ここから本文です

「人工知能が採用面接で人間を見抜く時代」の欺瞞と憂鬱

6/8(木) 7:00配信

文春オンライン

 人工知能(AI)そのものではないのですが、その人工知能を稼働させるためのデータを整備する会社にいくつか投資をしている関係で、昨今の「なんでも人工知能が問題を解決してくれる」的なネタに敏感になってきました。

 まあ、一言で言えば「それができたら苦労しねえよ」って話で。

「人工知能」のような大きい言葉で騙しに行く「仕組み」

 先日も、某大新聞が「6000サンプルを参考に、新卒大学生の採用試験を人工知能に任せることにしました」的な報道を大々的にして、いわゆる人事評価や採用のデータを取り扱うサイエンス系が「そんな話、どこにあるの?」と騒然としたわけです。また某大手通信会社の薄毛社長が人工知能に投資して採用に活かすみたいな発言をしていたので、なんか私たちも知らないような凄い統計学バックグラウンドの秘伝のタレでもあるのかと思ってました。

 蓋を開けてみれば、単純に大学生が企業の採用面接を受ける際のエントリーシートの手捌きを自動化しましたという話にすぎないことが分かり、羊頭狗肉の最たるものだったわけですけれども、昨今の人工知能を巡る万能神話は、バブルを超えて何か別のモノなんじゃないかぐらいの勢いを錯覚させられます。

 もちろん、内実を伴わないので人工知能バブルもどこかで破たんすることになるのでしょうが、この手のビジネス系の話題が紡ぎだす先端技術によるバラ色の未来というのは、オランダのチューリップバブルや南海泡沫事件以降の繰り返すバブルを肌で感じていろんな想いが去来します。過去にも名著『バブルの歴史』(エドワード・チャンセラー著)で戒められていたのですが、そういうバブルに踊る人たちが増えることで、その人たち相手の商売で儲かる人たちがいっぱいいる限り、人工知能のような大きい言葉で騙しに行く仕組みはなくならないんだろうと思うのです。

人材の見極めを、たった6000サンプルで判断しようという馬鹿の所業

 そもそも論として、例えば完全情報ゲームである囲碁の世界で、人工知能が世界屈指の名人に勝ってしまうのはあり得る話ですし、思ったより早かったなと思ってもそう不思議なことでもないのです。一方で、企業で活躍できる人材の見極めを、たったの6000サンプルで判断しようというのは馬鹿の所業ですし、経済環境も違えばあてがう仕事への適性も異なる人たちが公平に評価されてきたのかさえ不明です。人材を評価する際、営業に配属された人と人事や企画、総務では、企業に対する貢献の在り方も違えば必要とされる適性も異なるのは当然ですし、組織内での仕事は人と協働する前提なのだから人間性に踏み込まない限りきちんと相対的に評価を下すことなどできない、というのも当然のことです。

 一方で、いま日本企業の採用で主流であるSPIなどは、新卒対象であれ中途採用であれ、入社後の人材の活躍度合いとはさほどの相関はないことが分かってきています。唯一、SPIでまったく適性が感じられず頭が悪くて人間性もクズだと分かるケースがあって、そういう「足切り」で使われることが多いようなのですが、これだってグループディスカッションや経歴で「何かに続けて取り組んだ経験が見られるか」で判定がつくことも分かって、そもそも組織にとって採用とは何なのかという宇宙の起源みたいな論争になっている状態です。

 そこへ、たいしたサンプル数も根拠にできていない人工知能が採用の現場に導入されたと大々的にメディアで報じられると、たっぷり石鹸を含んだ大きな泡が世間に漂っているように思えるわけですね。どうせお前らプログラム組めば一瞬で何かができると思って報じてるんだろう。そんなわけがあるか。せいぜいデータマイニングという基本的な作業を自動化する予測分析やロジスティック回帰分析などの古典的なツールを詰め合わせて、ざっくりと人工知能と言ってるだけじゃないのかね、と。

1/2ページ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

世の中を驚かせるスクープから、
毎日の仕事や生活に役立つ話題まで、
"文春"発のニュースサイトです。