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痴漢冤罪に巻き込まれたらどうなる――経験者が語る「勾留中もっともキツいイベント」とは

6/12(月) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 今年に入って首都圏では痴漢の疑いを掛けられて逃亡を図り、ホームから線路に飛び降りる暴挙に出るケースが続出している。

 被害者に手首を掴まれた後、具体的にどんな手順で刑事手続きが進むのか。筆者は痴漢の疑いを掛けられ、写真撮影や指紋採取までされたことがある。

 第1回は駅員室から警察の取調室に連れて行かれるまで、第2回は指紋採取や留置所内での出来事を記したが、今回はそれ以降の展開について説明したい。これは筆者の体験や取材に基づく事実である。本稿では、ただ事実を淡々と説明するにとどまる。法的なアドバイスについては専門家の意見を参考にしていただきたい。

◆裁判所に呼ばれて事情を聞かれる!

 送検されてきた事件に対して、担当検事が更なる捜査が必要だと判断した場合、被疑者の身柄を引き続き拘束しておくために、検事は裁判所に「勾留請求」という手続きをする。

 こうした手続きは書類によって行われるので、痴漢の容疑を掛けられ、留置場で取調べを受けている被疑者は、直接知ることができない。

 ただ、遅くても逮捕2日目には、“検察調べ”がある。これは逮捕後48時間以内に事件が検察の手に渡り、取調べを検事が行うことになったためである。被疑者は警察署から護送バスに乗せられ、地方検察庁まで連行される。

 このとき裁判所は、被疑者の身柄拘束が正当かどうか判断をするため、被疑者と直接面会して事情を聞く“勾留質問”をする。だから、留置場にいる被疑者は検察庁に呼ばれた後、今度は裁判所に呼ばれて、裁判官から事情を聞かれる。

◆身柄拘束中もっともハードな出来事が!

 この検事調べから勾留質問の流れは、住んでいる地域によって若干違いがある。刑事事件の発生件数が少ない地方都市の場合、午前中に検事調べがあり、午後から勾留質問が行われる。これは、たいていの地方検察庁と地方裁判所が隣接しており、1日で手続きが終わってしまうためだ。

 一方、痴漢事件に限らず事件が多発する都市部では、毎日300件超もの事件を処理しなければいけないので、1日目に検察庁で検事調べ、そして翌日は裁判所で勾留質問という流れになっている。護送バスに何十人もの被疑者と一緒に、検察庁や裁判所に連れまわされる2日間は、身柄拘束中もっともハードなものといえるだろう。

 こうした手続きによって、裁判所が検察の勾留請求を認めると、まずは最長10日間の「勾留」が決定し、被疑者の身柄拘束は続く。留置場で身柄を拘束され、連日警察の刑事から取調べを受けるという実情は同じだが、自由を奪っている法的根拠が「逮捕」から「勾留」に変わるのだ。

◆勾留延長に起訴勾留!身柄拘束は3か月以上続く?

 痴漢事件に限らず、かけられている容疑に対して否認を続けると、勾留のタイムリミットである10日間が過ぎても勾留は続くことが多い。別に警察や検察が法律を無視しているわけではなく、勾留満期が近づくと検事は裁判所に対して、「勾留延長申請」という手続きを行うのだ。

 勾留延長が申請された場合、裁判所は最初の勾留申請時のように、被疑者を呼び出して勾留質問をすることもなく、書類審査だけで、あっさり勾留の延長を決定してしまう。延長された勾留のタイムリミットは最長で10日間。つまり、起訴前の勾留は最長で20日間なのだ。

 この勾留期間中に検察の検事は、被疑者を起訴して裁判を起こすか、不起訴処分にして被疑者を釈放するかを決定する。事件によっては、勾留満期になっても起訴か不起訴かを決めきれない場合(処分保留)もあるが、普通の痴漢事件であれば、たいていは勾留満期になった時点で、起訴か不起訴かが決定されるわけだ。

◆起訴されてしまうとどうなる?

