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【イップスの深層】暴投のガンちゃんを救った先輩捕手たちの気づかい

6/5(月) 8:10配信

webスポルティーバ

連載第2回 イップスの深層~恐怖のイップスに抗い続けた男たち

■証言者・岩本勉(2)

「神宮球場のブルペンで投げられないピッチャーって、いっぱいいるんですよ。あそこはファウルグラウンドにブルペンがあるでしょう。もし暴投を投げたら、タイムがかかってゲームが止まってしまいますから」

■【イップスの深層】先輩の舌打ちから始まった、ガンちゃんの制御不能

 元・日本ハムファイターズの岩本勉はプロ野球界の“秘部”とも言える実情を明かして、こう続けた。

「やっぱり、イップスになる一番の原因は『人の目』やと思うんです。周りにどう思われているか。それが気になって、ひどいときはキャッチボールから自分の体が操作不能になってしまう」

 幼少期からイップスの気(け)があったという岩本が、本格的にその症状に苦しむようになったのはプロ3年目だった。前年に一軍で5試合に登板し、防御率2.00と上々のスタートを切っていた岩本だが、大きな落とし穴が待っていた。

「東京ドームに先輩のバッティングピッチャーを務めに行ったんです。でも僕、プロ野球のピッチャーなのに、バッティングケージにもボールが行かなかったんですよ。目の前のL字型ネットに『コーン!』と当たって。それを見たバッティングコーチが飛んできて『ケガ人が出るから替われ!』と。それはそうですよね。バッターにもコーチにも生活があるわけですから。コーチの言葉に悪意はないんですけど、でもあの『替われ!』っていう言葉はキツかったですね……」

 岩本は周囲に「自分がイップスである」ということは公言していなかった。野球選手としては致命的な弱みのようにも思えた。しかし、本人があらたまって口にしなくても、誰の目に見ても岩本がイップスであることは明白だった。

「『自分は投げられない人間なのかな?』と勘違いする。それで、どんどん病んでいくんです」

 二軍での練習中、キャッチボールを終えてシートノックに移る直前のこと。岩本は「ちょっとすみません」と言ってボールを1球手に取り、ホームベースからバックスクリーンに向かって思い切り放った。そのボールはぐんぐん加速して、センターのフェンスを越えてバックスクリーンに直撃。そこで岩本は「あ、オレ、投げられるんや」と実感し、そのままブルペンに入る。

 しかし、ブルペンで岩本は絶望を味わうことになる。18.44メートル先にいるはずのキャッチャーが、とてつもなく小さく見えるのだ。

「遠近感が取れないんですよ。それに自分がどうやって足を上げていたのか、思い出せなくなる。それでもキャッチャーから『どうでもいいから投げてこい!』という声が聞こえてくるんです」

「足を上げるんだ」と自分に言い聞かせながらなんとか1球を投げ込むと、ボールはホームベースのはるか手前でバウンドする大暴投になった。

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