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柏、8連勝導いた転換点。怒涛のハイプレス集団への変貌。土台はアカデミーからの継続に

6/7(水) 7:20配信

フットボールチャンネル

 柏レイソルが絶好調だ。浦和レッズをホームの日立柏サッカー場に迎えた4日のJ1第14節では、身長155センチの最小兵Jリーガー、MF中川寛斗が頭で決めた先制弾を守り切って破竹の8連勝を達成。首位の座をキープするとともに、晴れて“暫定”の二文字も取れた。黒星が先行した序盤戦から一転、対戦相手を辟易とさせる怒涛のハイプレス集団と化したターニングポイントを探った。(取材・文・藤江直人)

2017年J1在籍選手、通算得点トップ10。1位と2位は同一クラブのFWがランクイン

●“暫定”の二文字も取れた「首位」に

 女性インタビュアーが思わず心配する声をかけるほど、中川寛斗の汗は止まらなかった。試合後のヒーローインタビューにおける珍しいひとコマが、いま現在の柏レイソルが見せる強さの源泉となっている。

 ホームの日立柏サッカー場に浦和レッズを迎えた4日のJ1第14節。身長155センチの最小兵Jリーガー、中川が前半アディショナルタイムに頭で叩き込んだ千金の先制点を、レイソルは最後まで死守した。

 これで破竹の8連勝をマーク。ACLとの関係で消化試合がひとつ少ないガンバ大阪以下の4チームに勝ち点5差以上をつけたため、キープした首位の座から晴れて“暫定”の二文字も取れた。

 ヒーローとしてスポットライトを浴びた中川は、12.427キロの総走行距離、31回のスプリント回数でもチーム最多の数字を記録。驚異的な運動量が、吹き出す汗の理由となっていたことは言うまでもない。

「前からどんどんプレッシャーをかけにいって、できるだけ早くボールを回収して、いい攻撃につなげる。そういうサイクルができている試合で、僕たちの勝利の確率はあがっている。それは僕だけではなくて、選手みんなの共通理解でできていると思います」

 登録はMFながらツートップの一角で起用されている中川が、破竹の連勝中にこう語ったことがある。相手を辟易とさせる、疾風怒濤のハイプレスの“一の矢”を担っていることへの誇りが込められていた。

 言葉通りにコンビを組むクリスティアーノも総走行距離、スプリント回数で中川に迫り、ときには上回る数字もマーク。連動するように2列目の武富孝介、伊東純也もハイレベルの数字を常に残している。

 5月に入って戦列に復帰し、大津祐樹に代わって中盤の左サイドで起用されているFW登録の武富も、図らずも中川と同じニュアンスの言葉を残したことがある。

「ハイプレスとハードワーク。僕が左サイドで使われる意味は間違いなくそこにあると思っているし、僕やヒロト(中川)が出ている意味をしっかり理解しながら、ピッチで出せていることが一番大きい。決して無理をしてとか、自分たちではないプレーをしようとはしていないので」

●「運動量では自分たちに分があると思っていた」(大谷秀和)

 最終ラインやゴールキーパーの西川周作を含めて、レッズには足元の技術に長けた選手が多い。前線から積極果敢にプレスをかけても、テクニックを駆使されて簡単にはがされる恐れがあった。

「浦和さんの試合を見ていると、どのチームも簡単にボールをもたせたうえで、引いてブロックを作るケースが多かった。そうなると奪って攻めようとしても、自分たちのエリアからなかなか出られない。だからこそ、自分たちが前からどんどんプレッシャーをかけにいこうと考えていた」

 大一番へ向けてスカウティングを済ませたキャプテンのMF大谷秀和は、レッズを畏怖するのではなく、自分たちが貫き通してきた戦い方を真っ向からぶつける選択をチーム全体で下したと明かす。

 レッズの疲労蓄積も見越していた。済州ユナイテッドFC(韓国)とのACL決勝トーナメント1回戦第2戦で、延長戦を含めた120分間の死闘を制してから中3日。おそらくメンバーはほとんど変えてこない。

「ヒロトとクリス(クリスティアーノ)が前から行ったら、頑張って後ろもついていく。それで剥がされたら、いったん戻って作り直せばいい。至ってシンプルな話だし、運動量では自分たちに分があると思っていたので、彼らを休ませる時間を作ることなく、どんどん前から行きながら対応しようと」

 大谷の言葉通り、トータルの走行距離で116.2キロに対して111.871キロ、スプリント回数では188回に対して144回と大差をつけた。無骨さと泥臭さで、レッズのテクニックを断ち切ってみせた。

●戦い方の大きな変化と右肩上がりの軌跡

 もっとも、シーズン序盤にはまったく異なる戦い方で臨んでいた。前線にはエースのクリスティアーノ、ディエゴ・オリベイラ、ベガルタ仙台から加入したハモン・ロペスが配置されていた。

 昨シーズンにおける3人の合計ゴールは「38」を数える。8人の日本人選手でやや引き気味に守り、ブラジル人トリオの「個」の高さを前面的に押し出す戦い方で、サガン鳥栖との開幕戦は逆転勝ちした。

 しかし、ロペスが負傷離脱したことで青写真が狂ってくる。ガンバ大阪との第2節からは3連敗を喫してしまう。そのなかで、ベガルタ仙台との第4節からは先発メンバーが大きく変わり出している。

