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「嘘で嘘を塗り固めること」に耐えられず経産省を退職した【雇われない生き方】

6/9(金) 16:10配信

HARBOR BUSINESS Online

 人はなぜ働くのか? 人の数だけその理由はあるだろうし、答えのない問いかもしれない。

 マイナビニュースによると、2017年卒の大学生と院生への調査で「就職を決めた企業を選んだ理由」では、「社会貢献度が高い」が31.6%で1位。次いで、「職場の雰囲気がいい」「仕事内容が魅力的」と続く。かつては知名度や安定性などが上位を占めたが、社会貢献度を重視する傾向は近年増している。「社会貢献度が高い」は、言い換えれは「誰かのためになる」「世の中のためになる」とも言える。さらには「ありがとうと言ってもらえる」「感謝される」と言い換えてもいいだろう。

 ところが、である。小さなオーガニックバーを営んでいる私の元には、日々多くの離職者が訪ねてくる。その都度、離職の理由を聞くのだが、断然多いのが、自分の仕事が「何のためにもならない」、「社会を悪くすることに耐えられない」の類だ。昨今のニュースを賑わす、企業不祥事、経済事件、官僚の偽証がそれをつぶさに物語っている。

◆自分の仕事が武器産業や戦争産業にかかわっている!?

 ある日、自動車の金型を製造する企業に勤めてる男性が訪ねてきたことがある。

「最近、会社が受注してくる金型が、どう考えても自動車部品でないものが増えているんです。上司に聞いてもなぜかあやふやにされて教えてくれない。今まではそんなことはなかったんですが。おそらく武器に関わるものだと気づいてしまったんです」

 先日訪ねてきた「外資系IT企業を辞めた」という女性は、対テロ対策の盗聴や犯罪防止監視テクノロジーから転換した技術を販売する業務に関わっていた。

「物事は表裏一体だから、『巡り巡って戦争に関与しているのかも』と思い始めたら、勤務を続けるのが苦しくなりました。会社はとにかく売上至上主義で、現場のスタッフは苛酷な労働条件で勤務していましたが、会社は『社員が病気になっても利益が上がればいい』という雰囲気でした。無関心を装って、心をなくさないと居られない環境は辛かったです」

◆「経産省で、都合の悪いことを隠蔽する資料作成の仕事に翻弄された」

 通信企業大手のIT技術者だった方は、「業界の限界」を話してくれた。

「国内市場は飽和状態でパイが増えないのに、顧客を奪い合うために熾烈な技術競争をしているんです。コストを下げるため、期日を早めるため、無理難題とわかっていても仕事を下請け業者に押しつけることが当たり前。でも僕はそれが苦手でなかなかできなくて。誰が悪いというわけではなく、みんなで知恵を絞り、汗を流しながら目標に頑張っているだけ。社内の雰囲気も悪くない。それなのに鬱などで休職者が絶えません。結局、誰も得していない。何のために仕事しているのか、わからなくなりました」

 この方は会社を辞めて、来月には東北に移住することを決意した。

 経産省で働いていた方も訪ねてくる。

「経産省に勤めることが決まった時、世の中を向上させるような素晴らしい仕事に就けると誇りを持って臨んだんです。でも実際は、国会答弁作りで幾晩も徹夜し、都合の悪いことを隠蔽するための資料作成に翻弄されました。私がしていることは嘘を嘘で固めること。世の中に貢献するどころか、世の中を騙して劣化させることに加担する自分に、やりきれない気持ちで耐えられなくなりました」

 昨今で言えば、森友学園疑惑や加計学園疑惑でわかるように、安倍首相が自らの口は汚さずに省庁で働く人たちに圧力を掛けて、「あるものをないと言わざるをえない」「できないことをできると言わざるをえない」といったところに追い込んでいるのと同じ類だ。

 今、ソーシャルワーカーとして働くこの方は、収入は大きく減ったが、自分の仕事の行為が社会を向上させることにわずかでも役立っていると、充実した様子だった。

◆「大きな組織に勤めていれば安泰」という時代の終わり

 合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)という言葉がある。ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロ(集計量)の世界では、意図しない結果が生じてしまうことを言う。現代社会で働く人々が抱える闇だ。会社のためとはいえ、指示や目標に向かってしている仕事が、世の中を悪くする方向に加担してしまう矛盾。

 そうしたことに気づいてしまったら、給料を貰うためとはいえども、辛く、切なく、虚しくなるのは当然だ。働く意義が見出せなくなっている人のほうがマトモなのである。限られた人生の大半を、望まない未来なんかに費やす仕事では、希望を描けない。

 自分を養うとか家族を養うという目的以外にも、本来、人が働くためにはミッション(使命)とパッション(情熱)が不可欠。それを取り戻し、本当の働く喜びを獲得するにはどうしたらいいのだろうか。その答えの一つは、小さくなることである。「ありがとう」が聞こえる範囲で仕事するということだ。そうすれば加害の側面を直視できるし、それに目を伏せず対処できる。

「大きな組織に勤めていれば安泰」という時代の終わりが始まっている。誰のためにもならない仕事から、社会貢献できる仕事へ、自分自身の誇りを取り戻そう。次の時代を創るのは、今悩んでいるアナタなのだ。

 そして、今いる会社から納得できないことを押しつけられたが故に見切りをつけるときには、ぜひ内部告発をしよう。会社に野暮ったがられても、世の中のためになるのだから。

<文/髙坂勝>

1970年生まれ。30歳で大手企業を退社、1人で営む小さなオーガニックバーを12年前に開店。『次の時代を、先に生きる~まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ』(ワニブックス)など。

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