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<レシピ動画の限界>ありきたりな料理を無理やりフードポルノにするオワコン感

6/12(月) 7:30配信

メディアゴン

藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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1分程度の動画で調理を見せる「レシピ動画」が人気だ。「DELISH KITCHEN(開始は2015年9月)」「kurashiru(同2016年2月)」を筆頭に、「mogoo(同2015年9月)」「TASTY Japan(同2016年8月)など、同傾向のサービスが続々と生まれている。

レシピ動画メディアは、この1、2年で急成長した分野である。今年の3月に「kurashiru」を運営するdely株式会社が第三者割当増資を実施して30億円を調達したことも話題となった。今後、さらなる成長が見込める投資先としても、魅力的なコンテンツという認識なのだろう。

レシピ動画の基本構造はどれも似ている。調理の様子を上から俯瞰で撮影し、その調理工程を早送り再生した1分前後の動画として見せる。映像の最初か最後で完成した料理をカットして箸やフォークでつまみ上げる、といった構成だ。チーズやクリーム、ソース類を使っていることが多く、それらがからみ美味しそうに糸を引く。

そういった素材を多用して目を引かせる作りは典型的な「フードポルノ」であり、かつてレオタード姿の女性が激しいダンスを踊るCMで一世を風靡した消費者金融のアイキャッチと同じ古典的な手法である。

確かに、1分程度の早送り動画で紹介されるレシピは文字情報や静止画よりも直感的だ。また、早送りの短い動画で1品の料理が出来上がる模様は、調理をしない人が見ても面白い。FacebookやTwitterなどのSNSを介して拡散され、日常的なスマホ利用の中にサクッと入り込んでくるのに丁度良いボリュームでもある。それらが急成長の要因でもあるだろう。

しかしながら、文字と写真で調理を紹介する「クックパッド」のようなレシピ投稿サイトと比べ、娯楽性は高いものの、利便性や実用性は必ずしも高いとは言えない。動画の通りにやっても1分で完成するわけではないし、見た目ほど簡単でもない。あくまでも「見世物」としてのレシピ動画というのが実態であろう。実用化が今後、最大の課題になるはずだ。

もちろん、収益モデルにも課題がある。大型資金の調達の成功事例を出した今、今後は投資段階から収益設計の段階に進まねばならない。この手のサービスは、「広告」か「課金」のいづれかでしかビジネスポイントがない。現状では、アクセス数(再生数)を高め、広告価値を高めることだろう。しかし、そこから先にオリジナルで魅力的な将来構想は、なかなか見えて来ない。

広告収益を維持するためには、安定的なアクセス数が不可欠である。そのためにはユーザーが飽きないように、早い頻度で新しいコンテンツを提供し続けなければならない。「DELISH KITCHEN」や「kurashiru」などは毎日50動画、100動画と大量の動画を制作・配信していると言われる。圧倒的なヒットレシピ動画でも生まれない限り、アクセス数、再生数を高めるためには、動画の数を増やす他はないからだ。

しかしながら、日々、新しい情報源が世界中で生まれるニュースサイトや情報サービスのような媒体と違い、「目新しさ」という意味ではレシピには限界がある。例えば、レシピ動画メディアが普及し始めた当初、「なるほど、こんなに簡単に美味しそうな料理ができるんだ!」と目からウロコな動画が数多くあった。わずか1分程度の時間、簡単な手順と意外な方法で、驚くほど高クオリティな料理が完成する光景はまさに「圧巻」であった。

しかし、最近のレシピ動画の多くに、かつてのような「目からウロコ」な驚きはない。ごくふつうの調理風景の俯瞰動画を早送り再生しているだけと感じることは多い。卵焼きを作り、バンズをフライパンで焼いてバターを塗り、それではさんで「エッグサンド」のようなものさえあった。厚焼き卵の中にソーセージを入れただけの小学生でもできるようなレシピの最後に溶かしたチーズをかけ、完成した料理に無理やり糸を引を引かせて「フードポルノ」にしている場合などは初期オワコン感さえ漂う。

それも当然で、仮に1日50動画が作られるとすれば、1年間で1万8250のレシピが必要となる。もちろん、C級以下グルメを含め、世界には様々な食文化があるし、そもそもレシピに著作権はなく、既発表のレシピでも誰もが利用できる。よって、そのペースでも1、2年を耐え忍ぶぐらいのレシピ数は確保できるのだろうが、ユーザーの関心を満たすことができる「動画」にできるか、と言われれば甚だ疑問だ。

あえて動画にする必要も、ましてや早送り再生する必要もないレシピ動画が急増している現状を見ると、スタートから2年足らずで、すでに商材として飽和し始めていること痛感する。従来からある写真と文字情報によるレシピサイトとの最大の違いは、「動画の早送り再生」という直感性だが、誰もが知っているようなレシピの「ありきたりな料理の早送り動画」では、移り気な若いユーザーたち関心を引きつけ続けることはできまい。

新鮮さと驚きのない「調理動画の倍速再生」では、将来的に構想しているであろう課金モデル、有料コンテンツ化の実現も難しい。食品メーカーや有名飲食店とのコラボレーションなども出始めているが、それも減少するレシピの補完手段の一つにしかならないだろう。

そう考えれば、レシピ動画メディアたちが、ネットから「未紹介レシピ」「未紹介食べ合わせ」を探すだけの二次以下メディアになり下がる危険性もある。つまり、事実上、レシピの「キュレーション(情報収集)」と動画化による二次利用サービスでしかなくなってしまうわけだ。オリジナル・レシピの考案者とのトラブルや、道義的な責任問題も出てくるかもしれない(それは「クックパッド」がすでに迎えている限界でもある)。

さらに言えば、動画としての限界もある。「レシピ動画=調理工程動画」という前提上、あくまでも、調理だけの動画だ。テレビの料理番組のようにタレントが食べたり、実食者がコメントをするような場面もない。こういった点もコンテンツとして発展させて行く上で、大きな障壁になるように思う。厚焼き卵のレシピ動画よりも、命を張ったグルメリポーター・彦摩呂の実食レポートの方がはるかに面白いからだ。

回転と賞味期限の早いネットメディアの世界。これまでも数々のコンテンツが驚くべきスピードで生み出され、消費され、消えていった。早送り動画再生という手法は古くからあるが、そこには「珍しさと驚き」が不可欠だった。ビル建設や駄菓子製造などの早送り動画は「どうやって作っているんだろう?」「あれってそうやってできてるんだ!」と視聴者の好奇心を歓喜する。

残念ながら卵焼きやサンドイッチの調理過程に、私たちの好奇心を歓喜する要素はない。そもそも、レシピ動画のヒット要因は、「目からウロコ」な驚きにあった。それが失われつつある今日、いかに驚きと意外性を提供できるかが今後、大きな課題になるはずだ。

藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

最終更新:6/12(月) 7:30
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