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強化部長に聞く。アントラーズが「勝負強く」あるために、植えつけたもの

6/14(水) 18:00配信

BEST TIMES

Jリーグでもっともタイトルを獲得したチーム、鹿島アントラーズ。その数19――他クラブの追随を許さない結果を出してきた常勝軍団はいかにして作られたか。すべてのタイトルにかかわった強化部長で、6月に初の著書「血を繋げる。」(幻冬舎)を上梓した鈴木満氏に聞く、組織の在り方、リーダーの務め、アントラーズの秘密。

Q1.「鹿島は勝負強い」というイメージが定着しています。他クラブと比べて「ここだけは負けない」と思える部分はどこでしょうか。

 ――就任から20年以上にわたり、強化部長として重点を置いてきたのはどんなことですか。

鈴木 私のクラブづくりの一番のテーマはいかに選手、スタッフの帰属意識を醸成するかです。
 チームには約50人の人間が集まっていて、それぞれが個人事業主です。簡単にいうと、選手は試合に出ないと報酬が上がりません。だから、常に自分が試合に出るために競争をします。もちろん、それは必要なことです。しかし、「自分のために」という思いだけでは組織の力になりません。みんなが「チームのために」という思いを持ったとき、組織は力を発揮します。そこで重要になるのが帰属意識です。帰属意識が持つパワーは計りしれません。
 鹿島にはクラブの礎を築いたジーコの教えをまとめた「ジーコスピリット」という哲学があります。「献身、誠実、尊重」とまとめていますが、私はそれを「結束力と勝利へのこだわり」と要約しています。この二つを具現化するにはどうしたらいいかと考えた末、帰属意識を植えつけるという答えに行き着きました。

――帰属意識を醸成するために、どういう工夫をされていますか。

鈴木 自分がこの組織に関わっているという参画意識がないと帰属意識は生まれません。そのために私は「適正戦力」というものを意識してチームを編成しています。いい選手がたくさんいれば勝てるというものではありません。10の力を持った選手が10人集まれば100の力になるとは限りません。戦力が過剰になると不協和音が生じたり、足の引っ張り合いが始まったりして、マイナスの作用が働いてしまいます。だから、戦力補強は「薄すぎず、厚すぎず」を意識しています。厚すぎないほうが選手は参画意識を持ち、それが帰属意識につながり、結束力が生まれます。
 コーチングスタッフにしても、ちょっと人が足りないくらいのほうがいい。うまくいっている組織はそういうものではないでしょうか。

――他のクラブより鹿島が上回っているものは何でしょうか。

 鈴木 これまで話してきた帰属意識と、もう一つは「クラブ全体で戦うんだ」という思いです。戦っているのはチームだけではありません。事業、広報、運営などに携わっているすべての部署のスタッフが自分は「チームの勝利のために働いている」という意識を強く持って戦っています。
 たとえばスポンサー営業も、チケット販売もチームの勝利のためなんだという思いを抱いて働いています。チームに勝ってもらいたいから自分は頑張ってチケットを売るんだという思いです。それは入場料収入でいい選手を補強できるからというようなお金の問題ではありません。重要なのは職員の思いです。その思いを選手が肌で感じているから、負けられないという気持ちが高まります。これが、ジーコスピリットである勝利へのこだわりを生んでいるのだと思います。

――それにしても鹿島は勝負強いですね。昨季の終盤のJ1チャンピオンシップ、クラブワールドカップ、天皇杯の戦いで勝負強さを見せつけました。(※2016シーズンJリーグ王者、CWC準優勝、天皇杯優勝)

鈴木 大事な試合を前にすると、自然に選手たちは「ここで勝たなきゃ、何のためにやってきたのかわからない」ということを口にします。結束して集中力が高まっていくのを、端から見ていて感じます。
 そういうときに注意しなければならないことがあります。大舞台ではアドレナリンが出て、気持ちが高揚します。野球でいえば、ここで一発、ホームランを打ってやるという気持ちになりがちです。
 でも、大きな試合をものにするには、ほんの小さなことを正確にこなして、積み上げていくのが大切です。あと50センチ相手に体を寄せるとか、1メートル余計に走るとか、ちょっとポジションを修正するとか、ささいなことを積み重ねることが勝利につながります。野球でいえば送りバントをきっちり決めるということです。
 鹿島は2002年度の天皇杯決勝で京都サンガに敗れました。あのときは相手を甘くみて、負けるわけがないという雰囲気の中、選手たちが「オレが試合を決めてやる」という気持ちを抱いてしまいました。その反省を踏まえて、私は大きな試合の前に必ず「小さなことをいかに正確にこなすかが大切なんだよ」という話をします。鹿島が勝負強くなったのは、敗戦から学んできたからでもあるのです。

文:ベストタイムズ編集部 /写真:西尾和生

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