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NASCAR、多崎つくる、と「メンテナンス」から始まる創造

6/9(金) 12:10配信

WIRED.jp

「修繕や改造」に長じた人たちの存在こそが、これからの「ものづくり」を導く。完成した「製品」を部品として扱うことで、消費が生産となり、生産が消費となる世界。未来の「ものづくり」のパラダイムのヒントを、池田純一が探る。(『WIRED』日本版VOL.28より転載)

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この夏ディズニーは『カーズ3』を公開する。擬人化されたクルマたちがレースで競い合うこのアニメーションも、これでシリーズ3作目だ。『トイ・ストーリー』や『モンスターズ・インク』と同様、人気の秘訣は、フルCG作品であるがゆえにむしろ強調されるヒューマンタッチのドラマにあるのだが、こと『カーズ』に関してはもうひとつ大きな理由がある。NASCARだ。

NASCARとは、アメリカで大人気の自動車レースのことで、正式には“National Association for Stock Car Auto Racing”という。注目すべきは「ストックカー」(Stock Car)という表現で、市販車ベースの改造車のことだ。欧州で人気のF1のように専用のクルマを開発してレースに臨むのではなく、トヨタやシボレーなどの市販車を改造して競い合う。いまでは後部が荷台であるピックアップトラックのレースまである。貴族的なF1に比べ、とことん庶民的なレースがNASCARなのだ。

NASCARは、どこででも芽生えうる

NASCARは1948年に開始されたが、それ以前からアメリカ南部を中心にアマチュアによるストックカーレースが開催されていた。クルマの改造ももちろんドライヴァー自ら手がけていた。心底クルマ好きの男たちによるアマチュア大会だったのだ。それが年を経るうちに次第に人気を博していき、遂には70年代以降、レース用の専用車両が利用されるまでになった。けれども、その開催スピリットは、あくまでもアマチュアが始めた改造車レースなのである。いまではあまりの人気の高さから、選挙のある年には政治家がこぞってNASCAR好きをアピールするほどだ。そこからストックカーレースを思わせる『カーズ』の人気も推し量れることだろう。

では、なぜ南部で改造車レースが盛んになったかというと、アメリカの自動車産業が北部の五大湖周辺に集中しており、南部ではクルマを扱うといっても、もっぱらメンテナンスが中心だったからだ。何より自分の手でクルマをいじるのは、成人男性の誇りだった。クルマは馬に代わる存在だったのだ。

もちろん、いまでは南部にも自動車工場はある。トヨタやホンダなど外国メーカーが進出し、すっかり南部に馴染んでいる。それでもストックカーの伝統は根強い。ゼロからクルマを開発するような財力も知恵ももち合わせてはいないが、しかし、市販車を自分好みにチューンアップすることなら問題なく行える。むしろ修繕や改造の伝統にDIY的な自負さえ抱いている。NASCARはそれほどまで庶民的レースなのだ。

そしてここからが肝心だが、この「修繕や改造」に長じた人たちの存在こそがこれからの「ものづくり」における創造性を導くものと言えそうだ。というのも、ユーザーの参加を促すことで成立するウェブサーヴィスが普及し、多くの人たちが何らかのかたちでサーヴィスに参加することに慣れてしまったからだ。なにしろ「サーヴィス」は利用者の関与があってはじめて「製品」として成立する。人々の参加意識は知らぬうちに高められている。

ところで、すべての国ですべての製品が製造されるわけではない。自動車の場合、多くの国で新車か、中古車かを問わず輸入されている。けれども、そのような輸入国でも、日々の生活で自動車のメンテナンスが必要になる。修繕のための技術が求められ、むしろ修繕技術を通じてこそ、製品の仕組みに触れることができる。かつてのアメリカのように、自動車を製造する北部、利用する南部という違いが、国の間でも存在する。

となるとNASCARを始めた南部のクルマ好きと同様に、クルマの輸入国のなかにも当然、修繕に長けたアマチュアが生まれる。彼らからすれば市販車という製品も、いわば巨大な部品のひとつとみなすことができ、そこから次なる創造の一歩を踏み出すこともできるだろう。NASCAR的なスピリットはどこででも芽生えうる。

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最終更新:6/9(金) 12:10
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