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その寝ぼけ行動、認知症の始まりかも……

6/12(月) 7:30配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

眠っている間に怒鳴ったり、手足を振り回したりしたら危険信号かも

 今年4月に、故ジョン・レノンの妻オノ・ヨーコさんがレビー小体型認知症に罹患しているようだという記事が週刊誌に載った。御年84歳とのことなので認知症に罹患しても不思議でない年齢ではあるが、珍しい病名に目を奪われた読者も多かったと思う。

認知症と睡眠の切っても切れない関係

 認知症とは、物忘れがひどくなる「記憶障害」、時刻や自分のいる場所が分からなくなる「見当識障害」、物や言葉などが分からなくなる「失認」、着衣などができなくなる「失行」など、さまざまな認知機能の障害が生じる疾患の総称である。これらの症状は認知症の中核症状と呼ばれている。

 認知症はその原因別に幾つかに分けられる。最も多いのはアルツハイマー型で患者の約半数を占める。次いで多いのがレビー小体型と脳血管性で、この3つで認知症の約8割を占める。つまり、レビー小体型認知症は決して稀な疾患ではないのだが知名度は高いと言えない。

 それには理由があって、レビー小体型は比較的最近発見された認知症だからである。最近と言っても日本人研究者がその存在を最初に提唱してからかれこれ40年にもなる。ところが長らく欧米で認められず、1990年代に入ってようやく国際会議で診断基準が定められたという経緯がある。私の学生時代(1980年代)の教科書にも載っていなかった。

 そのレビー小体型認知症を本コラムで取り上げるのは、「レム睡眠行動障害」という特殊な睡眠障害が60%もの患者さんで認められるからである。一般的には中高年の0.5~1%でみられる程度なので、いかにレビー小体型認知症では高率に合併するかお分かりだろう。

夢と同じように体が動いてしまう

 レム睡眠行動障害とは何かというと、夢体験が夢の中だけに留まらず行動化してしまう睡眠障害である。例えば、誰かと喧嘩したり、何物かに襲われたり、犬に噛みつかれそうになって蹴飛ばしたり、などの夢の内容そのままに、寝言で怒鳴ったり、手足を振り回したりしてしまうのである。

 私たちは夢の大部分をレム睡眠中に見る。レム睡眠は睡眠段階の一つで、寝ついてから約90分~120分おきに現れる。レム睡眠中には大脳の活動は比較的活発で鮮明な夢を見ることが多いのだが、逆に体の筋肉は弛緩して全く動かない。

 ナゼ、レム睡眠行動障害ではレム睡眠中に激しい体の動きが出てしまうのであろうか?

 脳幹部と呼ばれる部位にはレム睡眠中に筋肉の動きをオフにするスイッチがあり、健康な人のレム睡眠中にはその「オフスイッチ」の作用で夢行動はおろか寝返りすらできない。ところが、レム睡眠行動障害ではその「オフスイッチ」にトラブルが生じているらしい。

 また、レム睡眠行動障害のほかにも、レビー小体型認知症では嗅覚異常や、手足の震えや筋肉が硬くなり動きが遅くなるパーキンソン症状がよくみられる。

 しかも、レビー小体型認知症では、記憶障害などの中核症状が出現する何年も前から嗅覚異常やレム睡眠行動障害が出現することが多い。パーキンソン症状も中核症状と相前後して、発症のごく早期から認められる。アルツハイマー型など他の認知症でもパーキンソン症状やレム睡眠行動障害がみられることがあるが、かなり病状が進行してから出現するのが普通だ。レビー小体型認知症でのこのような症状の出現順序は特徴的で診断にも大いに役立つ。

 確かなことはまだ明らかにされていないが、これらの特徴はレビー小体型認知症の発症の仕組みとの関係が強く疑われている。

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