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Jリーグと相撲の魅力に共通する「下積みの物語」。能町みね子×宇都宮徹壱【「サッカー本大賞」受賞記念対談】

6/10(土) 10:04配信

フットボールチャンネル

 サッカー本大賞2017の大賞を受賞した『「能町みね子のときめきサッカーうどんサポーター」、略して 能サポ』の著者・能町みね子氏と『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ、目指さないクラブ』の著者・宇都宮徹壱氏による特別対談。テイストの異なる2人の作品は意外にもシンクロしていた…!?(文:編集部)

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●大賞を受賞した能町氏と宇都宮氏

 去る3月31日に発表された、サッカー本大賞2017は『「能町みね子のときめきサッカーうどんサポーター」、略して 能サポ』、そして『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ、目指さないクラブ』が受賞した。今回は『能サポ』の著者である能町みね子氏、そして『サッカーおくのほそ道』の著者である宇都宮徹壱氏による対談をお届けする。

 能町氏の肩書は、漫画家。コラムニストやラジオのパーソナリティーとしても活躍中で、最近は「相撲評論家」としてTVでの露出も多い。ただし「サッカーに関しては門外漢」(当人談)。そんな能町氏が、ひょんなことからJFL時代のカマタマーレ讃岐と出会い、ホームタウンである香川のうどんとセットで応援にハマっていくというのが『能サポ』のあらすじである。

 一方の宇都宮氏は、JFLをはじめとするアンダーカテゴリーが専門分野で、今回の受賞作『サッカーおくのほそ道』でもその世界観がふんだんに描かれている。能町氏とは「JFL」と「カマタマーレ」という意外な共通項から、今回の対談が実現。なお司会は、前々回のサッカー本大賞受賞者である中村慎太郎氏が務める。

 なお本稿は、宇都宮徹壱ウェブマガジン(http://www.targma.jp/tetsumaga/)にて掲載されたもののダイジェスト版として再編集したものである。(収録日:2017年5月8日@東京。協力:BOOK LAB TOKYO)


●大賞受賞でカマタマーレ讃岐からまさかのVIP待遇

――司会を担当する中村です。今日はよろしくお願いします。実は僕にとって、能町さんは大学の先輩、宇都宮さんは書き手としての大先輩ということで、ちょっと緊張しています(笑)。あらためまして、サッカー本大賞おめでとうございます。

能町 ありがとうございます。宇都宮さんの『サッカーおくのほそ道』、読ませていただきましたけど、すごく面白かったですね。こういう言い方はおこがましいんですけど、意外と私の本で書いたことと被る部分がけっこうあって、同じところに着地している感じが興味深かったですね。

宇都宮 被っているといえば、『能サポ』でSAGAWA SHIGA FCのホームスタジアムを訪問した章があって、スタンドの向こう側にラブホテル群が見えるというくだりがイラストと共に言及されていましたよね。私の本でも、まさにあの会場の写真があるという(笑)。自分が取材した現場に、能町さんも足を運んでいたというのが純粋に嬉しかったです。

――特定のカテゴリーにこだわらないというのは、おふたりの共通点かもしれませんね。さっそくですが、今回のサッカー本大賞を受賞されたことで、能町さんの周りではどんなリアクションがあったのでしょうか?

能町 この本がエントリーされた時点で、担当編集者は「これは行けるんじゃないか」と思ったらしいですけど、私はサッカー本大賞の存在をまったく知らなかったんですよ。ただし、こういうふざけた文体の本が受賞できるとは正直思えなかったので、かなりびっくりしましたね。

宇都宮 授賞式のスピーチでも、そのように話していらっしゃいましたよね。そのあと、カンゼンさんのオフィスでの2次会にも参加していただきました。あの場にいたサッカー業界の面々をご覧になって、いかがでしたか? けっこう怪しい人もいましたが(笑)。

能町 ロック総統ですね? 最初は何の人か、よくわかりませんでしたけど(笑)。アットホームで手弁当な雰囲気が居心地よかったですね。

――ちなみに相撲ライターの世界ってあるんですか?

能町 あんまり。まず、母数がものすごく少ないんですよ。いわゆる新聞記者でなく、フリーで相撲のことを専門に書いている人って、私が知る限り数人です。おそらく一堂に会することもほとんどないと思います。

宇都宮 なるほど。話を戻しますが、授賞式の翌日に香川に行ってカマタマーレのホームゲームをご覧になりましたよね。あの時は地元のファンからそうとう祝福を受けたのでは?

