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ウォリアーズがやって来たヤァ!ヤァ!ヤァ!――フミ斎藤のプロレス読本#018【ロード・ウォリアーズ編3】

6/7(水) 9:00配信

週刊SPA!

 1985年

 ロード・ウォリアーズは、その特異なキャラクターとそれまでのアメリカのプロレス・シーンでは類をみなかった超バイオレンス殺法を売りものに、ものすごいスピードでスーパースターの座へかけ上がった。

⇒【写真】“ジョージ ア・チャンピオンシップ・レスリング”のTVテーピング収録現場

 まるで突然変異のような“ウォリアーズ現象”を生んだ原動力は、そのファイトスタイルも大きなウエートを占めていたが、もうひとつは顔にほどこされたウォー・ペイントと呼ばれるペインティングであったことは疑う余地がない。

 黒、赤、イエロー、そしてときとしてミントグリーンのペインティングでリングに登場してくるウォリアーズに、アメリカの観客は「こいつら、素顔はどんな顔なんだろう」と素朴な疑問を抱き、みごとなまでにビルドアップされた肉体に激しい驚きをおぼえた。

 その意味では、ウォリアーズは正体不明のマスクマンと同じような神秘性を感じさせるタッグチームということになる。

 3月7日、ノースウエスト9便で成田空港に降り立ったホークとアニマルは、トレードマークのモヒカン刈りをバンダナですっぽりと覆い、もちろんノーメイクで税関の入国審査をすませた。

 ウォリアーズをマスクマン的な感覚でとらえるとするならば、ペインティングをしていない姿を写真に撮ることはできない。

 ホークとアニマルは、南ウイングの到着ロビーに出てくるとそのままトイレに直行し、すばやく顔に“隈どり”をして報道陣のまえに現れた。

 VIP特別室でおこなわれた記者会見に姿をみせたウォリアーズのペインティングは、時間的な余裕がなかったせいか、黒一色のシンプルな模様だった。

 共同インタビューのなかで、ウォリアーズはペインティングが彼らの「フィーリングを表現する方法」であり、その日の気分によって「デザインも異なる」と説明した。成田空港でのふたりのペインティングはやや淡泊なものだった。

 来日第1戦(3月8日)、千葉・船橋大会でキラー・カーン&アニマル浜口と対戦したウォリアーズは、ペインティングが汗でにじむまえに“秒殺モード”で浜口を流血させて勝負を決めた。

 両国国技館(3月9日)でジャンボ鶴田&天龍源一郎の鶴龍コンビと対戦したときは、いつもよりも丹念に塗ったペインティングが試合中にドロドロと流れ落ちてしまった。これは単なる偶然ではなかった。

 この日、試合開始から2時間ほどまえ、外国人選手側のドレッシングルームをのぞいてみると、ホークとアニマルはペインティングをしていない素顔の状態でスポーツバッグを枕にして昼寝をしていた。よく見ると、眠ってはいなかった。ただなんとなく、ゴロゴロしているようだった。

 初めての海外ツアーで、滞在3日めあたりになると、どっと時差ボケが出てくるのだろう。マネジャーのポール・エラリングは、不機嫌そうな、むずかしい顔で『ウォールストリート・ジャーナル』を読んでいた。

 恐る恐るアニマルに週刊プロレスの最新号を渡した。アニマルはこっちをジロッとにらみつけてからぶっきら棒にそれを受け取ると、カラーグラビアのページをペラペラとめくっていった。

 ひととおり目を通してから、こちらに返そうとするので、ぼくが「差し上げます」というと、アニマルは「あ、そう?」という感じで雑誌をバックのなかにを放り込んだ。

 ホークにも雑誌を渡すと、あいかわらずゴロゴロしつつ――もちろん日本語で書かれた記事は読めないけれど――1頁ずつていねいにページをめくりながら、写真をながめ、ときどき「ガッハッハ」と笑った。おもしろい写真でもあったのだろう。

 それからデビッド・シュルツの記事が載っているページを指さして「彼はまだ日本にいるのかい?」とぼくに聞いてきた。

「会ったことはないんだけどね。彼、レスリングをフェイクだといったTVアナウンサーをぶん殴っちゃっただろ。オレ、好きだな、そういうレスラー。きっと友だちになれるね」といって、また「ガッハッハ」と笑った。

「日本はどう?」とあたりまえ過ぎる質問をしてみると、アニマルがチラッとこっちをみて「ディファレント(変わってるね)」とひとことだけつぶやいた。

 いったいなにが“変わってる”のか考えてみた。アニマルもホークも、アメリカで仲間のレスラーたちから日本のことをたくさん聞かされてきたはずだ。

 ついに日本にやって来たロード・ウォリアーズは、成田空港で50人を超すプレスの出迎えを受け、空港内のVIPルームで大々的に記者会見をおこない、試合会場ではまたしても数10人のカメラマンたちからポーズ写真の注文を受け、その翌日には半日がかりでスタジオ撮影の仕事もこなした。

 アニマルもホークも、そしてエラリングも、正直なところ、地球の裏側のジャパンで自分たちがこれほどまでにもてはやされるとは予想していなかったのかもしれない。

 国技館の支度部屋の天井をながめながら、大きな体を持て余すようにしてボーッとよこになって時間をつぶしていたウォリアーズは、いったいどんなことを考えていたのだろう。

 2年まえ、ミネアポリスで気楽な生活をしていたころのことだろうか。それとも、アメリカに帰ると待っている殺人的スケジュールのことだろうか。

 ひょっとすると、自分たちの意思とは別の次元で“ロード・ウォリアーズ”というキャラクターが勝手に独り歩きをはじめてしまった現実に戸惑いを感じていたのかもしれない。

 ドレッシングルームでふだん着のアニマルとホークの写真を撮ろうとスポーツ新聞の記者とカメラマンが集まってくると、エラリングが彼らを蹴散らした。「写真ならリングの上の自分たちだけを撮れ」とでもいいたかったのだろう。

 そうだ。顔にペインティングをしていないウォリアーズはウォリアーズではない。だから、写真を撮るべきではない。過去のはなしを聞くことも許されない。

 エラリングが目で合図をすると、ホークとアニマルは「じゃあ、そろそろ準備をしますか」といった感じで、バッグのなかからチューブの絵の具を数本と油絵用の筆を3本、取り出した。

 ロード・ウォリアーズに変身する時間だった――。(つづく)

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦 イラスト/おはつ

日刊SPA!

最終更新:6/7(水) 9:00
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