ここから本文です

本田の中盤起用で見えた活路。香川負傷で迎えるイラク戦、背番号4の“転身”が解決策に

6/8(木) 12:51配信

フットボールチャンネル

 日本代表は7日、国際親善試合でシリア代表と1-1で引き分けた。序盤に香川真司が負傷してゲームプランが狂い、主導権を相手に握られる時間もあった中、ベンチスタートだった本田圭佑が後半から好プレーを見せた。ただ、これまでの右ウィングではなく、中盤のインサイドハーフとして。背番号4のポジション変更が、中立地・イランで行われるイラク戦でキーポイントになるかもしれない。(取材・文:元川悦子)

上位3位が勝ち点差3の混戦に… W杯アジア最終予選【グループステージ順位表】

●香川負傷で狂ったプラン。辛くもドローに持ち込む

 残り3試合となった2018年ロシアW杯アジア最終予選。勝ち点16を稼いでいる日本は、グループBの首位に立っている。しかし2位・サウジアラビアとは同勝ち点、3位・オーストラリアとは3ポイント差。この2チームとの直接対決がラスト2戦に控えているため、6月13日のイラク戦(テヘラン)は中立地開催といえども勝ち点3獲得が必要不可欠だ。

 その前哨戦となったのが7日のシリア戦(東京)。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は3月のUAE戦(アルアイン)の再現を目論んで、同じ4-3-3の布陣で挑んだ。ところが開始早々の7分、香川真司(ドルトムント)が左肩を脱臼する予想外のアクシデントに見舞われる(編注:香川の症状は試合後にJFAから改めて「左肩関節前方脱臼」と発表され、8日午前中にチームからの離脱が決まった)。倉田秋(G大阪)との交代を強いられた。

「秋くんとは前もやっていたし、分かっていたのである程度、問題はなかった。ただ、真司くんとやるイメージを作っていたし、いろんなことを話していたんで…」と原口元気(ヘルタ・ベルリン)も戸惑いを口にしたように、チーム全体が受けに回ってしまう。

 相手の縦への推進力や個の打開力に翻弄され、ボールを奪えず、ズルズル押し込まれる時間帯も続く。「相手のフィジカルが強く、出足もプレッシャーも速かった。前半はうまくいかなかった」と2ヶ月半ぶりに公式戦先発復帰を果たした今野泰幸(G大阪)も反省しきりだった。

 前半消えていた久保裕也(ヘント)に代わって後半頭には本田圭佑(ミラン)が右FWに入り、流れが変わるかと思われた矢先にセットプレーの流れから失点。日本は一段と窮地に追い込まれる。それでも失点の10分後、長友佑都(インテル)の相手背後への鋭い抜け出しからのクロスに反応した今野がゴール。1-1に持ち込む。素早いリカバリーで同点に追いつき、日本は何とか踏みとどまった。

 その状況で指揮官が打った次なる策が、切り札・乾貴士(エイバル)の投入と本田の右インサイドハーフ起用だった。原口に代わった乾が左FWに入るや否や、持ち前のキレのあるドリブルでシリア守備陣の綻びを突き始める。

●中盤に入った本田が攻撃を活性化。新たな可能性示す

 その流れを加速したのが、久しぶりに中盤でプレーした本田。今野と交代した浅野拓磨(シュトゥットガルト)が右FWに入り、本田が中に絞ると、倉田や井手口陽介(G大阪)らとともに連動して中盤でタメを作り、全体に落ち着きを与えたのだ。

「どっちかというと(香川)真司さんはタイミングを見てパッとボールを出せる方ですけど、本田さんはタメを作って周りを見れる選手。本田さんも試合後に『自分は真司とは違うよ』と言っていたけど、そのよさが出ていたと思います」と浅野も話したが、存在感はやはり大きかった。それまでは1トップの大迫勇也(ケルン)が全線で孤軍奮闘するシーンが目立ったが、本田がボールキープしてくれることでその負担も目に見えて軽減した。

