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世界最悪の紛争地ソマリアに日本人の若者が挑む

6/12(月) 12:11配信

Wedge

 「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸の東に突き出た半島に位置するソマリア。内戦が続き、過激派組織も加わって世界で最悪の紛争地に単身乗り込み、「若者である自分だからこそできることがあるはずだ」として、日本とアフリカで若い仲間を集めながら、過激派やギャング組織から脱退したソマリアの若者の社会復帰プロジェクトにかかわり、そのリーダーとして支援活動を続ける永井陽右さん。4月に国際的な紛争、テロ問題の解決を手助けするためのNPO法人「アクセプト・インターナショナル」という支援のための法人を立ち上げたのを機に、その狙いについてインタビューした。

Q アフリカに関心を持つようになったきっかけは

A 大学1年生だった2011年の8月に、高校時代の教科書で習ったルワンダのジェノサイドを知りたい、何かをしたいと思い、1994年に大量虐殺があったルワンダを訪れ、ジェノサイド記念館を見た。非人道的な暴力を振るった加害者に対する強烈な怒りを覚えた。それで、加害者の暴力を食い止め、いま危機が迫っている人を救いたいと心が動いた。

 その後、ルワンダは経済発展して安定したが、ソマリアがひどい状況にあるのを知り、外務省の渡航安全情報を調べたら、退避勧告が出ており、渡航は延期の指示が出ていた。NGOも調べてみたが、危険すぎることから活動しているところはなかった。しかし、ソマリアには多くの人が想像できないような「痛み」を抱えていることから何とかしたいという思いが募った。ちょうどそのころ、「早大にソマリアの遺児2人が合格」のニュースを知り、その2人の留学生の紛争孤児を待ち伏せして捕まえ、必死に口説いて活動が始まった。彼らの仲間がナイロビでソーシャルワーカー的な活動をしていたので、その人々とつないでもらった。そこから色々と始まり、ほかの学生も巻き込んで2011年9月に「日本ソマリア青年機構」を設立した。

Q ロンドンの大学では紛争解決についてどんなことを学んだのか

A 和平交渉ができないテロ組織を相手にする場合、カウンターテロリズム的な発想が必要となり、そのためにはテロ組織のインセンティブを変えるために戦力を削ぐ必要がある。我々の組織は武力で対抗することはできないが、武力的に削ぐ以外に人権的なアプローチがあり、これが(1)加入させないことでテロ組織の数を抑える、(2)テロ組織に加入してしまった人の脱退を促進し数を削ぐーの方法がある。この2点を実行するNGOがアクセプト・インターナショナルだ。

Q ソマリアは現在、どのような状況なのか

A 内戦が続いて、アルシャバブというイスラム過激派組織がまだまだ各地を支配している。2016年は4000人以上の死傷者が出ている。彼らが暗躍していて、護衛なしに外には出られない。空港に到着すると、武装したアフリカ連合ソマリアミッション(AMISOM)や国連の関係者に迎えに来てもらい、武装エスコートとともに所定の場所に行く。アルシャバブによるとみられるテロや襲撃事件は日常茶飯事で自爆テロも目撃したことがある。政府側もアルシャバブ側も、何かあるとすぐに機関銃を撃つので危ない。このため、空港に着いてから2~3週間のソマリア滞在中は命の危険性が伴うため、ものすごい緊張状態になる。2011年に大飢饉が起こり、その後も内戦、紛争が収まらず混乱した状態が続いており、国連はこの紛争のありさまを「比類なき人類の悲劇」だと表現しているほど。

Q 国全体が混乱している状態で、そのような若者たちを本当に更生させることができるのか。混乱を極めている国に日本人の若者が1人で行って何ができるのか疑問に思わないか。

A ソマリア紛争はただの学生が立ち向かえるような問題でないことは誰が見ても明らかだが、力がないからという理由で諦めることだけはしたくなかった。現地では警察が強引な形でギャングの駆逐策戦を展開している。その中で「いま、若者である自分に何ができるか」を問い続けた結果、武力を持たない無力な若者の僕らだからこそできるやり方にたどり着いた。いま紛争を起こしている武装勢力の大人たちではなく、そこに向かうかもしれないギャングたちをターゲットにした社会復帰ブロジェクト。誰も彼らにアクセスできない中、日本人学生である僕らだけができた。「遠い日本からよくぞこんなところまで、来てくれた。その心意気は素晴らしい」とギャングを含め現地の誰からも言われた。

