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ゴミ収集人の年収は1000万円!パリ協定離脱したアメリカからゴミが減らない理由とは

6/12(月) 16:00配信

HARBOR BUSINESS Online

 筆者が在住しているニューヨークから一時帰国すると、日本の美化意識の高さに改めて驚かされる。成田空港に降り立ち、向かったトイレで「ここで寝られるな」と思うくらいだ。街中には、ゴミ箱がほとんど設置されていないにもかかわらず、1度に3,000人が横断することもある渋谷のスクランブル交差点にすら、空き缶1つ落ちていない。

 各自治体によって家庭ゴミまでもが管理され、「ゴミは朝の8時半までに出してください」と言われれば、寝坊して9時前に出すのさえも躊躇する。今日は何曜日だっけ、という質問に「ビニールの日」や「金物の日」で応えると会話が成り立つゆえ、おかげで実家は、ゴミ屋敷ならぬ“ゴミ箱屋敷”。街中にない分、家に隠し持たれるその箱たちは、ペットボトルのキャップにまでも行先を導いているのだ。

 パリ協定からアメリカが離脱したことは記憶に新しいところだろう。同協定は190か国以上が署名した、いわば世界総出の環境運動である。アメリカの温室効果ガス排出量は世界の15%以上を占め、中国に次ぎ第2位。一人当たりの排出量で考えると、トップに躍り出る。そんな国が抜ければ、今後、同協定の実効性が弱まることは想像に難くない。

 今回の離脱には国内からの批判も多く、オバマ前大統領をはじめ、アメリカを代表する多くの企業や著名人が怒りの声をあげている。

 米紙ワシントン・ポストによると、今回の協定離脱に反対しているアメリカ国民は約59%、賛成はわずか約28%にすぎない。

 この結果から、少なからず「環境問題に取り組むべき」なるアメリカ国民の意志を汲み取ることができるのだが、“ゴミ箱屋敷”出身の筆者がニューヨークの街並を歩いていると、大手企業による環境改善努力は垣間見えるものの、「根本的要因」が邪魔して、個人ベースでの取り組みには、まだまだ根気と時間がかかるように思える。

 その「根本的要因」の多くは、文化や習慣、アメリカ人の体質にある。

 数例挙げてみよう。

 アメリカでは、どんなに天気がよくても洗濯物を外に干さず、乾燥機を使うことが一般的である。それには、アレルギー物質の付着防止、景観の維持、さらには「外干しは“乾燥機すら使えない貧困家庭”という固定観念がある」という、彼らなりの言い分がある。

 また、エネルギー効率の悪い年季物のエアコンを4月から使い始め、地下鉄やオフィスビル内は冷蔵庫内のように冷やされるが、アジア人よりも体温の高い欧米人にはそれが適温らしく、キンキンの地下鉄車内をアイスコーヒー片手に、キャミソール姿で過ごすニューヨーカーをよく目にする。

 家庭内では蛍光灯ではなく、より電力消費量の高い電球を使い、間接照明で過ごすのが主流だ。ムードの演出、というのも1つの理由だが、国内で約7割を占める白人の目にはメラニン色素が少なく、蛍光灯は眩しく感じるため、普及しにくいというのが根底にある。

 日本から見ると、大いに改善の余地があると思えるこれらアメリカの習慣は、必要以上に電力を使い、より多くの温室効果ガスを排出する一因となっていることは、言うまでもない。

◆環境問題を自然科学として捉えていないアメリカ

 元々アメリカには、トランプ大統領がパリ協定離脱時に発した「(同協定は)アメリカにとって不利益だ」という言葉を裏付けるように、環境問題を自然科学的な数字よりも、効率や経済に与える影響を優先してとらえる傾向がある。実際、生活している中で、「節水」「節電」といった言葉はほとんど耳にしない。したとしても、それは「光熱費の削減」のためで、まだまだ「環境問題」にはリンクしていない。

 そんな「効率・経済優先」の姿勢が顕著に表れるのが、ゴミ問題だ。

 例えば、アメリカには雑巾を使う習慣がない。汚れをとった布巾をわざわざ洗い、干して繰り返し使うのは、彼らにとっては効率が悪いことなのだ。結果、最終的にはゴミにしかならないペーパータオルでトイレ掃除から窓ふきまでを行う。ある日、いつも通っている某大手コーヒーチェーン店で、そんなペーパータオルもなかったのか、店員が大量のコーヒーフィルターを使って窓を拭いていたのには、心底驚いた。

