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初登場2位の『LOGAN/ローガン』、映画ファンが本作を応援しなくてはいけない理由

6/9(金) 6:10配信

リアルサウンド

 『美女と野獣』が7週連続1位と独走を続ける中、「X-MEN」シリーズの主要キャラクター、ウルヴァリンの単独シリーズとして3作目にして最終作となる『LOGAN/ローガン』が初登場2位となった先週の動員ランキング。土日2日間で動員11万3600人、興収1億6300万円というのは少々物足りなくも思えるが、本作が公開されたのは映画サービスデー(ファーストデイ)となる6月1日の木曜日。木曜日からの4日間では動員20万7200人、興収2億7900万とまずまずの数字を残している。

 ちなみに、日本が主要な舞台となった「ウルヴァリン」シリーズの前作『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013年9月日本公開)の累計興収は8億1200万円、「X-MEN」シリーズ全体として前作にあたる『X-MEN:アポカリプス』(2016年8月日本公開)の累計興収は8億5516万円と、興収20億を超えた「X-MEN」シリーズの外伝的作品『デッドプール』を除くと、このところ20世紀フォックスのフランチャイズであるマーベルの「X-MEN」シリーズは日本で苦戦を強いられてきた。今回の『LOGAN/ローガン』も10億の大台にのせるのが現実的な目標になるだろうが、なんとか達成してほしいものだ。

 『LOGAN/ローガン』の日本での興行にこうして肩入れをしたくなるのには、理由がある。一つは、この作品が過去の「ウルヴァリン」シリーズの中だけでなく、「X-MEN」シリーズ全体の中でも群を抜いて、娯楽的にも、芸術的にも優れた作品であることだ。「X-MEN」シリーズでは、過去にも『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年6月日本公開)や『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014年5月日本公開)など、ファンの間で評価の高い作品があった。しかし、それらはあくまでも「X-MEN」シリーズの中で相対的に優れた作品であって、シリーズの作品をまったく未見でも無条件で楽しめる作品とまでは断言できなかった。その点、『LOGAN/ローガン』は、キャラクターへの事前知識があればより深い部分で感銘を受ける作品ではあるが、シリーズ初見の観客も十分に作品の本質を味わうことができる、開かれた作品となっている。

 応援したくなるもう一つの理由は、日本の配給会社である20世紀フォックスが原題の“Logan”という簡潔なタイトルに余計な手を加えず、宣伝やポスターのビジュアルにおいても本作の持つ「骨太なアメリカ映画」としての良さをシンプルに表現することに徹していること。こういう作品が日本でちゃんとヒットしないと、「アメコミ映画を日本でヒットさせるには、わかりやすい(実際のところ、全然わかりやすくなってない奇妙な)邦題をつけて、説明過多なゴチャゴチャしたポスターを作って、宣伝のためにまったく作品と関係のない芸能人を起用しなきゃいけない」といったような、日本の映画宣伝のこれまでの「やり方」が、いつまで経っても有効であるという勘違いが横行してしまう。

 確かに、日本では原作の認知度が低いアメコミ映画に関しては数年前までそこにも一定の効果はあったのかもしれないが、その背景にある「コアなファンは放っておいてもどうせ劇場に来るから」という発想は、ファンのために情熱を込めて本国スタジオが作った作品を預かる立場として、倫理的にも間違っている。ライト層の観客を呼ぶための方策は必要だとしても、それによってコアなファンを嫌な気持ちにさせるのはエンターティメント・ビジネスの基本として本末転倒だし、人気シリーズは何作にもわたって長年続くことを考えても、「ファンを育てる」という発想が長期的には結果を出すことになるはずだ。


 配給の20世紀フォックスは、今年10月公開予定の「猿の惑星」シリーズ最新作、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』でも、邦題を最終決定した際の経緯をかなり早い段階(公開7ヶ月前の今年3月)にネットのニュースやSNSを通して説明していた。その説明内容は制作サイドの意図をくみ取った丁寧なもので、作品への期待が高まるものだった。すべての邦題が「悪」ではなく、作品の世界を日本の観客にとってより身近なものとする上で、時には邦題をつけるのも日本の配給会社の重要な仕事である(現在ネットの一部で問題視されている“Hidden Figures”の邦題『ドリーム 私たちのアポロ計画』は監督のセオドア・メルフィにとって寝耳に水だったようだが)。今回の『LOGAN/ローガン』や『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』のような作品に対する真摯な姿勢が、日本の外国映画興行における「常識」となることを願ってやまない。

宇野維正