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ハリルJ、“ぶっつけ本番”が裏目に。2列目のテコ入れは逆効果。プランの整合性への疑問符【識者の眼】

6/14(水) 11:56配信

フットボールチャンネル

 13日、2018年ロシアW杯アジア最終予選のイラク-日本戦が行われ、試合は1-1のドローに終わった。7日のシリア戦から布陣を変えてきた日本代表。特に2列目の配置は初めての並びとなったが、結果としてこれはマイナス面のほうが大きかった格好に。公式戦に向けた準備の整合性に疑問符が付いた。(文:河治良幸)

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●ベストとは言えない選択。左サイドの攻撃にマイナス面が大きく

 極論を言えば勝ち点3をもぎ取れば称賛され、勝ち取れなければ批判されても仕方ない、そういうシチュエーションの試合だった。そこで勝ち取ることができなかった。

 過酷な試合環境の中で後半の途中までリードを守り、終盤に差しかかった時間帯で1つの判断が明暗を分けることになったが、89分貢献したからそこは仕方ないでは済まないミスだった。

 勝ち点1は獲得した。もちろん次のオーストラリア戦に勝てば本大会の出場が決まるという状況に変わりはなく、悲観する必要は無いが、ハリルホジッチ監督がこのイラク戦で取った選択がベストとは言えない。

 1つが2列目の配置だ。前日練習の情報からスターティングメンバーが出た時点で右から本田圭佑、原口元気、久保裕也という並びを確定的に予想するメディアが多く、実際にそうなった。

 しかし、ロジックとして適切かと言えば疑問に思うファンも少なくなかったのではないか。大迫勇也の後ろに原口を配置し、“縦の2トップ”にして前からの守備とボールを奪ってからの縦の推進力を確保する。

 そこに左サイドから右利きの久保を絡めて高速型のフィニッシュを狙うという意図は明確だ。前半25本に原口と久保のワンツーから突破しかけたのはこの布陣の1つの成果だろう。しかし、左サイドの攻撃に関してはマイナスの方が大きかった。

 これまでアウェイの試合を含め、日本の強みになってきたのが左サイドだった。しかし、このイラク戦では左からの攻撃が全く機能しなかった。

 これまでは原口を起点に長友佑都が絡んでサポートし、時に追い越してクロスにつなげるという形があり、シリア戦では途中から乾貴士が入ることで新たなアクセントが生まれた。

 しかし、この日の久保と長友の関係から攻撃面のメリットはほとんど生まれなかった。

●インサイドに選手が密集。幅を取った攻撃はできず

 1つの問題点は久保がつなぎの段階から中寄りにポジションを取りすぎていたこと。ウィングの選手がポジションに幅を取るのは現代サッカーの定石だが、久保は右サイドの時よりも常に中に入り込み、相手のディフェンスを中に集めてしまった。

 そこから一度起点になり、大外に長友を走らせるプレーなどを絡めれば違った揺さぶりになったが、そういうシーンもほとんど無かった。長友が相手の最も危険なアタッカーであるヤシーンと対峙していたこともあるが、なかなか攻め上がるタイミングを取れなかったのは従来の“トリガー”になる選手が同サイドにいなかったことが大きい。

 もちろん中盤がボランチも含め、いつもの構成と違っていた影響もある。遠藤航と井手口陽介の若いコンビはボールを追い、そこから積極的に高い位置を取るプレーに強みを出していた。

 自陣に引いた状況ではDFラインの手前でロングボールを跳ね返すプレーも目立ったが、中盤にためを作る役割はほとんど果たせず、攻撃の起点が前線の大迫と右の本田のところに偏ってしまった。

 左利きの本田が右から中央に流れっぱなしになったのも、そうした状況を良くしようというイメージからだろうが、ポゼッションをベースに両SBが高い位置を取り続けられる状況ではない中で、左の久保も右の本田も中央に寄ってしまう現象は完全に攻撃の幅を狭めてしまった。

 もともと中盤で細かくボールを回すタイプのチームではないが、縦志向の強い攻撃の中にも左右のサイドで幅を取りながら、攻撃に厚みをかける基本イメージは共有されていた。

 しかし、このイラク戦はカウンター志向が強まる中でも幅が狭すぎ、そこにSBの攻撃参加を有効に使うことができなかった。

 後半途中に右に生じていたスペースを生かして酒井宏が攻め上がるシーンは何度か見られたが、それも攻撃が中央に寄っていた副産物であり、そこで得たチャンスもものにすることができなかった。

●試合中の布陣変更もなし。プランの整合性に付いた疑問符

 1つの解決策としては前半の途中に2列目の並びを変更することもできた。久保を右、本田を中、原口を左という配置だ。守備のリスクはそれほど無く、攻撃に幅を持たせることができたはずだ。

 指揮官は過酷な状況でコンディションも見ながら、攻守に走れるメンバーをチョイスしたのだろう。前半途中あるいは後半の早い時間帯に追加点を奪うプランから考えれば、攻撃面に効率性を欠き過ぎた。

 もちろん2人のけが人が出なければ、後半に乾貴士や岡崎慎司を選択することもできたはずで、そのプランがアクシデントで崩れてしまったことは確かだ。

 それでもセットプレーで得たリードを守り切ってしまっていれば、勝ち点3という結果を持ち帰ることができたわけだが、シリア戦から一気に環境が変わるにしても、計画性を欠いていたことは否めない。

 突き詰めて問題点を問うなら、これだけ試合環境が変わるテヘランでの試合に向けて、ホームでテストマッチを行うことにどれほどの意味があったのかということになってくるが、そこはハリルホジッチ監督の権限を超えてくる。

 与えられた条件の中でどれだけの効率よく準備して公式戦に臨めるかという意味でも、プランの整合性に疑問符が付いた。

 収穫は1つ間違えば敗戦のリスクもある状況の中で勝ち点1を獲得したこと。若い選手も含め、チームがこのようなタフな試合をまた1つ経験できたことだ。脳しんとうを起こした井手口や足を負傷した酒井宏は心配だが、選手たちは次のオーストラリア戦に向けてクラブで成長し、コンディションを高めて代表チームに集まってくることを期待する。

 そこには怪我で今回のシリーズを欠場した長谷部誠キャプテンやシリア戦の怪我で離脱した香川の姿もあるだろう。

 今回のイラク戦は最終予選のここまでの8試合で最も過酷な環境だったことは間違いないが、サウジアラビアの“完全アウェイ”となる最終戦はさらに厳しいものとなる。

 その前にホームのオーストラリア戦できっちりと勝利し、本大会の切符を掴んでサウジアラビアに乗り込む。そのために良い意味で仕切り直し、この苦い経験を歓喜につなげてもらいたい。

(文:河治良幸)

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