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情けない軽犯罪とルール違反が標準化するイギリス - コリン・ジョイス Edge of Europe

6/7(水) 16:30配信

ニューズウィーク日本版

<玄関マット泥棒、飼い犬の糞の放置、野外で騒ぐ酔っ払い、公園で堂々とマリファナを吸う若者たち......。どれも深刻な問題ではないが、小さな犯罪やルール違反がイギリス社会の日常になってしまったことは嘆かわしい>

朝食もとらないうちから、火曜日の僕の気分は最悪になった。

その前日、僕は数時間かけて庭の手入れをして、翌日のゴミ回収にそなえて木の枝や雑草を「庭ゴミ」専用袋に入れた。でも火曜日の朝、中身が回収されてから僕が表に出るまでの間に、誰かが袋を盗んだ。

この袋の値段は3.70ポンド(約530円)だ。

だから、なぜそこまで動揺したのかと思われるかもしれない。金額的に損したのはほんのわずか。でも別の見方をすれば、どうやったらこんなにも安いものを盗むほど哀れな人間がいるのか、と疑問に思えるだろう。

実際、これは過去最高にケチな例だったわけではない。以前は、家の前に置いておいたビン・缶リサイクル用の容器を盗まれた。この容器は自治体が無料で配っている。だが自治体に電話をして自分の分を受け取るよりも、道端から盗むほうが簡単だと思った人がいたようだ(だから僕は再び自治体に申し込まなければならなかった。容器はその日のうちに届いた)。

僕は隣人から学ぶべきだった。彼は庭ゴミ専用袋に自宅の住所をスプレーで大きく書いてある。明らかに盗難対策の予防措置だ。僕らの家は町の中心部(イギリス南東部エセックス州コルチェスター)にあって、たくさんの人がこの通りを通る。

【参考記事】「持ち家絶望世代」の希薄すぎる地域とのつながり

数年前、僕は玄関の外に敷く素敵なドアマットを買った。それから1週間もたたないうちに、誰かに盗まれた。たまたまそれは、セールで買ったものだった(2.5ポンド)。案の定、店に行ってみるとまだセールで売っていたので、もう一度新しいマットを買いなおした。

いまだに僕は、とんでもないのはいったいどちらのほうだったのか、分からずにいる。僕が同じ間違いをまた繰り返したことのほうか、それともまさにその翌日におそらく同一人物が新しいマットをもう一度盗んだことのほうか?

よく日本人の友人から、イギリスでの生活はどう? と尋ねられると、僕はこう話す、ドアマットを誰かに盗まれた......2度も(ちょっと頭のなかでその状況を思い浮かべてほしい)。

このブログの読者なら、僕がひどく頭にきているのは、個々の盗みのことではないし、金の問題でも迷惑をこうむったことでもなく、こうした低レベルの犯罪があまりにも日常化しているという事実だということが分かってもらえるだろう。これはイギリス生活のバックグラウンド・ミュージックみたいなものだ。



僕と隣家の間には路地がある。ときどき、パブ帰りの男性がそこに小便をする。ゴミが投げ込まれることも多い。1年ほどの間、路地の奥にある家の一軒を借りている男が、毎日この路地に飼い犬を入らせて糞をさせていた。この件について僕は自治体に連絡したが、この路地は正式には自治体の管轄権が及ぶ「公共道路」ではないので、問題は複雑だということが判明した。

最終的に、この男は引っ越した。去るときに、古いマットレスやがらくたを路地に捨てていった。その中にはなんと、車のドアもあった。責任を負うはずの家主は、全てを放置したまま。ここで言っておきたいけれど、僕の住む地域は貧困にあえぐ都市のスラムや危険な地区ではない。イングランド中流層のかなり典型的な、豊かな町だ。

どれもニュースには値しないけれど......

