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米国、大陸間弾道ミサイルの迎撃試験に初めて成功。米国本土を守る迎撃ミサイルの実力

6/4(日) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 米国防総省のミサイル防衛局(MDA)は5月30日、米国本土に向けて発射された大陸間弾道ミサイル(ICBM)を、迎撃ミサイルで撃ち落とすことを想定した試験に成功した。

⇒【画像】米国の弾道ミサイル防衛の概要

 米国はすでに、弾道ミサイルを迎撃できるミサイルを何種類も開発して配備し、試験も行われている。

 しかし、今回試験された「グラウンド・ベースド・ミッドコース・ディフェンス」、通称「GMD」と呼ばれる迎撃システムは、これまで迎撃試験に何度も失敗しており、さらにICBMの迎撃を想定した試験は今回が初めてでもあったことから、関係者らにとっては大いなる福音となった。

 今回は、このGMDの概要や仕組み、必要性などについてみていきたい。

◆「弾丸を弾丸で墜とす」迎撃ミサイル

 最初に、弾道弾迎撃ミサイルについて簡単に触れておきたい。

 弾道弾迎撃ミサイルは、敵から発射された弾道ミサイルを、飛行中にこちらから発射したミサイルをぶち当てて、破壊することを目的としている。

 その特徴からよく「弾丸を弾丸で墜とすようなもの」と言われることもある。実際には相手のミサイルもこちらのミサイルも軌道を変えることができるため、発射したら最後、まっすぐにしか飛ばない弾丸をたとえにもちだすのは、必ずしも正確とはいえない。しかし、ミサイルにミサイルを当てて墜とすことの難しさをざっくり伝えるのには十分といえよう。

 迎撃ミサイルにはいくつかの種類があるが、おおまかに「敵のミサイルを、どのタイミングで迎撃するか」によって大別される。

 この敵のミサイルが飛行しているタイミングには、3つの種類がある。

 まず敵から発射された弾道ミサイルは、ロケット・エンジンやモーターで勢いよく、斜め上に向かって上昇する。この間のことを「ブースト・フェイズ」という。

 ロケットの燃焼はものの数分で終わるものの、その後もミサイルは慣性で上昇を続け、やがて宇宙空間に到達。核爆弾などを積んだ弾頭部分が分離され、そのままホームランのボールのように放物線を描いて落下を始める。この間のことを「ミッドコース・フェイズ」という。

 そしてミサイルの弾頭部分は大気圏に再突入し、目標に向かって突っ込んでくる。この間のことを「ターミナル・フェイズ」という。

 このうち、海上自衛隊や米海軍の艦艇に搭載されている「SM-3」というミサイルはミッドコース・フェイズで、たびたび市ヶ谷の防衛省などに展開されてニュースになる「PAC-3」や、韓国への配備をめぐって問題となっている「THAAD」(サード)といったミサイルは、ターミナル・フェイズでの迎撃を担う。ちなみにブースト・フェイズでの迎撃ができるシステムは、今のところはまだない。

 また、それぞれの迎撃ミサイルは、弾道ミサイルを探知、追跡するレーダーなどの地上設備と一体となってシステムを組んでおり、さらに宇宙空間には、弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒衛星も配備されている。

 迎撃ミサイルは決して100%確実に撃ち落とせるというわけではなく、またミサイルが複数発射されたり、特殊な飛び方で発射された場合には対応できないシステムも出てくるため、異なるシステムを複数用意し、さらに他のシステム同士とも連携を取ることで、迎撃の可能性をできる限り高めている。

 また、ここで例に出したのは米国や日本を中心としたシステムだが、ロシアや中国なども、規模の大小はあれ、似たようなシステムを独自に配備している。

◆ICBMから米国本土を守るためのGMD

 今回試験されたGMDは、このうちミッドコース・フェイズで、ICBMの迎撃を行うことを目的に開発されたシステムである。

 自衛艦などにも搭載されているSM-3もミッドコース・フェイズでの迎撃を担うが、洋上の船から発射する都合上、ミサイルの大きさに限界があるため、射程は短い。そもそもSM-3は短距離ミサイルから中距離弾道ミサイルまで、ICBMより短い射程の、多種多様なミサイルの迎撃を念頭に置いており、そこまで高く遠くまで飛ぶ性能は求められていない(もっとも、最新型のSM-3ではICBMの迎撃も可能とされる)。

 一方でGMDは、「ICBMから米国本土を守る」という明快なコンセプトをもっている。そもそも在日米軍基地などを除く、米国の本土にまで届くミサイルというのは、大陸の間を越えて飛べるミサイル、すなわちICBMしかない。

 また、ICBM(に限った話ではないが)には、複数の弾頭が搭載されていたり、高高度の空中で起爆したりするミサイルもあるため、ターミナル・フェイズでの迎撃では間に合わないこともある。そのためミッドコース・フェイズで潰しておく必要があるものの、そのときICBMが飛ぶ高度は1000~2000km、速度も秒速約7kmにもなる。