能町 確かに、あれはちょっとびっくりしましたね。それまではこっそり試合を観に行って、こっそりレポートするというようなスタンスでやっていたんですよ。ところが担当編集者のスルギくんが香川出身だったものだから、だんだんクラブ側の人たちとのやりとりが増えていって。

 それでもいい意味で、グダグダ感を保っていたんですけど(笑)、今回の受賞でまさにVIP待遇のような感じになってしまったんですよ。あの日もクラブには「今日、行きますよ」なんて一言もお知らせしなかったのに、サポーターの皆さんから大歓迎を受けたんですよ。

――讃岐の場合、ゴール裏ではなく(メインから見て)スタンドの右側で応援していますけど、あそこに行ったんですね?

能町 そうです。そうしたら、皆さんひとりひとりと両手で握手する感じになって。さすがに「能町コール」はなかったですけど(笑)。

宇都宮 そこでようやく受賞をした実感が湧いた感じですか。

能町 というか、香川の人に認めてもらえたことの方が嬉しかったですね。


●なぜカマタマーレ讃岐で、どうしてJFLだったのか?

――あらためて、この『能サポ』について著者からご紹介いただきたいのですが。そもそもこの企画は、どのような経緯でスタートしたんでしょうか?

能町 もともとはモーニングで連載中の『GIANT KILLING(ジャイアント・キリング)』のムック本での連載企画だったんですよね。ムック本そのものは、けっこう真面目な内容だったんですけど、その中に息抜き的なコラムもあっていいだろうということで、サッカーをまるっきり知らない私がサッカーの試合を観に行って、それでレポートを書きましょうという企画です。最初は方針もあまりはっきりしていませんでしたね。

宇都宮 最初はJリーグから入っていったんですか?

能町 味スタでの東京FCと清水エスパルスかな。

――FC東京ですよ!

能町 すいません。私はそういうレベルなんです(苦笑)。むしろJ2とかJFLとかの方が詳しくなってるかも。ですからこの本では、FC東京の味スタでの試合が最初。そこで何となく「エスパルスを応援しようかな」と思っていたときにカマタマーレ讃岐の存在を知ったんですね。「『釜玉うどん』そのままの名前って!」と盛り上がって、この企画で面白がるなら、ここを追いかけるしかないだろうと。

宇都宮 それにしても、カバーの写真がうどんで良かったんですか(笑)? これほどカバーが斬新なサッカー本は他にないですよ。

能町 カバーについては、最初から「写真でいこう」と決まっていて、いちおうプロのカメラマンさんに撮っていただきました。本の内容の半分くらいはうどんについて書いていますから、間違ってはいないと思います(笑)。というか、うどんを楽しみながらカマタマーレを追いかけているうちに、サッカーを知らないなりに応援の楽しさにハマっていくというのが、この本のあらすじですので。

――そもそも能町さんは、サッカー観戦とうどん、どっちが好きですか?

能町 難しい質問ですね。「カマタマーレ抜き」のサッカー観戦で言っちゃうと、うどんですよね。やっぱり、うどんとセットでカマタマーレの試合を楽しみたいので。私はもともと旅が好きなんですけど、カマタマーレを観にいくのも旅の1つだととらえていて、そうなると現地の食べ物も楽しみたいですよね。相撲の巡業と似たような楽しみ方です。

――先ほどおっしゃった「サッカーを知らないなりに応援の楽しさにハマっていく」というお話ですが、僕自身も何も知らないところからFC東京のサポーターになっていきました。なので、そこのプロセスは似ているところはあると思うんです。ただ能町さんの場合、最初にカマタマーレに出会ったのってJFL時代ですよね。

宇都宮 それに関して言えば、能町さんは相撲の幕下とか下積みの魅力について書かれていましたよね。その感覚に近いのかなと。

能町 確かに、最初に見に行ったとき(西日本社会人サッカー大会)は衝撃的でしたよ。屋根どころか観客席もないし、私のすぐ脇を選手が通るし(笑)。これからJリーグに行こうとしているクラブが、こういうところで試合をしているのかと。「なるほど、これが下積みなのか」と、ちょっと感動しましたね。

 私が相撲を好きになったのも、そういう下積みの物語があったからだと思います。ジャンルは違えども、下積みというものに接することができたからこそ、カマタマーレにも夢中になったのかもしれませんね。

●大相撲人気からJリーグが学ぶべきこととは?

