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【東京深夜0時、結婚しない女】男性化した女・明美(34歳)が抱える不倫体質

6/4(日) 10:01配信

Suits-woman.jp

地下鉄の水天宮駅の階段をのぼりながらボダンダウンのシャツが汗ばんできた。日本橋に夏が来るのは早い。栗原明美は息を整えてから、照り付ける5月の太陽の下を歩き始めた。

30歳で大手広告代理店を退職し、水天宮に自分の名前を冠した小さな広告代理店を構えて、4回目の夏になる。フリーペーパーやウェブサイトの仕事からスタートしたが、最近は、ブランドのディレクションなども増えてきた。

午前10時、陽ざしが強いというのに、水天宮の社殿を妊婦たちが大きな腹を抱え、安産の祈祷待ちのために並んでいる。「今日は戌の日なんだ」とつぶやいた明美は妊娠6か月の妹の桃子のために妊婦の列の横を通り、社殿に参拝した。結婚も妊娠も明美より先だった妹から漂う優越感と、そんな妹を尊重する両親から、いつまでも結婚できないダメなお姉ちゃんというメッセージを感じずにはいられないが、妊娠と安産の無事を祈らずにはいられない。

オフィスがある6階まで階段を上り、扉を開けデスクにつき、すべての窓を開けると、ゆっくりと水を飲む。ホッと一息つくと、昨夜、大学がある表参道駅の近くのレストランで5年ぶりに再会した同級生たちの顔を思い出した。ほとんどが結婚しており、男子には生え際があやしくなっている者もおり、女子の中には大きな腹をかかえている者もいた。広告業界にいると、気が付かないが30代というのは、“あきらめる”時期なのかもしれない。

男は女を搾取することを養分に、若さと輝きを手に入れているのか……

学生時代に深い話はしなかったが、お互い自営業になってから腹を割って話すようになった谷村雅史が、明美を見つけるとすぐにやって来た。相変わらずおしゃれで、青のギンガムチェックのシャツに、紺色のニットタイを合わせている。髪は黒々としており、流行りの大きなフェースの時計のフランスブランドの時計を身に着けている。それが、雅史が親から受け継いだ貸しビル業がうまく言っていることを雄弁に物語っていた。2年前に結婚した物静かで遠慮がちな年下の妻とは仲がよく、半年後に子どもが生まれるという。明美は雅史の妻を結婚前に紹介されたが、自分から面白いことを言わずに、人の話をほほえみながら聞いているだけのつまらない女だと感じた。

「それにつけても、皆、オジサン・オバサン臭くなったね。変わらないのは、俺とオマエだけか」

同じ34歳なのだが、雅史は確実に若返っており、瞳はキラキラしていた。理由を聞くと1年ほど前に、SUPを始めたという。サーフィンボードのような板に乗ってパドルで漕いで沖合に出るSUPがブームになっているのは知っていた。葉山の森戸海岸に毎週のように行き、トレーナーについて練習を重ねているそうだ。

「あんたもよくやるね。私は仕事ばかりだよ」と明美が答えると、雅史は露骨につまらなさそうな顔をした。

「なんだよ。相変わらずインドア派だな。オマエもSUPやらないか? いいぞ、海は。それに若い子とも知り合えるのよ。俺、23歳の女の子といい感じになってさ、今週は表参道に地中海料理を食べに行って、来週はコンサートに行くんだ」と獲物を見せびらかすように、スマホの画面を見せた。そこには、グレープフルーツのような乳房を窮屈そうにビキニに押し込めたヤンキー風の女と一緒に雅史が写っていた。

「すごい胸だね。この子、何やっているの?」

「知らないけど、ヨガのインストラクターをしたり、ハケンで働いたり、夜のバイトもしているっていってたな」

「やたら親しそうだけど……あんた結婚してるよね、寝たの?」

「ったりめーだろ。相変わらずカタブツだな。俺はヨメとは家族というより“仲間”なわけ。ヨメは今、妊娠しているし、そういうことができないわけ。子どもができて、向うも専業主婦だとさ、もう離婚とかないじゃない。だから俺、生き方を変えたの。ウチはウチ、ソトはソトってね」

男は勝手なものだ。経済的な安定を与えておけば、妻や彼女……女の人生を搾取し、何かを損ねてもいいと思っている。どんなに教育をしたところで、これは消えない。

それに、明美は年下と恋愛関係になることは考えられなかった。過去に恋愛をしたことは数回ある。1回目は目の前の雅史だ。21歳の時で、たった半年で別れてしまった。そもそも合わなかったのだ。

その後の何人かは、全員既婚者だ。最後に恋愛したのは、31歳の時で、相手は15歳上のアートディレクターで既婚者だった。彼の影響で明美は池波正太郎や司馬遼太郎作品を読むようになり、毎週金曜日のデートが楽しみだった。おそらく、これまでの人生で唯一出会った、知的でエロティックな会話ができる相手だったが、彼がシアトルに移住することになり、関係は立ち消えになってしまった。去年、Facebookで彼の名前を検索したら、孫と一緒に写っている写真が出てきて、明美は引きずって来た恋心の後ろ髪を断ち切った。

5年間、恋愛から遠ざかっても、そこそこ楽しくやってきた。実家住まいだからさみしくはないし、一緒に仕事をする仲間もいる。しかし、今から30代半ばの女が恋愛をするとなると、年齢とともに高くなるプライドをボロボロにしながら、外に向かって世界を広げるしかない。日本の恋愛市場は、“若くてかわいくて素直で女子アナみたいな女の子”を頂点に、“それ以外の女性”と分断されている。“それ以外”に属する明美が婚活するとなると、戦場に丸腰で参戦するに等しいが、それでも結婚したい。両親以外に、自分の味方でありつづける人が欲しい、他愛もないときに気兼ねなくLINEができる男性がほしい……。

しかし恋愛市場外にいるのは、知性のかけらもない男尊女卑の男ばかり。女として求められる、というあの感覚は魅力だが、一晩限りの女として使い捨てされるのはごめんだ。

認めたくない結婚願望……恋に踏み出せない34歳の女性が男性と出会う場所とは?続編に続きます。

最終更新:6/4(日) 10:01
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