 展開力という彼の武器もチームの攻撃陣を活性化した。それがひと際光ったプレーのひとつが、後半32分の乾へのサイドチェンジ。絶妙なタッチでボールをコントロールした乾は持ち前のテクニカルなリブルで相手を切り裂きゴール前へ侵入。最終的にフィニッシュに持ち込んだが、GKにブロックされて追加点には至らなかった。

「俺としては左利きの人が左を見てくれるから、あそこ(サイドの高い位置)で受けられる。チャンスになったシーンもそうですし、右利きだとなかなかああいうボールは出せない。(本田)圭佑くんが(中盤)に入ることで、左のワイドの選手は楽になりますね。ボールが収まるんで全体が落ち着きますし、それだけでラインも上がります。押し込む時間帯も増えるので、自分にとってもチームにとってもプラスだと思います」と乾はインサイドハーフに陣取った背番号4の優位性とチームにもたらす効果を代弁していた。

 この形は非公開だった5日と6日の練習で全くトライしていなかったという。浅野が登場した際、本田と倉田がポジションを入れ替えるかどうかで混乱したのも、指揮官の準備不足によるものだろう。それでも倉田は「最後らへんは右も左も関係なく入れ替わったりして、うまいこといっていたので、いい関係は作れた」と前向きに捉えていた。

 まさに「ひょうたんから駒」とも言うべき成果だったのだ。もちろんシリア代表の来日が前日で、なおかつラマダン中(編注:「ラマダン」はイスラム教における義務である断食月間のこと。1年に約1ヶ月間あり、今年は5月24日~6月24日がそれにあたる。この間、ムスリムは日の出から日没まで飲まず食わずで過ごす)のため、後半に日本が一方的に押し込めたところもあったのだが、香川不在が決まったイラク戦に向け、本田のプレーによってチームに光明が差したのは事実だろう。

●過酷なイラク戦。勝利の鍵は国際経験豊富な本田の存在か

 本田自身は昨年3月のロシアW杯アジア2次予選最終戦(埼玉)で対戦し、5-0で圧勝した相手に1-1という苦い結果に終わったことが不満だったのか、試合後のミックスゾーンを素通りした。自らが後半29分に迎えた決定機を外したことも、不完全燃焼の大きな要因だったに違いない。

 確かに好調時の彼ならば、大迫勇也(ケルン)からパスを受け、DFをかわした時点でゴールへの道筋が見えていたはず。そこでシュートをGKに当ててしまうのが、ミランで試合に出ていないことで失われた感覚の部分だったのだろう。フィニッシュの部分は確かに改善が求められるが、中盤のお膳立て役としては十分に使えるめどが立ったはず。イラク戦は本田をインサイドハーフで起用するのも一案と言っていい。

「(本田)圭佑は頭のいい選手だからいいポジショニングができるし、ボールを受けるのもうまい。(自分が一緒にインサイドハーフをやる場合には)どんどん頭を使って考えながらポジショニングをしなくちゃいけない」と今野はイメージを膨らませていた。

 インサイドハーフの候補者は今野、倉田、本田の3人がいるが、テヘランの過酷な環境を踏まえると、やはり国際経験豊富で、多少の荒れたピッチでもしっかりとボールを扱える本田のような選手が必要だ。

 今回の4-3-3のテストが不発に終わったのを受けて、指揮官が本来の4-2-3-1に戻すとしても、本田をトップ下に据えるのは有効なプランになり得る。香川と長年トップ下を争ってきた清武弘嗣(C大阪)を外している今回、重圧のかかる大一番でその重要なポジションを託せるのはやはり背番号4ではないか。

 アルベルト・ザッケローニ監督時代とは本田を取り巻く環境にもコンディションにも大きな違いはあるものの、当時の経験値は彼の中に今もしっかりと刻まれている。シリア戦で45分間プレーしたことで、実戦感覚は多少なりとも取り戻したはず。ここはこの男に賭けてみるのも手だろう。

 果たしてハリルホジッチ監督がどんな決断を下すのか。いずれにせよ、イラク戦が想像以上にタフな戦いになるのは間違いなさそうだ。チームの総力を結集して、苦境を乗り切らなければならない。

(取材・文:元川悦子)

フットボールチャンネル

記事提供社からのご案内(外部サイト)