 不起訴であれば事件は終わりで、被疑者は“無実の人”として釈放される。ところが起訴されてしまうと、今度は「起訴勾留」という身柄拘束が引き続きおこなわれるのである。起訴勾留は、

・最初の1回は2か月

・次回以降は1か月

 が期限だが、書類更新だけで安直に延長される上、更新回数に制限もない。起訴勾留は基本的に裁判が終わるまで続くのである。

 とはいえ、もし不起訴に終わっても、会社はクビになっているだろうし、家族も離散してしまっている……みたいな悲惨な状況になっている可能性が大だ。そんな事態を防ぐためにあるのが「保釈制度」だ。

 保釈制度はカネを払って罪を勘弁してもらうのではなく、「保釈保証金」というカネを裁判所に預け、裁判には必ず出廷することを条件に、公判中は出所して暮らせるシステムである。つまり、無事に裁判が終われば、預けた保釈金は戻ってくるし、有罪の実刑判決をくらった場合は、本格的に身柄を拘束されて刑務所に行かなければならない(保釈金は戻ってくるが)。

 保釈制度は起訴された直後から申請可能で、許可を出すのは裁判所だ。よほど重大な罪を犯した疑いを持たれていたり、何度も同じ罪を犯している累犯者でもない限り、保釈は認められるが申請1回で許可が出ない場合もある。

 痴漢事件の場合だと、公判が開始されて第2回公判くらいで行われる「被害者質問」が終わるまで保釈が認められないケースが多い。これは保釈で出所した被告人が、被害者に会って脅し、証言を妨害するのを防ぐためだと言われている。

 つまり痴漢の容疑をかけられて、無罪を主張した場合、もっとも最悪のケースは、逮捕されてから裁判で被害者質問が終わるまでの間、およそ3か月程度警察・検察によって身柄が拘束されてしまうのだ。

◆痴漢事件には勾留が却下されるケースが激増

 痴漢に対する刑事罰が重くなったのは、1990年代後半からだ。それまでは余程悪質なケースを除き、痴漢の疑いをかけられて警察に突き出されても、最寄の交番で警官に説教されるだけで釈放される「微罪処理」で事件は終わっていた。ところが軽い痴漢でも、刑事罰のある「迷惑防止条例」が適用されるようになってからは事情が変わってくる。

 罰金や懲役といった正式な刑事罰が下される以上、そうした刑罰を科すには正式な裁判が必要になるのである。初期の段階で素直に罪を認めていれば、正式な裁判を省略して書類手続きだけで罰金を支払う「略式手続き」というシステムも使えるが、痴漢の容疑を否認している以上、略式手続きは使えず、正式な裁判を行うハメになり、多くのサラリーマンが仕事や家庭を失う結果になったのである。

 ところが、そうした不条理な刑事手続きにも変化が現れている。2015年くらいから顕著になってきているが、検察が裁判所に対して行う勾留請求を、裁判所が却下するケースが増えてきているのだ。

 勾留というのは「逮捕」で被疑者の身柄を拘束しておけるタイムリミットが過ぎた後でも、引き続き被疑者の自由を奪っておける措置だが、その理由として、

・被疑者が逃亡してしまう可能性がある

・被疑者が証拠隠滅を図る可能性がある

というものである。

 確かにせっかく捕まえた被疑者が、身柄を解放した途端に行方をくらましてしまったら、起訴しても裁判は開けないし、重要な証拠を被疑者が始末してしまったら、起訴すら出来なくなってしまう。だから被疑者を勾留して身柄を拘束しておくというのは、一応意味があることだ。

 しかし痴漢事件の場合、その被疑者の多くは普通のサラリーマンである。ちゃんと住所もしっかりしており、勤めている会社もハッキリわかっている。そんな人物が痴漢の容疑から逃れるために、全てを捨てて逃亡などするわけがないのだ。また“痴漢の証拠”など、事件が起きた直後に警察が押収できるものはすべて押収してあるはずで、後から隠滅できる証拠などないのである。

 そんなわけで最近の裁判所は、痴漢事件に対して、「わざわざ勾留する必要はない」という立場になり、検察の勾留申請を却下するケースが増えているのである。特に顕著なのは東京地裁で、被疑者が痴漢容疑を否認していても、裁判所は勾留申請を却下することが多くなった。

 つまり、痴漢の疑いをかけられて、その場を上手く切り抜けることが出来ず、駅員室に連れ込まれてしまった挙句、警察に逮捕されたとしても3日目の朝には、とりあえず釈放され、シャバに戻れる可能性が高いのだ。

 一度逮捕されてしまったら、日常生活と完全に切り離され、3か月も刑務所暮らしを強いられる可能性があった痴漢冤罪事件において、この裁判所の変化は重大なモノだといえるだろう。

 次回はシャバに戻ってからも続く苦労についてどんなものなのかをお届けします。

<文/ごとうさとき>

【ごとうさとき】

フリーライター。’12年にある事件に巻き込まれ、逮捕されるが何とか不起訴となって釈放される。釈放後あらためて刑事手続を勉強し、取材・調査も行う。著書『逮捕されたらこうなります!』、『痴漢に間違われたらこうなります!』(ともに自由国民社 監修者・弁護士/坂根真也)が発売中

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最終更新:6/14(水) 20:18
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