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「エンブレム=紋章」の常識を覆すユベントスの「ロゴ=ブランド」戦略

6/14(水) 19:30配信

footballista

1月16日、ミラノの国立科学技術博物館で発表されたユベントスの新ブランドロゴは、ヨーロッパを見回してもまだ誰も試みていない、プロサッカークラブとしては画期的な新しさを持っている。その理由は、来シーズンから使用されるこのシンボルマークが、「クラブ」の「エンブレム=紋章」ではなく、「ブランド」の「ロゴ」であるという点に凝縮されている。おそらく他のメガクラブにとっても今後追随すべき先行事例となるだろう。

ユベントスが発表した新エンブレムお披露目動画



文 片野道郎



 ユベントスがこれまで使ってきた旧エンブレムも含めて、プロサッカークラブのシンボルマークはどれも、基本的に紋章(家系や組織、団体などを象徴的に代表する図案)というカテゴリーに属するものだった。


 ヨーロッパにおいて、組織や団体はその象徴となる紋章を持つというのは、伝統的な常識に属する事柄である。これらのエンブレムはほとんどすべてが盾、楕円、円といった形を基本にしているが、これは紋章の起源そのものがヨーロッパ中世で軍隊が使っていた盾の図案にあるからだ。


 サッカークラブももちろん例外ではない。世界の頂点を争うメガクラブから街場のアマチュアクラブまで、あらゆるクラブが伝統的な紋章の「文法」に従った、盾や楕円の形をしたエンブレムを持っている。ユーベもクラブ設立から間もない1905年以来、現在まで100年以上にわたって、楕円の中にチームカラーである白黒のストライプ、そして都市トリノのシンボルである牡牛の意匠をあしらったエンブレムを、少しずつデザインを修正しながら使ってきた。


 しかし今回発表された新しいシンボルマークは、伝統的な紋章とは完全に一線を画したシンプルかつクリーン、現代的なデザインを持っている。盾の形、チームカラーの白黒ストライプという紋章の「文法」を踏まえながらも、全体としてはJUVENTUSのイニシャルである「J」の文字に見えるという、非常に巧妙な構成である。



「J」は伝統と新しさの象徴



 この「J」というイニシャルは、イタリアサッカー界の盟主であると同時に特別な存在であるというユーベのアイデンティティを、極めて強く象徴する文字だ。


 実を言うと「J」という文字はイタリア語のアルファベットには存在しない。もともとはラテン語起源の文字なのだが、発音的には「I」と同じ「イ」という音を指すため、現在はそちらに統一されて使われなくなっているからだ。それがユベントスにという表記に使われているのは、JUVENTUSという言葉自体が「若者たち」「若さ」を意味するラテン語だから。1897年にクラブを創設したのが、ラテン語を正課とする伝統的な文科高等学校のエリート学生たちだったため、おそらくそのプライドを込めて(あるいは単に気取って)ラテン語の名前をつけたのだろう。


 起源はどうあれ、イタリア語において「J」という文字は非常に稀にしか使われない一種の特殊文字であり、それを頭文字としていること自体、少なくともイタリアでは十分に「特別」なことだ。50年以上にわたってアニエッリ家の当主だった「アボカート」(弁護士)こと故ジャンニ・アニエッリ(クラブの創設者たちと同じ高等学校を卒業している)は「新聞を読んでいてもJで始まる文字を見るだけで心が震える」と語ったほど、この文字に愛着を持っていた。


 この「J」の文字を象徴的に表わした新しいシンボルマークは、「ユベントス」というクラブのアイデンティティを一つの視覚的なイメージとして、シンプルな形で見る者すべてに伝えて行く強い力を持っている。

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最終更新:6/14(水) 19:30
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