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【テレビの開拓者たち / 藪木健太郎】自称“テレビ屋”の夢は「お金を払ってでも見たい」と思える番組を作ること

6/7(水) 6:00配信

ザテレビジョン

照明部から制作部へ異動すると、着実に実績を重ね、「爆笑レッドカーペット」('07年~)というヒット番組を世に送り出し、その後も「THE MANZAI プレミアマスターズ」や「ENGEI グランドスラム」など、フジテレビを代表する大規模なお笑いネタ番組を次々と手掛けている藪木健太郎氏。お笑い芸人へのリスペクトを核にして番組を作る彼の姿勢には、多くの芸人が信頼を寄せている。そんな藪木氏に、これまで携わった番組の経緯と共に、ネタ番組に対する思いの丈や、テレビマンとしての信条を語ってもらった。

フジテレビ元日恒例のお笑い特番「爆笑ヒットパレード」の総合演出&プロデュースを'13年以降務めるほか、「KYO-ICHI」(’16年~)など、絶えず新企画にも挑み続ける藪木健太郎氏

■ “人間”が絡んでいる、ライブ感のある番組が好きなんです

──藪木さんは、まず最初に照明スタッフとしてテレビ業界に入ったというのは有名なお話なんですが…。

「フジテレビでは制作より技術職の採用試験のほうが早くて、まず先に技術で採用が決まったので、そのまま入社したんですけど、当初から制作志望ではあったんですよ。でも、技術職もなかなか面白くて。例えば音楽番組で、この曲のサビのイメージはこうだから、夕陽を浴びているような感じの画にしよう、というように空間をデザインしていく。非常にクリエイティブな作業なんです。

そうして照明の仕事の面白さにハマっていくうちに、今度はもっと総合的な立場で、より大きなものを作りたい、テレビという四角い箱の中で“素敵なウソ”をつきたい、という思いが強くなっていって。それで制作部への異動届を出して、ADとして再出発したんです。ちょうど30歳のときですね」

──ADとしてはどんな番組を担当されたのでしょうか。

「最初は『力の限りゴーゴゴー!!』('99~'02年)ですね。それと並行して、上司から『お前は年を取ってるから、促成栽培する』と言われまして(笑)、CSで『OFJ』('02年ほか、フジテレビ721)というネタ番組のディレクターを見よう見まねでやらせてもらいました。8組の芸人さんのネタを見た100人のお客さんが、自分の価値観で1000円を自由に振り分けてもらって、そのお金がそのまま芸人さんのギャラになる、というシステムの番組で。今やっても面白いんじゃないかな。ネタ番組という意味では、照明時代からずっと『爆笑ヒットパレード』('68年~)にも関わっていましたし、割とスムーズに楽しく取り組むことができましたね。でも、その後、こんなに長くネタ番組に携わることになるとは思ってなかったですけど(笑)」

──「“素敵なウソ”をつきたい」という意味では、ドラマを作りたいという願望はあったんでしょうか?

「照明時代に、『踊る大捜査線』シリーズ('97年ほか)とか、『北の国から』のスペシャル('83~'02年)にも関わっていたので、いつかはドラマも撮ってみたいという気持ちはいまだにありますね。今でもコントを撮るのは大好きですし。

僕の場合、決してお笑い番組だけにこだわっているわけではないんですよね。正直、こういうインタビューなんかで『お笑いの作り手』とか紹介されると、おこがましいというか、ちょっと違和感がある。自分では、お笑いの作り手というより、『テレビ屋』だと思っています。僕の仕事はあくまでも、面白いテレビ番組を作ることなので。だから、作り物のお笑い番組も好きだし、音楽番組も好きだし…紐解いていくと結局、自分は“人間”が絡んでいる番組が好きなんですよね。言うなれば、ライブ感のある番組。歌でもコントでも、演者とカメラとの間にお客さんを置くことによって生まれる、演者さんの真剣な姿というか、一歩前に重心が掛かる感じが好きなんでしょうね(笑)」

■ 番組の“ネタ見せ”は、芸人さんにとってプラスになるような場所にしなくちゃいけない

──では藪木さんが、一から自ら企画して立ち上げた番組は?

「深夜の特番はいくつかありましたけど、さっきの『OFJ』から派生した『OFJ龍(ドラゴン)』('03年)という番組には、かなり思い入れがありますね。アンジャッシュ、エレキコミック、ホームチーム、アメリカザリガニ、シャカといったメンバーで、ユニットコントもやったりしたんですけど、そこでユニットコントやコラボネタを作ることの面白さに目覚めた感じはあります」

──では、ご自身のターニングポイントというと、その「OFJ龍」になるのでしょうか?