今週は2度も、家の前の通りに犬の糞が捨てられていた。実のところ、街中の通りでこんなことはめったにないことだけど、でも確実に起こり得る。公園ならはるかに頻繁にあるし、町から外れた田舎道だったらもうそこら中に糞が落ちている。

犬を散歩させる道を「広々した田舎道」だとでも思っている人々は、ごく当たり前のように犬に道路で糞をさせる。だから、すばらしい野原や美しい木立の通りに足を踏み入れたときには、犬の糞を踏まないように目の前の地面をよく見て歩いたほうがいい。

飼い主は犬の糞で罰金を科せられる可能性があります、と警告する表示はいくつも貼られている。でも僕は、犬を連れた人が道で犬に糞をさせるところを何度も目撃したことがあるけれど、彼らは犬が糞をしていることに気付いているふりさえしなかった。こちらがじっと見ていると、文句があるかのようににらみ返されることもある。

(僕が見るところ、だいたい犬の飼い主の3人に1人は糞をちゃんと「片付けて」いる。こうした責任感のある飼い主は、犬の飼い主全般の評判をおとしめるような行為をする人々とは私は違います、とアピールする手段として、よく見えるように袋を携帯している。)

【参考記事】光熱費、電車賃、預金......ぼったくりイギリスの実態

僕の家の真裏には廃墟となった小さな修道院がある。なかなかいい雰囲気の場所で、僕はスーパーマーケットに行く時には、たいていそこを通り抜ける。

だがそこには春から夏の終わりにかけて毎日、酔っ払いが群れをなしてやってくる。彼らは上機嫌のときもあれば、仲間うちで喧嘩をするときもある。言い争う声は、家の中にいても聞こえてくるほどだ。彼らは部外者に迷惑をかけることもある。酔っ払いがスーパーから酒を万引きするところを、僕は今年だけで3度も見た(店員はたいてい、盗んだものを店に戻させるだけで警察には通報しない)。

数年前、この手の反社会的行為のせいで、修道院敷地内での飲酒を禁止する規則ができた。だが敷地の管理者ですら、それを守らせようとしなかった。昨晩、僕が通りかかったらたまたま番人が修道院の門を閉めるところだったが、彼は酔っ払いたちに礼儀正しく、そろそろ出る時間ですよと言っていた(ここは飲酒禁止ですとは言っていなかった)。

近くのキャッスルパークでは、若い男たちがマリファナを堂々と吸っていた(匂いではっきり分かる)。彼らはこっそりやらなければならないとすら思っていないように見える。



ほかにも近所には11年に開館したコルチェスターの芸術センター「ファースト・サイト」もある。とても金のかかったプロジェクトだが、大成功を収めたとは言い難い。問題の1つは、地元の子供たちが、建物の正面のスペースをスケートボードに最適な場所だと思ってしまったことだ。

この施設は洗練された会場となり、この町の文化的な名声を高めるはずだった。だがそれどころか、十代の若者が大勢たむろし、スケートに興じているから、人々は足を運ぶ気にならないようだ。

【参考記事】「認知症税」導入で躓いた英首相メイ

石造りの長いベンチの縁で「スケートボード乗り」ができないように、金をかけてベンチには鋲が取り付けられた。12年には、この場所でのスケートボードが全面禁止された。それから5年が経つから、おそらく今「スケートボード禁止」という表示を無視して滑っている子供たちは皆、新しい世代なんだろう。

もちろん、これらはどれも、衝撃的だとかニュースに値するというほどのものではないし、イギリス人だったらこれを読んでも「だから何?」と思うだろう。町には、さらにはイギリス全体にはもっとずっと深刻な問題がいくつもある。でも今回僕は、低レベルな犯罪と浅薄な規則破りがイギリスの町でいかに「ノーマル」になりつつあるかを説明したかった。

***


この不平不満を長々と書きつづり、原稿を送信する前に、僕はジムに行った。文章をより良いものにするために僕は、気分転換の時間を挟むことがある。今日はランニングマシンに乗りながら、「思いつく限りの例をつめこんだから、ちょっと原稿が長くなりすぎたかも」と考えていた。

そして帰り道、1台の車が僕の家の前の一方通行の道路を逆走してきた。1週間に1度は見かける行為だ(窓からじっと監視しているわけではない)。そういう車の運転手は駐車場から出る時にいったん停止し、正しい方向から車が来ていないかよく確認し、それからクイーンストリートまでの50メートルを、猛烈な勢いで逆走する。そうすれば、少しだけ近道になるからだ。

コリン・ジョイス

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