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原口元気がイラク戦で味わった屈辱。ベンチで噛み締めた無力感…捲土重来への覚悟

6/14(水) 11:11配信

フットボールチャンネル

 日本代表は13日、ロシアW杯アジア最終予選でイラク代表と対戦して1-1で引き分けた。気温35度を超える酷暑のテヘランで行われた一戦、日本を立て続けにトラブルが襲った。そんな中で自らへの信頼の薄さを嘆く1人の男がいた。試合終了をベンチで見守ることとなった原口元気は、悔しさを押し殺そうと絞り出すように言葉を紡ぐ。(取材・文:元川悦子【テヘラン】)

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●後半立て続けに起きたトラブル…そして最悪の失点

 2018年ロシアW杯アジア最終予選突破に王手をかけるべく、気温35度・湿度10%の灼熱の地・テヘランでのイラク戦に挑んだ日本代表。7日のシリア戦(東京)から中盤を総入れ替えし、右FWに本田圭佑(ミラン)を配置、久保裕也(ヘント)を左FWに回す大胆な陣容変更に踏み切ったこの試合で、彼らは新エース・大迫勇也(ケルン)が開始早々に先制。

 その後、やや全体が引き気味になりすぎる嫌いはあったものの、本田を中心に頭脳的な戦い方を貫き、1-0で前半を折り返すことに成功した。

 後半も大迫とのワンツーから20歳のダイナモ・井手口陽介(G大阪)が前線に飛び出したり、井手口・遠藤航(浦和)・久保のリオデジャネイロ五輪トリオが絡む攻めを見せたり、試合は指揮官のシナリオ通り進んでいるように見受けられた。

 ところが、井手口が後半17分に相手選手の競り合いから頭を強打し、途中交代を強いられてから状況は一変。後半25分にヴァイッド・ハリルホジッチ監督が原口を下げて倉田秋(G大阪)を投入し、2枚目の交代カードを切った直後、アクシデントが立て続けに起きた。

 久保が足のけいれんを起こし、酒井宏樹(マルセイユ)が前々から抱えていた右ひざの負傷を悪化させ、動けなくなったのだ。

「(足に)力が入んなくなったんで…。3分間くらいずっとプレーが切れなくて、切れたらしゃがもうと思ってたけど、それが失点シーンになってしまった」と酒井宏樹は肩を落としたが、動かない足はどうしようもない。

 最後尾に陣取る吉田麻也(サウサンプトン)と川島永嗣(メス)が踏みとどまってくれればよかったが、吉田が足もとに転がったボールをクリアせず、川島にキャッチさせようとした瞬間、アブドゥルラヒーム(8番)に奪われ、最終的にカミル(19番)に同点弾を決められるという信じがたいミスが出た。

「最初の段階で引きすぎていて、ボックス(ペナルティエリア)内の守備になってしまって、我慢するところで我慢できなかった」と吉田は反省しきりだったが、これが致命傷となり、日本は貴重な勝ち点2を失った。

●原口が味わった屈辱。追いつかれる様をベンチで見守る悔しさ

 この屈辱的ドローをベンチで見守ることになった原口は、悔恨の念を拭えなかった。

「ああいう時間帯こそ、自分みたいな選手が……自分を過大評価してるわけじゃないけど、頑張り切れるようなプレーができたと思ってるし、外に出てしまったら何も助けられない。助けられないのがもどかしかったですけどね。別に批判してるわけじゃないし、(倉田)秋くんも素晴らしい選手だし、監督の判断も尊重してるけど、助けたかったのはありました」と背番号8は納得いかない思いを抱えつつ、必死に言葉に絞り出していた。

 実際、試合のターニングポイントは2つあった。ひとつは前述の通り、井手口の負傷。20歳のダイナモも武器であるボール奪取力を出せるようになってきた時間帯だっただけに交代は痛かった。穴埋め役はベテラン・今野泰幸(G大阪)。ボランチのパートナー・遠藤は「今野さんは(自分と)同じボールを奪うタイプなんで違和感はなかった」と言うように、何とか落ち着きそうな気配も感じられた。