 中川が最前線に配置され、右サイドバックにはレノファ山口から加入した小池龍太が抜擢された。連敗を止めたサンフレッチェ広島との第5節からは、J1経験のなかったMF手塚康平がボランチに入っている。

 いま現在のハイプレス集団へ変貌を遂げた、ターニングポイントをあげるとすれば。おそらくはリーグ戦を連敗して迎えた、3月15日の清水エスパルスとのYBCルヴァンカップの予選リーグ初戦となる。

 中川、小池、そして手塚を含めた先発メンバーが、果敢に前線からプレスをかける。高い位置でボールを奪った小池のクロスが起点となり、こぼれ球を手塚が豪快なボレーで叩き込んで勝利した一戦だ。

 リーグ戦における先発メンバーを順次入れ替え、前線の外国人選手がクリスティアーノだけとなった4月16日のヴィッセル神戸戦から、いま現在に至る連勝街道がスタートした。

「前線からの守備が本当によくなって、そこから連勝が始まっているとは思うんですけど」

 昨シーズンの開幕直後から指揮を執る下平隆宏監督は、戦い方の大きな変化と右肩上がりの軌跡とをリンクさせたことがある。もっとも、こんな言葉をつけ加えることも忘れなかった。

「僕にやらされているのではなくて、相手のビルドアップを阻止したいという意思のもとで、選手たちが前からプレッシャーをかけにいっている。もともとはボールをもちたいチームなので、だからこそ相手から早くボール奪いたい、取られてもすぐに奪い返したいという思いが(好調の)要因になっているのかなと」

●好調をキープするチームのバックボーン

 指揮官の言葉から推察するに、おそらくはルヴァンカップのエスパルス戦を前にして、選手たちのほうから戦い方を変えたいという声が寄せられたのではないだろうか。

 第三者的な視点で見れば、いわゆる“造反”と映るかもしれない。しかし、レイソルには選手たちが抱く思いにしっかりと耳を傾けることのできる、度量の大きな指揮官がいた。

 さらにつけ加えれば、シーズン途中の180度的な戦術変更に即座に対応できる選手たちを擁していた。その象徴となる中川は、ベンチウォーマーが続いた開幕3試合も常に準備してきたと胸を張る。

「必要なときにチームから求められるプレーができることが、いい選手だと思っているので。相手にいいボールの運び方をさせないために、どのタイミングでプレスにいくのか、どういった状況でいくのかは、僕だけじゃなくてクリスとの間でもかなり整理できていると思っています」

 現役時代はレイソルのボランチを務め、ファンやサポーターから「柏の象徴」として畏敬の念を注がれた下平監督は、引退後はスカウトやU‐18チームのコーチ及び監督を歴任してきた。

 好調をキープするチームのバックボーンを聞かれると、指揮官は迷うことなく「アカデミーからの継続です。土台はすべてアカデミーにあります」と即答したことがあった。

 中川と武富、キャプテンの大谷、日本代表に選出されたGK中村航輔をはじめとして、レッズ戦の先発メンバーのうち実に8人をアカデミー出身選手が占めている。国内でも稀有な育成型クラブと言っていい。

●夏場を乗り切るのに十分な勢いと自信

 もっとも、土台としてあるのはビルドアップからしっかりパスを繋いでいく攻撃の部分であり、守備に関しては「トップチーム独自のものがある」と下平監督は続ける。

「前からプレッシャーをかけたいと選手たちが望み、それができるメンバーもいる。アカデミー出身だ、外から来た選手だというのは関係なく、いま現在のトップチームがやっていこうという形がある。クラブも現場に集中させてくれる状況を作ってくれているし、サポーターとの関係もすごく良好だと思っています。

 去年は僕自身も監督になったばかりで、何だかよくわからないというか、勢いで勝ったという感じも実際にありました。今年はチームが着実に力をつけてきていると実感していますし、実際に選手たちがやるべきことをしっかり整理していると見て取れる。そういったところの積み上げが、去年との違いなのかなと」

 クリスティアーノも小池も、ヴァンフォーレ甲府から加入して2年目のMF伊東純也も、とにかく必死に走る。献身的に体を張る。リードした終盤には、レッズ出身の細貝萌がクローザー的な役割を担う。

 現時点でリザーブに回ったディエゴ・オリベイラや大津も、腐ることなく出番を待っている。シンプルゆえに一丸となった戦い方には、ブレや迷いが生じる隙がない。だからこそ無類の強さが発揮される。

 連勝を伸ばしてきた過程で、ひとつの“不敗神話”が生まれた。中川が11キロ以上を走破する、あるいは25回以上のスプリントをマークしたリーグ戦は9戦全勝をマークしている。

 シーズン途中で鮮やかに生まれ変わったレイソルで、小さな背中が羅針盤となっている揺るぎないデータと言っていい。伝え聞いた武富はニヤリと笑った。

「それじゃあ、もっと走ってもらいましょうか」

 間もなく蒸し暑い梅雨が訪れ、明けた先には暑い夏が待っている。ハードワークを実践し続けるには困難な時期を乗り越えるだけの勢いと自信が、いま現在のレイソルには力強く脈打っている。

(取材・文:藤江直人)

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