宇都宮 ここでちょっと書籍の話題から離れて、能町さんの専門である相撲のことを聞きたいのですが、最近の大相撲は満員御礼が続いていますよね。一時期、不祥事が続いて人気が凋落した時期のことを考えると、驚くべき復活ぶりだと思います。背景にはファンサービスの見直しがあったと思うんですが、いかがでしょうか。

能町 それはありますね。これまででは考えられなかったようなことを、けっこうやっています。抽選に当たった人を人気力士の遠藤がお姫様だっこして、その写真をプレゼントするとか(笑)。あと、日本相撲協会の公式twitterがあるんですけど、最近はかなり力士のプライベートショットやオフショットも増えましたね。

――フォロワーが29万人いますね。Jリーグ公式が28万8000人(2017年5月時点)なので、だいたい同じくらいですか。

能町 もちろん公式なので、真面目なお知らせツイートもあるんですが、最近はかなりカジュアルな写真もアップされるようになりましたね。おそらくSNSのプロみたいな人がスタッフに入ったんだと思いますけど。

宇都宮 そうした相撲界の取り組みをご覧になって、何かサッカー界でも参考になるような話ってありますかね?

能町 私が最初、Jリーグに対して若干抵抗があったのが、サポーターがすごく熱いイメージがあったんですね。熱すぎて、逆に私みたいな素人が行っていいのか、みたいな。熱いイメージもわかるんですけど、もうちょっとソフトなサポーター像というものもアピールできたほうがいいかな、とは思いますね。

宇都宮 TVの情報番組とかスポーツニュースなんかだと、どうしても「熱いサポーター」ばかりを映し出してしまう傾向はありますよね。

能町 やっぱり選手とファンとの距離が近いことって、大事だと思うんですよ。相撲って異常なくらい力士とお客さんが近いんですよね。地方場所だと導線がまったく一緒ですし、横綱級以外の人はわりとガードもゆるゆるなんです。

 カマタマーレ観戦も似たところがあって、選手との距離感がすごく近いのがいいなって思いました。選手も地元のお兄ちゃんって感じだし、試合のあとにサイン会とかやっているし。これがJ1になると、ちょっと敷居が高い感じになるのが残念ではあります。

――僕が『能サポ』を読んで強く感じたのが、結局のところ「自由に語った者勝ちなんだな」ということでした。僕も『サポーターの冒険』を書いていたときは「サポーターから変な指摘をされないかな」と心配したりしていましたけど、素人だからこその発見や喜びもあるわけで、そういうことを語る楽しみってもっとあってもいいと思うんですよね。

能町 サッカーでも相撲でもそうなんですけど、マニア同士の会話は確かに楽しんですが、マニアが思いっきり降りて来て初心者にわかる言葉で語ることも大事だなと思っていて。逆にマニアばっかりが固まって「あいつはわかってないからダメだ」みたいなことだと、なかなか競技の裾野って広がっていかないですよね。

宇都宮 いや、おっしゃる通りです。「すべてのジャンルをマニアが潰す」という有名な言葉がありますが、サッカーの世界もそういった風潮がたまに見られるので気をつけたいですよね。NHKの『ニュース シブ5時』で、能町さんが大相撲のマニアックなネタをとてもわかりやすく伝えている話術というものは、ジャンルは違えども非常に参考になります。

――というわけで能町さん、今後もカマタマーレ讃岐を応援してあげてください。

能町 また今週末に応援に行ってきます!

●能町みね子(のうまち・みねこ)

漫画家。北海道出身、茨城県育ち。2006年、イラストエッセイ『オカマだけどOLやってます。』(竹書房)でデビュー。著書『くすぶれ! モテない系』(ブックマン社)、『縁遠さん』(メディアファクトリー)、 『ときめかない日記』(幻冬舎)、『お家賃ですけど』(東京書籍)、『ひとりごはんの背中』(講談社)、『お話はよく伺っております』(エンターブレイン) など多数。雑誌やネット媒体での連載も多くかかえる。また、『久保みねヒャダ こじらせナイト』(フジテレビ)、『ニュース シブ5時』(NHK総合)にも出演。このほど『能サポ』でサッカー本大賞2017を受賞。

フットボールチャンネル編集部

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