ここから本文です

「学校に行かない」ことを選んだ、10代の書き手・別府倫太郎くんによる読む人の心を揺さぶる瑞々しい作品集

6/2(金) 12:00配信

ダ・ヴィンチニュース

 現代に生きる人たちは、仕事や勉強をするために必要なエネルギーを生み出すゼンマイ(もちろんゼンマイが比喩であることは言うまでもないのだけれど)を、毎日自分の手でギリギリと巻き、あと少し巻いたら切れてしまうくらいまできつくきつく締め上げて、それをほとんど緩めることなく生きている。

 そうしなければならないのは、世の中が動いていくスピードが勢いを増しているからだ。10年前、いや5年前に比べても、日々処理しなくてはならないことは格段に増えてしまった。目の前に現れたことを自分に必要か必要でないかを基準にして峻別し、目が覚めている間はひたすら捌き続けなくてはいけない。もちろん世界中のいま知るべき大事なことや、面白い出来事に出会う機会が増えたのは間違いない。しかし悲しい事実や誰かの悪意(意識的な場合もあるし、無意識的なものもある)に心を痛めたり、集団やシステムが存続するための強烈な流れに飲み込まれるなどするうちに疲弊し、巻かれていたゼンマイがある日突然ブツンと切れてしまう人も増えてしまった。

 もちろんこの原稿もそんな増えてしまった情報の一部だ。しかし目をとめてくれた方は、別府倫太郎くんというひとりの少年の存在を知る機会を得たことを喜んでほしい。

 本書『別府倫太郎』(別府倫太郎/文藝春秋)の表紙で降りしきる雪の中微笑んでいるのが別府倫太郎くんだ。新潟県十日町に住む今年15歳の男子で、処女作となる本書のタイトルも本人の名前であり、揮毫も本人によるものだ。収録されている散文や詩、手紙、日記、紀行文、小説はすべて倫太郎くんが取材し、考え、書き、編集したものだ。

 倫太郎くんは5歳のときに円形脱毛症から全身の毛が抜けてしまい、7歳で小児ネフローゼ症候群という病気になった。薬の副作用で太ったり痩せたりを繰り返していて、学校へは行っておらず、ひとりで本を読み、学んでいる。しかしそれは“別府倫太郎”というひとりの人間の個性であり、様々な問題を考えるきっかけを彼に与えている要素に過ぎない。倫太郎くんはそこを出発点にして、思考し、文章を練り、いつの間にか多くの人たちに染み付いている世間のルールや、見て見ぬふりをしていること、常識と思われていることに潜む欺瞞に対して疑問を呈し、本質を突いてくる。彼は10代半ばにしてすでに哲学者なのである。

1/2ページ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

【表紙】乃木坂46
特集1:乃木坂46 結成7年、その言葉は誰のものか?
特集2:フツーになんて生きられない。大人のための恋愛マンガ 恋する私たちはちょっとおかしい