「それもありますけど、僕の中では『爆笑レッドカーペット』が一番大きいかもしれません。僕は何年間か、演出担当のレギュラー番組が『新堂本兄弟』('04~'14年)だけになった時期があって。そのときに、お笑い番組もやりたいっていう熱が高まってたんですね。そんなときに、急に放送枠が空いて、急場しのぎで作った特番が『レッドカーペット』だったんですよ」

──「爆笑レッドカーペット」は後にレギュラー化されて、若手の芸人さんが次々と1分間のショートネタを披露するという斬新なスタイルで一世を風靡しました。

「僕にとっては、あの番組で多くの芸人さんと出会えたことはすごく大きくて。芸人さんにネタを見せてもらうことを、僕らは“オーディション”とは呼ばず、“ネタ見せ”と呼んでいるんですけど、『レッドカーペット』のネタ見せでは、常に『短いネタをさせてごめんなさいね。でも、今テレビでネタをやるんだったら、こういう形もアリだと思いますよ』という気持ちで、芸人さんと相対していたんです。その思いが芸人さんや事務所の方々に届くまで、だいぶ時間は掛かったんですけど。とにかく僕は、昔のテレビマンみたいに、テーブルに足を乗っけて『はい、次ー』みたいな(笑)、そういう失礼なことは絶対にしたくなかった。『芸人』ではなく、ちゃんと『芸人さん』とさん付けで呼ぶべきだと思ったし。

今でも僕は、芸人さんにネタ見せしてもらうときは、『ネタ見せに来るのが楽しい』とは行かないまでも、『役に立ったな』とか、『今回はダメだったけど、また来よう』と思ってもらえるような、彼らにとって何かプラスになるような場所にしなくちゃいけないと思ってるんです。だから、『レッドカーペット』がレギュラー化してからも、ある程度のクオリティーを保つことができたのは、われわれスタッフと芸人さんとの信頼関係が築けたからだと思います。その中で、勢いのある若手の子たちが出てきてくれたからこそ、『THE THREE THEATER』('08~'09年)、『爆笑レッドシアター』('09~'10年)にもつながっていったわけで」

■ やっぱり今、一番問われているのは質の高さだと思う

──そして「M-1グランプリ」(テレビ朝日系)の休止にともない、'11年にはそれに代わる漫才コンテスト番組「THE MANZAI」を立ち上げて、やがて現在の「ENGEI グランドスラム」「THE MANZAI プレミアマスターズ」(共に'15年~)へとつながっていくわけですね。

「『M-1』は、もちろん素晴らしい番組だと思うんですけど、それとは違うベクトルで、『僕らフジテレビが漫才コンテストをやったらこうなりますよ』という思いで作ったのが、『THE MANZAI』なんですよ。一応優勝者は決めるけど、出場者全員がウケて誰も損しない漫才のお祭り、というのが僕の理想だったので。

そして、その後に始まった『THE MANZAI プレミアマスターズ』や『ENGEI グランドスラム』は、ある意味では、コンテスト時代の『THE MANZAI』に注いでいたエネルギーをそのまま持ち越して作った番組というか、ネタ番組の決定版を作ろうという強い思いで立ち上げた番組です。だから、今までだったら『断られるんじゃないかな』と声を掛けられずにいたような、いわゆる大御所と言われる方々にも声を掛けさせていただいて。

やっぱり、芸人さんにとってネタというのは、彼らのアイデンティティーそのものだと思うんです。どんなベテランの方も、「目の前のお客さんを笑わせられるかどうか」という極限の精神状態で舞台に立たれている。だからわれわれも、それにふさわしいセットや小道具を用意するように心掛けています」

──ちなみに、爆笑問題の太田光さんもラジオ番組「火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ」(TBSラジオ)で、「ENGEI グランドスラム」に懸ける思いの丈を熱く語っていましたね。

「ああいうふうに言ってもらえるのはうれしいですよね。『ENGEIグランドスラム』に全回出演してもらっているのは爆笑問題さんだけなんですよ。決して演者さんに褒められたいわけじゃないですけど、『ENGEI グランドスラム』は、芸人さんがちゃんと気持ちを懸けられる場所として存在させ続けたいとは思っていて。芸人さんたちから『次も頑張ります』と言ってもらえるような努力はしたいですね」

──最後に、今後の展望などについてお聞かせください。

「これからは、『お金を払ってでも見たい』と思ってもらえるようなものを作りたいですね。人々のテレビ離れが進んでいるなんて言われてますけど、それは単に、テレビの受像機で見ることから離れているだけなんじゃないかと僕は思っていて。テレビから離れているわけではないような気がするんですね。だから、視聴率うんぬんとは別のところで、ネット配信の有料コンテンツのような、ビジネスとしてちゃんと成立するものを作りたいという思いもありますし、その一方で、無料で見られる既存のテレビメディアの中でも、みなさんが『お金を払ってでも見たい』と思えるぐらいのものを作らないといけないとも思っています。やっぱり今の時代、一番問われているのは質の高さだと思うので。そういう意味では個人的には、オープニングの映像がしっかり作ってあって、結末もしっかり作り込まれている…という番組を作りたいなと。いつの間にか始まって、いつの間にか終わっている番組は好きじゃないんです。古い考え方かもしれませんけど(笑)、一個の“作品”として、きちんと観賞に堪え得る番組を作っていくのが理想です」

最終更新:6/10(土) 23:33
ザテレビジョン

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