 それを迎撃するため、GMDで使われるミサイル(「GBI」という)は、SM-3よりも高い高度まで飛ぶ必要がある。

 それと同時に、敵のミサイルに当てるための弾頭もより大型で高性能のものが必要になる。GBIの弾頭には、エクソアトモスフィリック・キル・ヴィークル(EKV)と呼ばれる、小さな人工衛星のような装置が搭載される。ミサイル本体から切り離されたEKVは、小型のロケットを細かく噴射して、目標のミサイルとちょうどぶつかるように調整しつつ飛行し、そして体当たりする。同様の弾頭はSM-3なども搭載しているが、GBIで使われるそれはより大型かつ、性能も高い。

 当然、それを打ち上げるミサイル本体も大きくする必要があり、SM-3の質量は約1.5トンなのに対し、GBIは約21.6トンもある。

 この大きさ、そして米国本土を守るという前提があることから、発射は地上に設けられた固定式の発射台から行うことが前提になっている。

 ちなみに、GMDが撃ち漏らした場合は、ターミナル・フェイズでの迎撃を担当するPAC-3やTHAADが最後の砦となる。

◆初のICBM迎撃試験の成功の意義

 今回の迎撃試験は、太平洋に浮かぶマーシャル諸島にある米軍施設からICBMを発射し、それを太平洋上に配備している強力なレーダーで探知、追跡。そしてカリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地からGBIを発射し、レーダーからのデータを頼りに飛行してICBMを迎撃する、というシナリオで行われた。

 前回の迎撃試験からは約3年ぶりで、新たに開発された弾頭を装備した、そしてICBMの迎撃を想定した試験としては、これが初めてだった。

 GMDの開発は当初の予定から大きく遅れており、さらに過去の迎撃試験でも、ICBMより簡単なはずの中距離弾道ミサイルなどを想定したものだったにもかかわらず、失敗が相次いでいた。当然、開発コストも当初の見積もりを超過している。

 その中において、今回の新開発の弾頭によるICBMの迎撃を想定した試験の成功は、関係者らにとって福音となったのは間違いない。

 GMDの計画は2010年代に入ってから始まったが、そもそもICBMを迎撃するという構想は、それこそICBMというものが誕生したころからあり、1980年代にレーガン政権下で立ち上げられた戦略防衛構想、通称「スター・ウォーズ」では、ソ連から飛んでくるICBMを、宇宙空間からレーザーで破壊するという構想まであったほどである。

 その後、ソ連が崩壊して冷戦が終わると、今度はイランやイラク、リビアなどがもつ、ICBMよりは短距離の、戦術弾道ミサイルへの対処に主軸が移った。とはいえ、ロシアがもつICBMは依然として脅威であり、さらにイランや北朝鮮といった国も、将来的にICBMを保有するかもしれないという懸念から、計画や組織はいろいろ変わりつつも、ICBMを迎撃するミサイルの検討や開発は続けられていた。

 そうした経緯、歴史がある中で、今回のGMDによるICBMの迎撃試験の成功は、米国にとって、また技術的にも、大きな成果をあげたといえよう。

◆進化を続けるGMDと、北朝鮮やイランへの圧力

 今回のような試験は今後も継続的に行われる予定だが、それと並行して、すでにGMDは米国に配備されており、ICBMの飛来に備えている。

 もっとも、GMDはこれで完成というわけではなく、現在も改良型の弾頭や、さらに前述した弾頭を複数もつICBMの迎撃に対処できる弾頭などの開発が進んでいる。

 なお、今回の試験にからんで、このところ弾道ミサイルの発射をくりかえす北朝鮮やイランへの圧力や牽制といった見方もあったが、それは半分間違いであるが、半分は正しい。

 今回の試験は以前から実施が予定されていたものであり、またミサイルの発射試験は思い立ったが吉日というわけにはいかず、事前に施設使用の申請や関係機関との調整などが必要になる。つまりこの日、このタイミングで試験が行われたのは、まったくの偶然にすぎない。

 しかし前述のように、GMDのようなICBM迎撃ミサイルの開発は、かねてよりイランや北朝鮮といった国々の脅威があったからこそ行われたものであった。

 今回のような試験を通じてGMDの性能をアピールすることで、米国にミサイルを向けている、あるいは向けようとしている国々に対して、ICBMを撃っても無駄であり、かえって一方的に反撃を受けるだけだという、一定のメッセージとなったところはあろう。

 仮に北朝鮮がICBMの開発に成功し、米国へ向けて発射されたとすれば、飛行コースの関係などから、日本にできることはほとんど何もない。とはいえ、現在日本を狙っているノドンや北極星2型といったミサイル技術が、ICBMの技術に直結していることを考えれば、まったくの無関係ともいえない。

 ミサイル防衛システムの構築を進めつつも、実際には撃たずに済むように、そもそも相手がミサイルを撃たないようにするための努力が、今後より一層求められる。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。近著に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)。

Webサイト: http://kosmograd.info/

Twitter: @Kosmograd_Info(https://twitter.com/Kosmograd_Info)

【参考】

・MDA – MDA News Releases(https://www.mda.mil/news/17news0003.html)

・MDA – The Ballistic Missile Defense System(https://www.mda.mil/system/system.html)

・The Ballistic Missile Defense System(https://www.mda.mil/global/documents/pdf/bmds.pdf)

・Ballistic Missile Defense Intercept Flight Test Record(https://www.mda.mil/global/documents/pdf/testrecord.pdf)

・Raytheon: Kill Vehicles(http://www.raytheon.com/capabilities/products/ekv/)

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