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ウーゴと富樫、横浜の夕空に轟いた2人の咆哮。負傷と不調…“兄弟”が乗り越えたそれぞれの戦い

6/6(火) 7:20配信

フットボールチャンネル

 4日に行われた明治安田生命J1リーグ第14節で、横浜F・マリノスは川崎フロンターレに2-0で勝利した。この試合で生まれた2つのゴールは、ともに長く苦しんできた2人によるもの。それぞれ違う葛藤を乗り越えた“兄弟”は、競争しながらチームを勝利に導いていく。(取材・文:舩木渉)

J1歴代出場数ランキング 1位は日本の絶対的守護神

●神奈川ダービーで決まった2つの特別なゴール

 2人のストライカーにとってはただの1勝を超える意味を持った、重要な勝利となった。

 4日に行われた明治安田生命J1リーグ第14節で横浜F・マリノスが川崎フロンターレとの「神奈川ダービー」に2-0で勝利。日産スタジアムに集まったおよそ4万人のマリノスサポーターが歓喜に包まれた。

 ゴールを奪ったのはウーゴ・ヴィエイラと富樫敬真。苦しい時期を過ごしてきた2人のストライカーは、長く暗いトンネルを抜け出し、チームを勝利に導いた。前線の得点力不足に悩まされてきたマリノスにとって大きな一歩だった。

「特別なゴールだった。初めて娘が見にきて、ゴールを決めることができたのはすごくスペシャルな瞬間だった」

 今年3月29日に生まれた愛娘が初めてスタジアム観戦に訪れていた試合で、ウーゴ・ヴィエイラはチームトップとなる今季5ゴール目を挙げた。セルビアリーグMVPという大きな期待を背負って来日したポルトガル人FWは挨拶代わりとばかりに開幕戦から2試合連続ゴールを挙げて鮮烈なデビューを飾ったものの、チーム戦術になかなかフィットせずゴールから遠ざかり、しだいに出場時間も短くなっていった。

「スタメンで出る機会がなかなかなくて、スタメンで出ても決められず、それで出られない時間が長くなり…違う国から来て慣れなければいけないことも多くて、特に守備のころで手こずった。でもそれに負けず日々練習して、理解しようとし、こういう結果になってきたのは自然な流れだと思う」

●夏の移籍も考えたウーゴ。腐らず努力続けた成果実る

 川崎F戦を終えたウーゴの表情は明るかった。長いトンネルを抜けた充実感とでも言おうか。調子も上がり、徐々にチーム戦術の理解も進んでいる。ただ、開幕からの約3ヶ月間の苦しみやストレスは相当なものだったようだ。

「日本には試合に出るために来た。試合に出ないということは、僕を必要としているチームはヨーロッパにもあって、どこかに行くしかないと思った。これまでの期間にはいろいろなチームから話が来た。つい最近、2週間前にも話があったけど、クラブは『もうちょっとここでやってくれ』ということだった。結果を出していけばもっと話はくると思う。でも日本はすごくいい国で、いいサッカーをしていて、今はすごく幸せなんだ」

 ウーゴがこれまでにリーグ戦で決めた5ゴールのうち4ゴールは、サイドからのクロスにピンポイントで合わせたもの。彼が最も得意としている形であり、ストライカーとしての力が試される場面でもある。

 川崎F戦での一発は、ピッチ外でも仲の良いマルティノスからのアシストから生まれた。

「最初中央に入って、(右サイドの天野純から)クロスが来た時に自分の頭を越えると感じた。そしてマルティノスを見ると足が届くなと思って、ちょっと下がって横に動いて、ここに来るんだろうと予測して、合わせられてよかった」とウーゴは自身のゴールを振り返る。

 2試合連続で“親友”の得点を演出した痩身のウィンガーは「ウーゴはいいコースに入ってきた。彼がゴール前に見えて、後ろ気味にポジションをとった。とっさの判断で『そこに行け!』と足を出した。簡単ではなかったけど、本当に素晴らしいストライカーらしいゴールだった」と満面の笑みで語る。マルティノスと心は通じていた。

「ペナルティエリアに入る機会が増えれば、必然的にゴールも増えていく」と、ウーゴはさらなるゴール量産に自信をのぞかせる。ゴール前でこそ真価を発揮するストライカーの目はいつになく輝いていた。