Q 復帰プログラムを成功させるための鍵は何か

A ソマリアでは、ソマリア政府と国連と協力して、アルシャバブから降参した人に対する脱過激化とリハビリのプログラムをサポートしている。問題の一つは脱過激化・社会復帰プログラムで更生できても、外に出ると仕返しをしようと狙うアルシャバブやギャングが待ち構えていること。実際にその犠牲になったことも聞いている。例えば、アルシャバブは脱会したものは裏切り者として憎んでいたりする。このため、更生した彼らを受け入れる側にもリスクがある。ソマリア政府はこれに対して支援はしてきているが、とてもじゃないがまだ十分ではない。しかし、更生した彼らが生きていかなければ、このプログラムは失敗したことになるし、紛争もなくならない。何とかプログラムを成功させていかなければならない。

Q ソマリア政府や国連と、どのようにつなぎを取ったのか

A 我々の活動の意義を理解してくれる人が国連やアフリカ連合にはたくさんいたし、ソマリア政府へのつなぎは国連がサポートしてくれた。ギャングの脱過激化&社会復帰支援の取り組みが国連などに評価されたからだと思う。あとはメンバーの1人の親族がアフリカ連合の関係者だったということもある。

Q 大学を卒業した永井代表が、危険の多い現地で活動するためにどのようなトレーニングを受けてきたのか

A 英国では陸軍のセキュリティトレーニング、ソマリアではアフリカ連合のセキュリティブリーフィングを受けた。また、昨年2月にはガーナのPKOセンターで国連職員用の武装解除研修に参加し修了した経験がある。現場では最低限のプロと認識はされている。

Q これまでの支援活動は、永井代表が強力に組織を引っ張ってきていたものの、これからは「アクセプト・インターナショナル」として組織的な活動が求められるが

A そもそも2011年からの5年間、私1人でやってきた活動では決してない。裏では多くのメンバーが頑張っていて、すべての成果は我々全員で達成したもの。「アクセプト・インターナショナル」になってから、加入したいと応募してくる人はさらに増えた。現在は約50名となった。日本全国、イギリスからも加入者がいる。活動自体は事業部に分かれており、私個人の活動ではない。海外事業局に則して言えば、私がしているソマリアの活動は、あくまでソマリア事業部としての活動をしている。このほかに、ケニア、ウィグル、ナイジェリアなどの地域ごとの事業部があり、それぞれの地域担当者が現地で活動をしている。

Q ソマリアでの活動に対する国際的な支援はないのか

A アフリカ連合や国連、そしてトルコや欧米諸国などから支援が大きい。ソマリア政府はまだ弱体なので、あまり期待できない。JICA(国際協力機構)も応援はしてくれているが、日本政府は大使館を置いていない。外交手続きはケニアで行っている。

Q 活動資金はどのようにしているのか

A これまでは助成金ベースで資金を集めてきた。これからはある程度寄付モデルの運営になる。初年度年間予算は1500万ほどだが、この額でもできることはいくらでもある。例えば5億円あればやりたいこと全部できるか? と言われても恐らくノーだ。基本的に、ニーズを見つつ、持てる予算で最大限価値あることをやっていく。最低限1000万くらいあれば満足いくプロジェクトは組める。もちろん今後さらに予算は拡大するべく努力はしていく。

 寄付に関しては日本国内だけでなく英国や米国などテロ対策が盛んな国でも展開する予定。また、国内で収益事業を実施する予定だ。組織の代表として、この難関をしっかり乗り越えていきたい。

* * *

ながい・ようすけ 1991年神奈川県生まれ。早稲田大学在学中にソマリアの大飢饉と紛争を知り、2011年にソマリアに特化したNGO「日本ソマリア青年機構」を設立、16年英国のロンドン・スクールオブ・エコノミクスの紛争研究修士課程を卒業。今年4月3日に社会人も含めた仲間と一緒に、ソマリアを中心としたテロ・紛争の解決に取り組むNPO法人「アクセプト・インターナショナル」を設立した。6月には再度、ソマリアに行く予定

中西 享 (経済ジャーナリスト)

最終更新:6/12(月) 13:04
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