ここから本文です

カーライフ、恥の原点「ランチア デルタ」──清水草一の愛車エッセイ Vol.2

6/11(日) 22:01配信

GQ JAPAN

乗り継いできたクルマの数は優に40台を超えるモータージャーナリスト、清水草一が、愛車史を振り返る新連載の自動車エッセイ。第2回はランチア デルタについて。

【フォトギャラリーはこちら:新旧のランチア デルタ】

■イタリア人は、カルカルパワステが好きらしい

思えば悩みの多い人生であった。

カーライフもまたしかり。これまで私は数えきれないほどの悩みを抱えてきた。

現在も深い悩みを抱えている。それは、愛車の1台であるランチア デルタ 1.6マルチジェットに関わることだ。

ランチア デルタと言うと、誰もが「あの」デルタを思い浮かべるだろうが、私のデルタはアレとは似ても似つかないヘンテコな形をしている。個人的には「超前衛」と呼んでいるが、世間の良識に照らせばヘンテコということになろう。

エンジンは1600ccのディーゼル。ミッションはフィアット系が得意とする、ガックンガックンするセミAT(正式にはセレクトロニックと言うらしい)である。

まぁそれはいい。私の悩みはパワーステアリングにある。

あまりにも軽いのだ。

90年代半ばから00年代にかけてのフィアットグループは、電動パワステを思い切り軽くする傾向にあった。しかも、軽すぎるパワステをさらに軽くする「シティモード」まで設けて、スカスカのカルカル電動パワステ運動を推進していた。

どうやらイタリア人は、カルカルパワステが好きらしい。なぜそう思うかというと、もう20年近く前になるが、かのパンツェッタ・ジローラモ氏にフィアット プントに試乗してもらった時、「ハンドルが重いですね~」と渋い顔でのたまったからである。

当時のプントは、それこそカルカルのスカスカ電動パワステの典型だったが、ジローラモ氏はそれでも重いと言った!

そこで私は、ダッシュボードのシティモードボタンを押して、さらにステアリングをカルカルのスカスカにした。すると氏は目を丸くして、「いいですね~!」とニッコリなさったのである! まさかイタリア人がこんなにスカスカパワステ好きだったとは! 1名のみの調査だが。

まあとにかく、09年式の我がデルタの電動パワステも、カルカスのスカスカすぎて、ステアリングインフォメーションがほとんどゼロ! 高速巡航では不安定で疲れる。フラフラしてホントにもう冗談じゃない! それでいて足回りは妙に硬いので、ぶっといスポーツタイヤを履いてステアリングを重くするのも絶対ダメ! どうすりゃいいんだ! それについて昨晩、突然ひらいめいた。

電動パワステ切ってみたらどうだんべ? ヒューズ引っこ抜いて。

■フェラーリ 512TRを越えた!

こんな単純なことに気付くのに1年半もかかってしまった。お恥ずかしい限りだが、さっそく今朝やってみた。

もぉおおおおお~のすごく重くなりました……。

この重さはフェラーリ 512TR以上! さすがFF車。フロント荷重はミドシップの512TRよりはるかに重いようだ。

車検証を見たら「前軸荷重/950kg」とあった。さすがディーゼルエンジン。

ガレージから出そうとした時点で、あまりの重さに「こりゃダメだな」と思ったものの、せっかく試したんだからと頑張って車庫出しし、近所を走り回ってみた。

意外と悪くない……。

イタリア人のナンパ師みたいに、悪い意味で軽すぎる乗り味だったデルタが、巌のようにどっしりと重々しいクルマに大変身している! この重々しさはメルセデスを超えている! ハンドル重いだけだけど。

交差点での右左折は気合が要るが、私とて、パワステのないフェラーリやランボルギーニを何台か所有してきた経験がある。フェラーリやランボルギーニだと思えばなんとかなる!

と思ったが、帰ってすぐにヒューズを元に戻しました。やっぱあまりにも重すぎてキケン。まだ軽すぎる方がよかったです。涙。

文・清水草一

最終更新:6/12(月) 0:10
GQ JAPAN

記事提供社からのご案内(外部サイト)

GQ JAPAN

コンデナスト・ジャパン

2017年9月号
2017年7月24日発売

600円(税込)

『ベイビー・ドライバー』主演、アンセル・エルゴート登場/クルマが恋人の若者たち/10トップワールドニュース/三越ワールドウオッチフェア“明日”のヴィンテージ時計