●3ヶ月ぶりに帰還した富樫、ファーストタッチで復帰祝い

 マリノスにはもう1人、高い壁を乗り越えてピッチに帰還した選手がいる。富樫敬真だ。リーグ戦最後のベンチ入りは3月18日に行われたJ1第4節のアルビレックス新潟戦だった。それから約3ヶ月間、プロ2年目のストライカーは負傷に悩まされていた。

 川崎F戦でウーゴとの交代でピッチに立った富樫は、直後の84分、マルティノスの浮き球パスを受けてループシュート。冷静にGKの飛び出しを見極めた一発で、J1第2節北海道コンサドーレ札幌戦以来12試合ぶりにゴールネットを揺らした。

「ファーストタッチですね。久しぶりの試合でしたけど、チャンスに恵まれているなと思いました。(齋藤)学くんに相手が引き寄せられていたので、僕がフリーになるなというのはなんとなくわかっていました。マルちゃん(マルティノス)ともコンタクトがとれていて、本当にいいボールがきたし、GKも出るしかないと思いましたし、イメージ通りっちゃイメージ通りです」

 クラブから負傷のリリースが出たのは4月13日で、当初は3週間ほどで復帰する見込みだった。しかし、実際のところ富樫はこの3ヶ月で左ハムストリングの肉離れを2度繰り返しており、完治までの期間が長引いてしまった。

「プロ入ってここまで(長く)離脱したのは初めてだったし、アマチュアの時とは違っていろいろな感情も芽生えてきた。そういった時にチームメイトはもちろん、友人とかいろいろな人が応援してくれていたので、それなしでは厳しかったのかなと思います。今日は出たら何が何でも勝ちたいという気持ちがあったので、よかったです」

 取材エリアに現れた富樫の表情は安堵に満ちていた。癖になりやすい肉離れを繰り返し、不安や不甲斐なさを感じた3ヶ月。乗り越えられたのは常に寄り添ってリハビリを支えてくれたメディカルスタッフたちのおかげで、「今回のゴールはトレーナー陣に捧げたい」と背番号17は語る。

「うちの日暮トレーナー(日暮清チーフトレーナー)は、僕のリハビリの太ももの筋肉の数値とかデータを見てお酒を飲むくらい変態なので、まずい酒を飲ますわけにはいかないと思っていました。いい状態で怪我なくゴールを決めることでうまい酒を飲めるという話だったので、良かったと思います」

●ストライカー“兄弟”が喚起する競争。マリノスを高みへ導くか

 富樫は冗談も交えながらトレーナーへの感謝を口にする。先月31日のYBCルヴァン杯グループステージ第7節・サンフレッチェ広島戦で本格復帰し、川崎F戦は負傷が明けてからの公式戦2試合目。やっと思い描いていた理想の結果が出た。

「(負傷が)ここまで長引くとは思っていなかったし、その分チームにも迷惑をかけたと思う。ここからは(再発しないよう)細心の注意を払ってやっていくしかない。ここでまたもう1回スタートというか、一喜一憂せずに勝っていくだけかなと思います」

 富樫の狂いかけていた歯車が再び噛み合い始めた。

 2試合連発で序盤の勢いを取り戻しかけているウーゴと12試合ぶりのゴールを挙げた富樫は、ポジション争いのライバル以上の関係を築いている。そういった意味でも川崎Fとの神奈川ダービーは2人にとって重要な分岐点となった。

「ウーゴは見習うところばかりだし、僕の好きな選手のタイプでもあるので、いいところを見習って競争できればいい。いろいろ気を使ってくれている感じはあるし、僕からしたらちょっと兄貴感というのもあるのかな」

 こう富樫が話せば、ウーゴは「ケイマン(富樫)はファンタスティックな選手で、試合に出るときは僕から『絶対に点を決めろよ』と声をかけている。2人で競い合えばより高いレベルに達していくと思う」と“弟”を称える。

 伊藤翔が負傷離脱した今、なかなか波に乗れないマリノスを浮上させられるかどうかは残されたFW陣の活躍にかかっている。それは紛れもなくウーゴと富樫のこと。彼らは長く苦しいトンネルを抜け、光を掴もうとしているところだ。

 彼ら2人の“兄弟”による競争がチーム全体の底上げにもつながる。齋藤やマルティノスの崩しの鋭さに、ウーゴや富樫のゴール前での怖さが加われば、エリック・モンバエルツ監督が目指すサッカーはより完成に近づくだろう。それぞれの葛藤を乗り越えた背番号7と背番号17の切磋琢磨が、トリコロールを高みへ導く。

(取材・文:舩木渉)

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