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保守党大敗の英国総選挙。「歩く屍」と英紙で酷評されたメイ首相の行く末

6/14(水) 9:00配信

HARBOR BUSINESS Online

<「一人歩く女性の屍(a dead woman walking)」>だと、6月11日付ロンドン紙『Evening Standard』で表現したのはキャメロン前首相の政権下で財務省を務めたジョージ・オズボーンである。それはメイ首相を指しての表現であった。更に彼の記事は、<メイ首相は数日内に辞任に追い込まれるであろ>と指摘した。

 キャメロン政権が順調に進んでいれば、オズボーンは同首相の次期後継者と目されていた。しかし、Brexitの勝利で、キャメロンは辞任。オズボーンはメイ首相から信認を得ることが出来ず、入閣を果たせなかった。そして、彼は今まで経験したことのない報道分野に籍を置くことを決め、『Evening Standard』の編集長に就任したのである。

 その彼が、今回の総選挙の結果、メイ首相が首相のポストを今後も維持することは不可能であるということを述べたのである。

 労働党のコービン党首も<英国人は数か月以内にまた投票するようになる>と述べたことをスペイン紙『El Pais』が6月11日付にて報じている。

 スペインの主要紙はどこも次期総選挙のことになると、保守党内ではメイ首相が次期選挙の指揮を取ることは望まないという意見が主流を占めていると伝えている。即ち、それはメイ首相の首相としての任期は間もなく尽きるということを意味する。

◆四面楚歌となったメイ首相

 メイ首相はもともと日和見主義者で、首相になる数日前までBrexit に反対していた人物である。ところが、キャメロン首相から後継者として指名された途端に、Brexit支持者に変身。しかも、党内のHard Brexit支持派議員の影響を受けて、彼女もHard Brexitを主張するようになった。

 そして、Hard BrexitをEUとの交渉で押し通すには議会で保守党の議席数が圧倒的に優位に立つことが必要であり、また選挙で圧倒的な勝利を収めれば、彼女自身の地位も党内で盤石としたものになる。そのような構想を描くことが出来たのは、保守党と労働党の支持率の開きは20ポイント以上あったからである。

 この両党の支持率の開きに基づいて、次期総選挙まで3年の余裕があるのに、敢えて総選挙に踏み切ったのであった。その結果はメイ首相が期待していたのとは180度反対で、保守党は過半数の議席を失い、彼女が今後も党首として存続して行くことに党内で不信が生じるのである。

 世論調査「Conservative Home」によると、<保守党党員1503人からの回答で、59.5%の党員は彼女は辞任すべきだ>という意見で、一方<36.6%が彼女がまだ継続すべきだ>という意見に分かれていることを報告している。彼女は辞任すべきだという意見が過半数を超えているということは考慮されるべき指標である。(参照:「El Confidencial」)

◆後任として名が挙がるのはあの男

 首相の立場が党内で盤石でない状態で、EUとのBrexitの交渉に臨むことは危険で、党内で交渉内容に意見が分かれる可能性は充分にある。しかも、彼女が主張しているHard Brexitを交渉の席で押し通すのは現状の保守党の過半数に満たない状態では尚更不可能である。

 しかも、Brexit が撤回されない限り、2019年3月29日には英国はEUから離脱することが決まっている。それまでに英国とEUとで<759の合意>が必要だとされている。その為の交渉には英国民を説得できるだけの安定した政権が必要であるが、今回の総選挙でその政権は姿を消してしまった。(参照:「El Confidencial」)

 一部閣僚の間でもメイ首相に対し、今後も彼女を支持して行くには<Brexit を最も柔軟性を持たせたものに変えるように>という条件を出しているそうだ。その一人は経済相のフィリップ・ハモンドである。(参照:「RTVE」)

 その一方で、メイ首相の後任が誰に成るかという話題も生まれている。その最右翼はボリス・ジョンソン外相である。彼は常にキャメロン首相のライバルとされていた。ジョンソン外相は<100%メイ首相を支持して行くこと>を既に表明している。

 今回の英国総選挙の結果、英国とEUの交渉開始及び離脱日を遅らせる必要があるという意見も生まれている。それにはEU27か国と英国とで、その為の事前の合意が必要とされる。しかし、北アイルランドの民主統一党(DUP)の議席を合わせて過半数を満たすような英国政府ではEUとの厳しい交渉に臨むことは不可能である。仮に交渉の席についても、その交渉内容が英国議会で承認されない可能性は十分にある。

◆若者の支持に欠ける保守党

 恐らく、保守党内でメイ首相が辞任して、後任首相に誰かが決まっても、コービン党首が指摘しているように、新たに総選挙が必要であろう。極端に言えば安定政権が誕生するまで総選挙を繰り返して行かねばならないかもしれない。

 今回の総選挙で労働党は35歳未満の有権者から圧倒的に票を獲得している。その極端な例は<18-24歳の若者の間では57%が労働党に票を入れ、保守党には僅かに18%しか投票してしていない>のである。(参照:「El Confidencial」

これが意味するのは、多くの若者はBrexit を望んでいないのである。仮に、望んでいたとしても、それは柔軟性を持ったSoft Brexit であって、メイ首相が唱えるようなHard Brexit ではないということである。

 Brexitが決まった国民投票の「Leave」 と「Remain」の差は僅かに83万票であった。「Leave」が勝利した要因は、「Remain」を圧倒的に支持する多くの若者が投票しなかったことが理由になっていることは公然の事実となっている。この若者の存在を無視しての総選挙での勝利はあり得ないのである。その意味で、メイ首相がHard Brexitを主張する限り、保守党の圧倒的な勝利はあり得ないのである。

<文/白石和幸 photo by Policy Exchange via flickr (CC BY 2.0)>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

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最終更新:6/14(水) 12:47
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