 だが、ハリルホジッチ監督が次に切ったカードが明暗を大きく分ける。最終予選最多得点を誇る原口を「疲れている」と下げたことで、交代カードを1枚使ってしまったのだ。このタイミングが早すぎたため、久保と酒井宏樹が痛んでもどちらか1人しか代えられなくなった。

 久保は立っているのが精一杯。本来の推進力は影を潜めた。指揮官の采配ミスと言わざるを得ない判断だった。こうして次々と後手後手を踏むチームを目の当たりにしつつ、原口は「自分はまだいけたのに…」という割り切れない思いが募ったようだ。

「代えられた理由? 点を取ってないからじゃないですか」

 吐き捨てるように言った彼からは、自身に対する指揮官の信頼の薄さに対する苛立ちが垣間見えた。昨年9月のタイ戦(バンコク)から4試合連続得点を奪い、前半戦のけん引役になったことで「自分がチームを引っ張っていくんだ」という気概は誰よりも強かった。だが、3月のUAE戦(アルアイン)・タイ戦(埼玉)の2連戦で久保が台頭し、今回のイラク戦で大迫が先制点を挙げると、原口の序列が低下した印象も強かった。

 やはりFWは得点できなければ存在感が薄くなる。ヘルタ・ベルリンのようにハードワークや献身的守備を買われて使われている環境とは違い、代表では点取り屋として期待されている。この日はトップ下に入ったものの、求められていたのは、ゲームメークではなく得点だった。

●「積み上げてきたものを勝って証明したい。必ず強い日本を見せたい」

 後半21分の左足ミドルシュートを筆頭にチャンスは確かにあった。それを決めていれば、20分を残してベンチに下げられることもなかっただろう。昨年11月のサウジアラビア戦(埼玉)で後半35分に決勝弾を挙げている通り、走力の高さが売りの原口には終盤の勝負強さもある。そこを評価してもらえなかった悔しさ、不完全燃焼感など、彼の中ではさまざまな感情が渦巻いたに違いない。取材エリアに現れた原口はこれまでにないほどの苦渋の表情を浮かべていたのだから。

 かつての中田英寿や本田のように日本代表の絶対的エースと認められたいと思うなら、苦しい時にチームを救うような明確な結果が求められてくる。W杯最終予選前半戦でブレイクした原口はその責務をよく理解しているはず。それだけの力をコンスタントに出すためには、所属クラブでのゴールも必要だ。

 今季ヘルタでは1ゴールに終わった彼は来季、新天地に赴く可能性が極めて高い。その舞台になると見られるイングランド・プレミアリーグには傑出した点取り屋がゴロゴロいる。ドイツのマインツ時代に2シーズン連続二桁得点を記録した岡崎慎司(レスター)でさえ、昨季5ゴール、今季3ゴールと思うように数字を伸ばせていない。移籍先のスタイルにもよるが、ゴールというハードルはより一層高くなる。

 そこで絶対的な地位を得られなければ代表での立場も危うくなりかねない。W杯最終予選ラスト2試合が行われる8~9月は来季開幕の直後。昨年はヘルタでトップフォームを維持していたが、同じ状態で新たなシーズンを迎えられる保証はない。この時期の欧州組はコンディションが万全でないケースが多いだけに、原口も覚悟を持って2ヶ月後を迎えなければならない。

「悔しかったですけど、次(8月のオーストラリア戦)に勝って決められるし、グループ首位なんで、全くネガティブではない。今日は当然勝ちたかったけど、今まで積み上げてきたものを次の試合で勝って証明したい。必ず強い日本をホームで見せたいです」という言葉を現実にすべく、イラク戦の屈辱感を大きな飛躍へのバネにしてほしい。

(取材・文:元川悦子【テヘラン】)

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