、その他の犯罪行為を許す条件を整える」(ロイター)と考えている。また、マルタでは監査のないまま数億件もの取引がなされ、「適切なコネを持っていれば、企業は何年も審査なしで操業を許されている。[MGAの表向きの]ルールとは裏腹に、ITシステムは監査されない。金が消える可能性はある」とし、「ベットソンのライセンスは停止されるべきだ」と言う(シュピーゲル)。

欧州全体の緊急課題

事実、2015年にはイタリアンマフィアがオンライン賭博を資金洗浄に利用していたことが発覚したため、イタリアの数社が閉鎖されている。欧州議会のスヴェン・ジーゴルド(ドイツ、緑の党)は「マルタの犯罪資金の簡単な資金洗浄を早急に止める必要性がある」とシュピーゲルに語っている。

今回話題となっているのはオンライン賭博業界だが、それ以外にもマルタでの各企業の活動には不審な点が多いとされる。シュピーゲルは別の記事で「なぜドイツの最も有名な大企業や、最も成功している中企業が(マルタに)かかわっているのか」と、疑問を投げかける。2016年創設の国境を越えた報道調査ネットワークで、シュピーゲルやニューズウィーク・セルビアなども参加するヨーロピアン・インベスティゲイティブ・コラボレーションズ(EIC)の「マルタ・リスト」には、ドイツやヨーロッパの有名企業や著名人数千が名を連ねている。

マルタ島発のスキャンダルはまだ始まったばかりかもしれない。

モーゲンスタン陽子

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