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「残業時間の削減」が働き方改革の本質なのか?

6/9(金) 6:40配信

@DIME

「働き方改革」の1つとして、多くの企業で残業時間の削減が進められている。私が企業を取材していると、大企業はともかく、中小・ベンチャー企業の経営者や役員などからは、疑問の声をよく耳にする。そこで働く社員からも、不満の声を聞く。実は、残業時間の削減を好ましくないと見る人もたちもいるのだ。

今回は、企業への取材で私が聞いた「残業時間削減への疑問」を紹介したい。前提として言えば、労働基準法をはじめとした労働法などを逸脱した形での労働は、常に厳しく否定されるべきである。しかし、残業時間削減については、もっと広い視野で考えてみる必要もあるのではないだろうか。

■生産性

会社として「残業時間を減らそう」とすることは正しいとしても、会社や部署、社員たちの成果や業績を維持することができているのかどうか。それが独りよがりではなく、数字として裏付けがあるものであるのか否か。本来は、このあたりのことが広い視野で、深く議論されないといけない。

労働時間を大幅に減らし、業績や成果を維持し、今後、一定のペースで拡大することができるのならば、今までは一体何だったのだろう。多くの会社員は、怠慢なことをしていたのだろうか。そんなことは、おそらくないはずだ。少なくとも、1980年代にはすでに日本企業の労働時間は世界の主要国20~30か国の中で相当に多かった。だが、残業を減らすことは遅々として進んでいなかった。

言い換えると、効果的で、大胆な改革がスピーディーに企業内や企業社会で進められないと、労働時間を大幅に減らし、業績を維持し、拡大することは本来、不可能のはずなのだ。少なくとも、日々の仕事の進め方ややり方、部署内の社員の配置、人事評価や育成、人事異動などの多くの面で、生産性を上げる大きな試みを全社的にしないと、できないはずなのだ。私が企業を取材していると、こういう会社はほとんどない。数年以内に、残業時間を大幅に減らしたものの、業績や成果を維持することができなかったという結末になる可能性があるように思えてならない。

■業績の悪い中小企業やベンチャー企業

中小企業やベンチャー企業を取材していると、残業時間を大企業のようには大胆に減らすことができていない傾向がある。「残業時間を減らすこと」に異議を唱える中小企業の経営者も確かにいる。むしろ、多い。「大企業だからできることであり、うちの会社では無理」と言い切る人もいる。

特に売上が10億円以下の企業では、残業時間以前に労働時間全般の管理すら正しくはできていない場合が多々ある。社員の定着率は低く、数年以内に辞めていく人が目立つ。入社してくる人は、人材のレベルとしては抜群に高いとは言いない場合もある。結果として、会社は業績を維持することに必死で、労働時間のことにまで注意が行き届かないのが現実なのだ。

■経験やスキル

30代前半までくらいは、その仕事を経験した量や時間、そこから学んだことなどの結果で成果や実績に大きな差が出る。仕事への向き・不向きや取引先、さらには上司や先輩などの人間関係に恵まれることも必要だが、ビギナーからプロになろうとするときに最も大切なのは、経験・場数だ。そして、その深さだ。残業時間を減らした場合、その時間の経験や場数をどのようにして補うのか。そのあたりのことも、深くは議論されていない。

今後、特に大企業の正社員はいくつかのグループにわけられることが増えてくる。総額人件費の厳密な管理を進めるためには、グループにわけて管理することが必要になる。たとえば、同世代の中で上位1割のトップエリート、管理職で終わっていく「普通の人」、部下のいない管理職のままの「グレーな人」、非管理職のままの人材などのグループが考えられる。今の風潮のように、残業時間を減らすだけでは、正社員のグループわけを効果のある形で進めることができなくなりうるかもしれない。足りない経験やスキルをどのようにして補い、社員の底上げをして社員間の競争を駆り立てて、業績を維持するか。この考察がない中、正社員のグループわけはまずできない。

■定年70歳

今後、企業の定年はおそらく、70歳になっていく可能性がある。すでに政府内では、そのような動きがある。70歳まで働く場をつくるのならば、働くことができる経験や場数、スキル、ノウハウ、知識、人脈、見識なども70歳までは通用するレベルにしないといけない。本人がそれを自覚し、その年齢まで自らを磨かないといけない。70歳まで働く場を設けただけでは、その下いる世代、つまり、30~50代などはその面倒で大変に苛酷になる。家で、親の介護をして、社内でもそれに近いことをする時代になるかもしれない。こういう中、残業時間を減らし、経験を培う機会を減らしていく。この行く末に何があるのか、きちんと検証されていない。

■「ブラック企業」のレッテル

特に20代の人と話していると気がつくことである。たとえば、残業時間が月に30~40時間になると、「ブラック企業」とレッテルをはる。上司が部下に厳しく叱ると、「ブラック」と言い始める人もいる。「ブラック」という言葉の定義をしないこと自体が、日本人らしい。

日本人の議論の1つの特徴は、言葉の意味を定義することなく、話し合い、感情論になることが多いことだ。その意味では、今の20代もきわめて日本人らしい。手あたりしだいに「ブラック企業」とみなすことも1つのアプローチではあるのだろう。しかし、残業時間が月に30~40時間となり、その時間の残業代をきちんと支払っているならば、大きな問題でははいと私は思う。

残業時間削減にだけ、目を奪われると見えるものが見えなくなる。そして、問題の本質が覆い隠されていく。もっと広い視野で考えるべきことなのではないだろうか。

文/吉田典史

@DIME編集部

最終更新:6/9(金) 6:40
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