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木内昇・インタビュー 一番楽しかったのは私です〈『球道恋々』刊行記念〉

6/8(木) 11:30配信

Book Bang

――明治39年から高校野球大会が始まる大正4年までの日本球史に残る最も熱い時代を描いた『球道恋々』がついに刊行となります。500頁を超える堂々たる長篇。お疲れ様でした。

 ありがとうございます。でも申し訳ないんですが、私自身は書くのが楽しくて楽しくて、これといって苦労した点が思い当らず……。小さい頃から野球が大好きで、いつか小説に書きたいと思っていました。それが存分にできて「誰も読まなくても私は楽しいぞ!」という感じでした。なんだか、すみません。

――明治時代の野球にスポットを当てたきっかけは何だったのでしょう? 

 資料を探していて明治44年の「野球害毒論」にぶつかったのがきっかけです。朝日新聞が「野球は若者に悪影響を及ぼす」という大々的なキャンペーンを行って大論争に発展したもので、支持派の論客に新渡戸稲造が登場するわ、ライバルの讀賣新聞は反対派の大演説会を開くわ、野球を巡ってこんな騒動があったのかと驚いたんですね。

 そこから野球史を遡っていくと、学生野球の人気と熱気がものすごかったこと、その頂点にあるのが一高と三高の対抗戦だったことが分かってきた。試合経過や観戦記も残されていて読むほどに面白い。明治の人々はなぜ野球というスポーツにこれほどのめりこんだのか。よし、それを書こうと決めました。

――主人公の宮本銀平は一高野球部黄金時代の部員だったものの補欠のまま卒業し、家庭の事情で帝大にも進めず、今は文房具業界紙の編輯長。ところが突如、弱体化した一高野球部のコーチにと請われ、悪戦苦闘しながらチームを指導していく、悩める男です。

 挫折を抱える人間はいろいろな人の気持ちがわかるし、物語自体の視界も広くなる。そう考えて万年補欠という設定の銀平を登場させました。インテリ学生とも落語に出て来る江戸っ子みたいなご近所の面々ともフラットに付き合える視線の持ち主でもあります。

――銀平とその近しい人々は木内さんの創作ですが、その他はすべて実在の人物ですね。銀平が接する一高生およびOBのキャラの濃さには圧倒されました。

 投球練習のしすぎで曲がったままになった腕を桜の木の枝にぶら下がる荒療治で治した守山恒太郎とか、鉄壁の守備を誇って日露戦争由来の「老鉄山」というあだ名を奉られた中野武二とか、現代から見ると本当に劇画的ですよね。もちろん私の創作も加わってはいますが、人物像やエピソードは基本、伝えられている通りに書いているんですよ。

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最終更新:6/8(木) 11:30
Book Bang

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