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乾貴士が表現するスペインでの進化。傑出した個の力で日本代表の新たな武器に

6/5(月) 11:09配信

フットボールチャンネル

 日本代表の欧州組合宿は、4日に最終日を迎えた。2年ぶりの招集となった乾貴士は、代表定着に向けアピールを続けている。10代の頃から高く評価されてきた才能はスペインでの日々で磨かれ、その姿はより逞しくなった。乾の傑出した個の力は日本代表の新たな武器となるポテンシャルを秘めている。(取材・文:元川悦子)

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●負傷癒えた乾貴士、久々の代表戦へ準備万端

 5月28日から千葉県内で行われてきた日本代表欧州組合宿が4日、最終日を迎えた。この日は右足アキレス腱痛で前日の練習を回避した浅野拓磨(シュツットガルト)が2日連続で欠席。臀部に痛みを訴えていた香川真司(ドルトムント)は練習に復帰し、14人でサーキットトレーニングを交えたシュート練習、狭いエリア内での7対7など負荷の高いメニューを消化した。

 練習後には見学に訪れた300人の子どもたちとのふれあいの場が設けられ、選手たちが笑顔でハイタッチやサインに応じた。サプライズ選出の加藤恒平(ベロエ・スタラ・ザゴラ)は「たぶん誰か分からないでサインもらっている子もいたと思うんですけど、僕がもっといい選手になって上のリーグに行ければ誇れるサインになる。そういうサインになるように頑張ります」と目を輝かせていた。

 8日間の練習を終えたヴァイッド・ハリルホジッチ監督も満足感を得たのか、普段以上に饒舌だった。「ここまでの練習は、我々が『リ・ジェネレーション』と言っている部類の体を少し再生させるトレーニング。心肺機能と肺循環機能を目覚めさせるためのトライをしている。まだフィジカルトレーニングという部類には入らない。人数が少ない中からだんだん(新たな選手が)合流してくる形の調整だったので結構難しかった」と説明しつつも、少なからず手ごたえは感じている様子だ。

 浅野の動向は気がかりだが、右足首負傷で序盤から別メニューが続いていた乾が復帰したのは朗報と言える。「足の具合は大丈夫。気を抜くとまたやっちゃうんで、しっかり気を引き締めてやりたい」と本人も話しており、7日のシリア戦(東京)出場は問題なさそうだ。

 仮にこのゲームのピッチに立つことになれば、乾にとっては2015年3月のウズベキスタン戦以来。場所は同じ東京スタジアム(味の素スタジアム)だ。

「今の(ハリルホジッチ)監督になってから(呼ばれたのは)一番最初の時と今なのでまだ何とも言えないんですけど、もう楽しくやれればいいかなと。その中で結果を出せば誰も文句を言わないと思いますし」と本人はまず自分らしさを前面に押し出す構えだ。

「エイバルで2年やってボールを失う回数も減りましたし、ディフェンスの部分での戦術理解度も高くなった」と課題だった守備面での改善にも自信を得ており、原口元気(ヘルタ)の牙城を崩す糸口をつかめるかもしれない。

●「バルサから点を取っても…」。乾が見せる謙虚さの背景

 そもそも日本代表の左サイドはハリルホジッチ体制になってから最も流動的だったポジションのひとつ。本田圭佑(ミラン)が長きにわたって君臨した右サイドとは対照的に、左は宇佐美貴史(アウグスブルク)や武藤嘉紀(マインツ)、清武弘嗣(C大阪)、浅野、原口ら入がれ替わるように試されてきた。

 原口が定位置をつかんだのも、昨年9月の2018年ロシアW杯アジア最終予選・タイ戦(バンコク)以降。それも背番号8が持ち前のハードワークとダイナミックなランニングを全身で体現したうえ、4試合連続ゴールという頭抜けた決定力を発揮したことが大きかった。

 そのライバルに挑む乾も、5月21日のバルセロナ戦で2ゴールを叩き出した。カンプ・ノウで2発を奪った日本人選手は歴史上彼ただ1人。その実績はやはり偉大だ。

「(バルセロナ戦と同じような得点を)みんなが期待してるのは分かってます。ただ、勘違いしてもらいたくないのは、バルセロナから点を取ったからといって、他のチームから取れるわけではないということ。それまでの自分はシーズンで1点しか取れていなかったし、絶対(に得点できる)ということはないです」と彼自身に驕りは一切ない。

 慎重さと謙虚さの背景には、岡田武史監督(現FC今治オーナー)時代から4人の監督の下で断続的にプレーする機会を与えられながら、日本代表に定着できなかった過去がある。10代の頃から卓越したテクニックと創造性を高く評価されながら、代表でコンスタントにプレーできなかったのは、メンタル面を含めた好不調の波が大きすぎたから。環境が変わるたびにフラストレーションを感じ、それが必ずと言っていいほどピッチ上のパフォーマンスに影響してしまっていた。

 ドイツ時代もボーフムでは周囲を納得させる活躍を見せていたが、フランクフルト時代は「ストレスを感じながらやっていた」と本人も認める通り、不完全燃焼を強く感じる日々を過ごした。しかしながら、2015年夏に赴いたエイバルでは「スペインの中でも珍しいほどファミリー感のあるチームで本当に楽しめている」と満足感を味わいながらプレーできている。

●傑出した個の打開力は日本代表の新たな武器に

 日本代表でもそうなれるか否かは、乾自身の取り組み方しだい。自らエイバルのような心地よい環境に仕向けていくことができれば、原口と違った個性を発揮して、住み分けが可能になるのではないだろうか。

 抜群の走力とフィジカル的な強さを生かして縦への推進力を見せる原口と、細かいドリブルや繊細なパスといった高度なテクニックを駆使する技巧派の乾にはやはり違いがある。その能力を巧みに使い分けられれば、日本代表の攻撃バリエーションは確実に広がる。ハードワークを辞さない原口が試合開始時から相手をかく乱し、守備陣が疲れたところで乾を投入して個の打開力から1点をもぎ取るといった、試合の中での駆け引きも考えられる。

 爆発的なスピードを誇る浅野がケガを抱えていてシリア戦で使えない可能性が高いだけに、乾にはジョーカー的役割も期待される。どの時間帯から出ても、乾の長所であるスピードと走力、テクニック、局面打開力、フィニッシュの迫力といった要素を強く押し出すことができれば、13日の最終予選・イラク戦(テヘラン)、そしてその後の日本代表定着にもつながってくるはずだ。

「この2年間、代表に呼ばれなかったのは、チームで結果を出せていなかったから。だけど逆に代表のことをそんなに考えずやれたので、プレッシャーもなかった。それはよかったと思います。今回もし監督に使われるなら、しっかり代表のことを考えて、勝つことだけを意識してやりたいと思います」とフォア・ザ・チーム精神を強調した乾。

 今までとは違って彼が本当にその姿勢をピッチ上で貫けるのなら、代表に新たなエッセンスがもたらされるのは間違いない。スペインで養った全ての力を解き放ち、ハリルホジッチ監督を唸らせるような存在感を示してほしいものだ。

(取材・文:元川悦子)

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