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米「パリ協定」離脱=世界の終焉ではない

6/3(土) 18:56配信

Japan In-depth

【まとめ】

・トランプ大統領「パリ協定」離脱で、世界中から非難囂々。

・実はブッシュ政権も2001年京都議定書から離脱していた。

・トランプ氏は再交渉の意思も表明しており、今回の離脱に過剰反応は禁物だろう。



アメリカのトランプ大統領が地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」からの離脱を発表したことで全世界が揺らいだ。その反響は圧倒的に猛反対、激烈なアメリカ非難だといえよう。まるでこのままだと世界が終焉を迎えるかのようなヒステリックな反応とも映る。

だが一歩か二歩、立ち止まって考えることも必要だろう。当面、次のような疑問が浮かぶ。

(1)トランプ大統領はなぜこんな不評が予測される離脱の措置を決めたのか。

(2)パリ協定はその支持派が唱えるように絶対に正しいのか。

(3)アメリカが離脱したままだと本当に地球の危機がやってくるのか。

以上のような設問を考える前に、ここで重要な参考指針となる類似の前例がある。

それは同じアメリカのブッシュ政権が2001年に京都議定書から離脱したことである。京都議定書はパリ協定と同じように地球温暖化対策としての国際的な取り決めだった。温室効果ガスの削減を各国に求めた点も同じだった。

だが2001年に登場したばかりの共和党のブッシュ政権ははやばやとその京都議定書からの離脱を発表した。民主党の前任のクリントン政権が決めた措置の取り消しだった。そのときのいわゆる国際的な反発もいまほどの激しさではないにせよ、そっくりだった。地球の終わりを早める最悪の措置をアメリカの保守政権が断行した!という糾弾だった。

当時のブッシュ政権は京都議定書からの離脱の理由として、

・そもそも地球温暖化の実態は原因になお不明な点が多いこと

・温室効果ガスの役割も完全には証明されていないのに、その削減はアメリカ経済の成長を阻害すること

・開発途上国の削減目標が決められておらず、不公平であること

などをあげていた。

そのアメリカの離脱から16年、地球の危機がとくに切迫したという状況はまったくない。トランプ大統領の今回の措置もこの16年前のブッシュ大統領の措置と似た点が多々あるのである。

さてそんな歴史の背景を踏まえて、今回の出来事についての上記の3点について述べてみよう。

まず(1)のトランプ大統領の決定の理由である。

この最も簡単な答えはパリ協定からの離脱はトランプ氏の選挙中からの公約だったということだ。なぜ公約だったのかといえば、トランプ大統領の最近の演説での説明のようパリ協定はアメリカ経済に重大な悪影響をもたらすとい思考があるからだ。とくに石油、石炭の関連のエネルギー産業からの不満が強かった。地域的にいえば、ペンシルベニア州、ウェストバージニア州、インディアナ州などである。選挙戦でもとくに重要な役割を果たした州ばかりである。

(2)のパリ協定自体への疑問はアメリカの保守派では一致していた。保守派の間ではそもそも地球温暖化自体への疑問、さらには地球温暖化を認めても、その原因が人間社会が排出するガスが主体だという分析への疑問、さらにはパリ協定の内容が不公平だとする非難が年来、絶えていなかった。

(3)の疑問への確実な科学的根拠に依拠する回答は存在しないといえよう。トランプ大統領も地球温暖化という言葉が象徴する気候変動や環境問題全般への配慮は強調している。だからパリ協定から離脱しても、その協定の内容を改善するための再交渉には応じるとも述べている。環境保全のための措置も十二分にとっていくと公約している。だから今回の動きによって「地球の危機」が一気に出現するとわけではないことは確実だろう。

アメリカ国政のレベルでもトランプ大統領の今回の措置は議会両院の共和党議員の多くからは賛同を得ている。その背景には民主党のオバマ大統領がパリ協定へのアメリカの参加を議会にまったくはからずに決めたことへの激しい反発もあった。

だから以上のようにトランプ大統領の今回のパリ協定離脱は同大統領なりに、そして同大統領を支持する保守派なりに、地球温暖化問題への長年の取り組みの結果なのである。

この動きを単に「暴走」「秩序破壊」「地球の危機」などとして受け止めることは早計としかいえないようだ。

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

最終更新:6/3(土) 18:56
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