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河瀬直美監督「映画『光』で描きたかったのは、何かを捨てることの深く大きな意味」 [おとなスタイル]

6/6(火) 10:00配信

講談社 JOSEISHI.NET

カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得するなど世界から絶賛される映画監督、河瀬直美さんの最新作『光』。この映画で描きたかったものとは。映画ができるまでの背景をインタビューしました。

仲間とつながり、時間をかけて生まれてくるものの豊かさ

河瀬直美さんが、新作『光』の題材に選んだのは “映画の音声ガイド” という聞きなれない職業。河瀬さん自身が前作『あん』で初めて視覚障碍者向けの音声ガイドを作ることになり、その仕事の現場に立ち会ったことがきっかけだ。

「登場人物の動作や情景を言葉で伝える仕事なのですが、映画への愛がすごくある人たちが作っていることに感激しました。映画そのものを生かしながら、補佐という意味で、ひとつひとつのシーンに適切な言葉を入れていく。その立ち位置も素敵で、この仕事に関わっている人の映画を撮りたい! と思ったんです」

主人公は音声ガイド作成者の女性と、弱視から盲目へといたる男性カメラマンのふたり。目が見えないと成り立たない職業という点において、カメラマンは映画監督と通じる部分もある。

「盲目の人は中途失明の場合が全体の8~9割を占めるそうです。苦悩や葛藤を乗り越えた人たちの取材もしました。みなさん、今はすごく前向きに強く生きていらっしゃって、ほとんど何でも自分でできる。この映画で描きたかったのは、何かを捨てることの深く大きな意味です。何かに執着するのではなく、もうひとつの人生のほうに行くという覚悟。ああいうふうになれたらいいなと思いました」

劇中、藤竜也さん演じる映画監督兼俳優が「この映画があなたの希望になると嬉しい」という台詞が印象的だ。

「私も映画を観た人には、自分の人生に何か前向きなイメージを持って帰ってもらいたいと思います。たとえ登場人物にどんなに苦難があっても、どこか光が垣間見えるところで着地したいんです」

これまでにカンヌをはじめとする海外の映画祭で、数多くの賞を受賞。
『光』もまた、今年度のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品が決定した。映画を作り始めて30年近く経った今も、河瀬さんのエネルギーは尽きるところを知らないように思える。

「若い頃は、これが絶対にやりたい!という想いが強くて、そのためには自分が突っ走るという感じ。でも、今は物作りをする上で、誰が欠けてもできない、ということがわかるようになりました。日本だけじゃなく、フランスでも信頼できる仲間が増えたことは大きいですね」

映画作りで日本と海外を行き来しながら、プライベートでは故郷の奈良に居を構え、中1の男の子の母として、家族との時間を大切にする暮らしを送っている。

「もうすぐ50代という歳になり、心がけているのは、できることを真っ当に丁寧にすること。3・11以降、家から車で15分の場所に畑を作って5年目になります。60歳からは、もっと本格的に畑をやりたいと思っていて。自然のサイクルの中に身を置いて、そこにちゃんと組み込まれながら生きていきたい。ガーデンキッチンを作って、そこで採れたものを日々の食卓で食べられたら最高ですね(笑)」

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