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女性作家ならではの視点で描く「連合赤軍」『夜の谷を行く』桐野夏生

6/2(金) 7:00配信

Book Bang

 1972年2月19日から28日にかけて軽井沢の浅間山荘に連合赤軍が人質をとって立てこもった事件があった。24時間テレビ中継が行われ、銃撃戦を初めて生で見た。この事件の解決後、山岳ベースからリンチによって殺された多くの若者が見つかる。

 この事件はいまだに多くの人が関心を寄せており、当事者の述懐、ノンフィクション、映画、舞台、そして小説も数多く出版されている。そこにもう一冊、名作が加わった。

 元小学校教師の西田啓子は39年前、そこに参加していた兵士のひとりである。最高幹部の永田洋子に可愛がられ、服従していた。だが、仲間の金子みちよが死んだ日、君塚佐紀子と脱走した。

 5年余の服役後、ずっと一人暮らし。学習塾を経営して生活の糧を得ていたが、60歳を超えた今、妹の和子とその娘の佳絵だけがまともな話し相手くらいで、昼間のスポーツクラブ通いを唯一の楽しみとしてひっそり生きている。

 2011年、永田洋子が獄中で亡くなった。かつての仲間から連絡が入り思い出が甦る。当時の話を聞かせてほしいというライターが来た。最初は相手にするつもりもない相手から、過去の記憶が呼び覚まされる。周囲にすべてを隠して生きてきたことが、時間とともにほころび始めた。

 私にとっても連合赤軍事件は忘れられない出来事だ。中学に入りたてだった少女にとって、世直しを求めて行動していた学生たちが、なぜ殺し合いをしなければならなかったのかどうしても知りたかった。その思いは今でも続いている。桐野夏生の見立ては、今まで思ってもみないところに焦点を当てている。女性作家だからこそ書けた傑作だと思う。

[レビュアー]東えりか(書評家・HONZ副代表)

光文社 小説宝石 2017年6月号 掲載

光文社

最終更新:6/2(金) 7:00
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