 さらには、スーパーでの会計の際、大概レジ係が商品をレジ袋に入れてくれるのだが、そのレジ袋はほとんどの場合、二重にされる。アメリカのビニールは、生産時に有害物質を出すという理由からクオリティが悪く、二重にしないとパック牛乳1本入れるだけで破れ、客からのクレームの元になるのだ。

 当然、袋が2枚になればその分ゴミも2倍になるため、彼らの「有害物質対策」は、功を奏しているのかよく分からない。

 中でもニューヨークに住んでいて最も驚かされるのが、彼らのゴミの分別に対する意識である。

 環境問題取り組みの基本ともいうべきゴミの分別。その方法は、日本から来た人間からすると、実践するのを躊躇してしまうほどに緩い。

 が、その緩い取り決めでさえも市民には窮屈なのか、未だ使用されている黒いゴミ袋に、瓶・缶・生ごみを一緒に捨てることが一般化しており、1種類しかない横断歩道前のゴミ箱にも、実にバリエーション豊かなゴミが捨てられている。ゴミを分ければ、施設も収集車も、労働力も分けなければならないことから、「リサイクルには金がかかる」、「全部一緒にぶん投げたほうが効率がいい」という考え方が、国民にも浸透しているのだ。

 最近では分別に対する取り締まりを強化する動きもあるが、結局のところ、取り締まる市の職員もアメリカ国民であるため、国民一人ひとりの美化意識はなかなか向上しない。

◆ゴミ収集人はハーバード大学以上の競争率を勝ち抜いた「エリート」

 そんなニューヨークには、日本のような「ゴミ収集所」が存在しない。ゴミの日に自分のアパートやオフィスの前にゴミ袋を置いておくと、それを収集車が1つひとつ回収しに来るのだ。それゆえゴミの日には、歩道に黒い塊が長い列をなし、歩行者は、狭くなった歩道を圧迫感をもって歩くことになるのだが、驚くべきことは、その歩道に積まれる黒いゴミの山の隣に、家具がドンと捨てられていることだ。

 日本では粗大ごみを捨てるのには事前に予約が必要だったり、有料だったりするが、ニューヨークでは、ゴミの日に歩道へ出しておけば、無料で勝手に回収される。特に6月から9月の引っ越しシーズンには、ベッドからタンス、立派なソファまでもが捨てられているのをよく目にする。

 こうしてニューヨーク市内から出される1日のゴミの量は約4万トン。1週間余りで、エンパイアステートビルと同じ質量のゴミが出されている計算になる。しかし市は、自身のゴミ処理場を持っておらず、ほぼすべての一般ゴミを、トレーラーや鉄道、船を使って市外、州外、時には国外へ運び、埋め立てている。このゴミ輸送時にも、温室効果ガスを排出することを忘れてはならない。

 余談だが、そんなニューヨーク市のゴミ収集マンの年収は想像以上に高く、中には年収が1,000万円を超える人もいる。また、年金や医療保障なども充実しているため、当然求人募集には応募が殺到するのだが、テストや運転技術などといった多くの適性検査に合格し、雇用されるのはほんのわずかである。2015年のデータによると、9万人ものエントリーに対し、採用されたのはわずか500人。倍率は1%にも満たない。ハーバード大学への合格倍率が6%と考ると、彼らがどれだけの「エリート」なのかが分かるだろう。

 ゴミを出すことで、「人もうらやむ雇用」が生み出されているとは、なんとも皮肉なことだ。

 日本には、「掃除当番」という役割が小学校、場所によっては幼稚園の時代からから存在する。一方のアメリカでは、「学生は勉強するのが仕事。掃除をするために学校に来ているわけではない」という考え方が一般的だ。筆者が周りのアメリカ人に、日本の学生が机を下げ、教室の床を雑巾がけしている動画を見せたところ、「かわいそうに」とつぶやいていたのが印象的だった。

 環境問題に対する感覚や意識は、文化的背景の影響が強い。が、深刻化する地球温暖化を考えると、それら垣根を取り払い、一人ひとりが自分の出すゴミの今後を考える必要がある。根気と時間を要する問題ではあるが、ニューヨークの街並から、少しでも黒い塊がなくなる日が来ることを強く待ち望んでいる。

<文・橋本愛喜>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:6/12(月) 18:24
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